米中貿易戦争 再燃が避けられない理由=坂東賢治
ブエノスアイレスで開かれた主要20カ国・地域(G20)首脳会議が閉幕した12月1日、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が夕食を取りながら会談し、米国が来年1月に予定していた追加関税率の引き上げを90日間凍結することで合意した。米中貿易戦争の「一時休戦」と受け止められたが、米ブルームバーグ通信(12月3日)が「戦争の終わりではない」と指摘するなど楽観的な見方は少ない。
会談を前向きに捉えたのは中国メディアだ。人民日報系の国際情報紙『環球時報』の社説(12月3日)は「一時休戦は(米中)双方が貿易戦を終わらせる方が続けるよりも有利だと認識したことを示す」と評価し、90日間に「双方が受け入れ可能な妥協を作り出すことは可能だ」と指摘した。米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の社説(12月2日)も「一時休戦は経済にも米国の労働者にも良いニュースだ」「より重要なことは双方が経済冷戦は利益にならないと認識したように見えることだ」と評価した。中国は自国経済の停滞を懸念し、トランプ氏は再選戦略の上で経済成長が欠かせないと考えているとの解説だ。
ただ、欧米メディアの多くは首脳会談で中国が得たものは少ないと見ている。英『フィナンシャル・タイムズ』紙(12月3日)は米側の発表に基づき、「中国は、もし全面的に実行された場合、制度を根本的に変えるような譲歩リストについて米国と協議することに合意した」と位置づけた。技術移転の強制や知的財産権保護、サイバー攻撃などについて協議に応じたと米側が発表したことを指す。
米中の思惑にズレ
合意内容に関する米中の発表には当初、ズレがあった。米側は中国が農産品やエネルギー、工業製品などの巨額な輸入にも応じたと明らかにしたが、会談後に記者会見した中国の王毅国務委員兼外相は90日間という期限に言及せず、合意した協議のテーマや輸入拡大の具体的な対象にも触れなかった。
米戦略国際問題研究所(CSIS)のグレイザー上級研究員はCNN(12月4日)に「習氏が国内に譲歩したと伝えたくないことは理解できる」と評する一方、「合意内容について、なお大きな誤解の余地や不確定性があるのではないか」と米中の思惑の違いがズレにつながった可能性を指摘した。
中国にとって米国からの輸入増大や関税の引き下げは比較的妥協しやすいテーマだ。ただ、構造改革要求ともいえるような米国の圧力で国内制度を変えることは難しい。フィナンシャル・タイムズ紙(12月3日)は「習氏が中国経済の大幅な改変に応じ、実行することは事実上不可能だ」と断じ、2月末に貿易戦争が再燃するのは不可避と指摘した。
グレイザー氏は「中国は米国が受け入れ可能な水準まで要求を引き下げることに期待している」とも指摘するが、トランプ氏は対中強硬派のライトハイザー米通商代表部(USTR)代表を対中交渉の責任者に指名し、安易な譲歩には応じない姿勢を示している。
シンガポール国立大学の鄭永年教授は12月2日の講演で「貿易戦争は永遠に終わらない」としつつ、「中国が自らドアを閉ざさない限り、資本は中国市場を放棄しない」と述べ、中国が3カ月の間にいっそうの制度改革、対外開放計画を示すべきだと提言した。
米国は今回、目の敵にしてきた中国のハイテク技術振興政策「中国製造2025」には直接、触れていない。中国が日欧も求める知的所有権保護策などでどこまで米国の要求に応じられるか。米中貿易戦争の行方を決めるボールは中国側にあるといえるだろう。
(坂東賢治・毎日新聞専門編集委員)