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難病ALSを支援する元CBCアナ 「みんなでゴロン」イベント10年目

平野裕加里さん(中央)とALS患者=平野さん提供
平野裕加里さん(中央)とALS患者=平野さん提供

 体が動かないとはどういうことだろうか。床にゴロンと寝っ転がり、天を見上げる。5分間、基本的に動いてはいけない。

「汗が流れてきても拭えない」「かゆくてもかけない」「背中が痛くても姿勢を変えられない」。体験した人の感想はさまざまだが、難病を患い生きている人たちの日常でもある。

「みんなでゴロンしよう!」は、会場に集まった人たちが5分間、じっと動かないでいる時間を共有するイベントだ。難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の存在を広く知ってもらおうと、6月21日の「世界ALSデー」に合わせて開催している。

 企画した元CBCアナウンサーの平野裕加里さんは「自分以外の人の生活や気持ちに思いを寄せることで、共感の輪を広げていきたい」と話す。病への理解を深め、支援の輪を広げる活動は10年目。一般社団法人日本イベント産業振興協会(JACE)が国内外の優れたイベントを顕彰する「第10回JACEイベントアワード」の部門賞にも選ばれた。

 ALSは、手足の筋肉から呼吸機能まで、筋肉の動きを司る運動神経細胞が徐々に失われていく病だ。宇宙物理学者、故スティーブン・ホーキング博士もALS患者として知られていた。首を支える筋肉が弱り、車いすで寝たきりのように生活をする患者もいる。完治する方法は見つかっておらず、日本に1万人の患者がいると言われる。

 平野さんがALS患者と出会ったのは2015年のこと。大学時代にパナマのジャングルで3カ月生活したこともある平野さんは、フリーアナウンサーとして活動する傍ら、「自分が知らない新しい世界を知ろう」と、さまざまな分野の人をゲストとして呼ぶイベントを開催していた。その中に、ALS患者がいた。

「『みんな、治らない病気でいつか死ぬ。みんなと僕は一緒だよ』と言われたんです。ALSの患者は筋肉が弱くなると、だんだん表情がなくなっていく。何を考えているかわからないのですが、一歩踏み込んで話すと、気づかされることがたくさんありました」

 平野さんは、病について発信するイベントを開催したくても、体が動かないためにできないと思っている患者の存在も知り、「動ける私がやろう。家族にALS患者がいるわけではないからこそ、小さなことから発信できるはず」。

 15年6月に第1回を開催。コロナ禍の20年と21年はイベント開催を中止したものの、特別番組を制作して東海テレビで放送した。来場者数は22年に最多の約2500人に達し、今年も6月9日に開催する。イベントでは「みんなでゴロンしよう」体験のほか、ALS患者らによるトークセッションや福祉機器の展示もある。毎回会場で集まった30万円近くを支援団体らに寄付している。

 平野さんは「ALS患者は自発呼吸が難しくなると、人工呼吸器をつけるかどうか選択を迫られます。でも、多くの人は呼吸器をつけずに亡くなる。普段の生活にはサポートも必要で、人前に出る勇気もいる。一人でも多くの人に関心が持たれることで研究が進み、治る病気になることを願って続けていきたい」と話している。(山本浩資)

■「世界ALSデー in NAGOYA みんなでゴロンしよう!」

6月9日(日)11~17時、愛・地球博記念公園モリコロパーク内「地球市民交流センター」屋内広場(愛知県長久手市茨ケ廻間乙1533-1)。入場無料。詳細はhttps://goron.jp/

<サンデー毎日6月16・23日合併号(6月4日発売)より>

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