経済・企業商社の深層

高齢者とAIを結びつける三井物産の社内起業第1号=編集部 商社の深層/125

    AIスピーカー「グーグルホーム」を持つボイスタートの回谷信吾社長
    AIスピーカー「グーグルホーム」を持つボイスタートの回谷信吾社長

    3500万人を超えた日本の高齢者(65歳以上)とAI(人工知能)を結びつけるという発想は、20~30代をターゲットとするIT企業からはなかなか出てこない。そこに目を付けたのが三井物産が中途採用した45歳の商社マン、回谷(かいや)信吾氏。この10月から神奈川県鎌倉市で実証試験に乗り出した。

     回谷氏は今年7月に設立した「ボイスタート」で社長となり、米グーグルのAIスピーカー「グーグルホーム」を活用して音声だけでイベント情報の入手、会話や見守りサービス、防災情報の提供などを始める。三井物産が2017年に創設した社内起業制度第1号案件だ。

     三井物産はAIスピーカーのアプリ開発をできる東証1部のIT企業「チェンジ」とボイスタートを設立し、チェンジが以前からIT分野で協力関係のあった鎌倉市で実証試験をスタートすることになった。まずは市の協力を得て、60~70人のシニアを対象に1カ月の実証試験を行い、早ければ来年1月にも鎌倉市や神奈川県で実際のサービスに乗り出す。

     AIスピーカーはシニア世代に特化したアプリがまだ少ないため、鎌倉市で試験的に利用する人のアカウントでボイスタートのアプリが使えるように設定。イベントや防災情報の提供のほか、音楽やカラオケ、落語など娯楽情報の提供、声のトレーニングなどの健康増進、薬を飲む時間のお知らせなど7分野のサービスを提供する。

     自治体側は、認知症予防や医療費の削減、孤独死の削減などにつなげたい考えで、チェンジがアプリの開発を担当し、三井物産は7分野で協力できる企業を仲介する。

    地元のシニアも採用

     AIスピーカーは、スマートフォンもパソコンも苦手なシニアにとって使いやすいものの、使い方や設置などのハードルは高い。そこでボイスタートでは、応募があったシニア13人が設置作業や使い方の説明にあたるという。回谷氏は、「この仕組みを広げ、将来は地域の雇用創出にもつなげたい」という。今回は鎌倉市の協力で無料サービスとして提供するが、実際のサービスでは、月額1000~3000円の利用料を考えているという。約6500円のグーグルホームも買い取ってもらう。

     ターゲットと考えるのは「高齢者3500万人の1%前後、1万人程度を一つの目標にしたい」(回谷氏)という。

     回谷氏は2010年に三井物産に入社した中途採用組で、会計士、米大学院、自動車会社の人事部、私募ファンドなどを経て30代後半で三井物産に入社。ICT事業本部の所属で、企業の経営支援などを担当してきた。

     17年に創設された物産の社内起業制度には20人が応募。今年6月の株主総会で、株主から同制度の質問を受けた安永竜夫社長は、「案件を選んだというより人間を選んだ」と語っていた。

     回谷氏は、「AIスピーカーで提供できるサービスは多業種にわたる。だからこそ多様な企業と接点がある商社がつなぐ意味がある」という。AIスピーカーが提供する多様なサービスは、特定の企業や業界の顧客情報だけでは広がりに限界がある、というわけだ。

     週4日は鎌倉市に行く回谷氏。「シニアの方々がAIスピーカーにどんなふうに話しかけているかを目の当たりにしている」と語り、個人情報活用の許諾を受けたうえで、ここで得られたデータの活用も次の展開に生かしていく。

     ボイスタートの資本金は4500万円。三井物産が77・8%、チェンジが11・1%、回谷氏自身も数百万円を出資した。商社が手がける資源やインフラ投資の金額に比べると3ケタも4ケタもサイズが小さいが、「総合商社の持つポテンシャル、多様なサービスを具体化できる経営資源とネットワークが商社にはある、ということを示したい」(回谷氏)という。

    (編集部)

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