国際・政治 新型コロナ・パニック
新型コロナ感染追跡で活躍?!中国が推進するAI技術&監視カメラの実態(前編)=遠藤誉
新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。
政府は全国の小中高校について休校を要請。だがしかし、あまりに突然の決定であり、疫学的根拠も示されなかったことから、逆に大きな批判にさらされることになりました。
マスク不足のほか、トイレットペーパーなど日用品の買い占め行動も報告されるなど、日本社会は混乱が続いています。
その一方で、「震源地」の中国では、必死の押さえ込み作戦が功を奏し、患者数の増加に歯止めがかかってきました。
中国ではAIによる診断や感染マップ作成のほか、患者の行動追跡に監視カメラを活用しているとも言われています。
新型コロナ対応において、日中の「技術力」の差が明らかになっているのか。
それとも中国の「技術力」には「裏」があるのか。
米中間の「ハイテク技術戦争」の舞台裏を報告した書籍『米中貿易戦争の裏側』(遠藤誉著、毎日新聞出版刊)より一部抜粋をお届けします。
学術雑誌 Nature(ネイチャー)が認めた! 中国のAI
イギリスの学術雑誌 Nature(ネイチャー)は8月21日(2019年)、“Will China lead the world in AI by 2030?”(中国は2030年までに世界のAIをリードするか?)というタイトルの報告書を発表した。
報告書には2つの注目すべき点がある。
まず1つ目は、「中国のAI研究の質は上昇しているが、しかしコアの技術はまだ遅れを取っている」という点だ。
たとえば、「世界で最も多く引用された10%のAI研究論文のうち、中国人研究者のシェアが上昇しており、2018年で26・5%に達し、アメリカの29%に追いつこうとしている」と書かれている。
中国研究者の論文の平均引用数は世界平均を超えているが、アメリカ研究者よりはまだ少ない。但し、その推移を見ると、アメリカが下降傾向にあるのに対して、中国は2010年以降、上昇傾向にある。
AIのコアのツールにおいて、中国はまだ遅れを取っている。例えばアメリカにはTensorFlow と Caffe があり、世界中で工業・学術を問わず広く応用されている。
中国にはBaidu の PaddlePaddle があるが、主にAI製品の快速開発に使われているだけである。
中国のAIハードウエアもまだ遅れを取っている。世界でもっとも優れたAI半導体チップは NVIDIA(エヌビディア), Intel, Apple, Google, AMD などで製造されている。先進的なAIシステム用のチップをデザインする知識は、中国にはまだ足りない。
中国が、アメリカやイギリスのような基礎理論とアルゴリズムの技術革新レベルに達するには、あと5~10年は必要だが、それは実現可能だろうと論じている。
2つ目の注目すべき点は「AI人材」である。
2017年年末の集計で、中国のAI人材数は世界2位の1・82万人で、1位はアメリカの
2・9万人である。しかしトップレベルの中国のAI人材数は世界第6位と、かなり低い。
2009年~2019年におけるAI五分野(人工知能、コンピュータビジョン、機械学習&データマイニング、自然言語処理、情報検索)から評価した世界のトップ20の大学・研究所には清華大学(2位)、北京大学(5位)、中国科学院(6位)、香港科技大学(14位)がランクインしている。その意味では今後の可能性は小さくない。
AI顔認識監視カメラ「世界一」に見る中国の本音
しかし、話が顔認識を中心としたAIの活用となると、状況はガラリと変わってくる。特に監視カメラの中国における活用度と規模は世界一だと言っていいだろう。
監視カメラの設置台数に関して中国政府自身は決して明らかにしようとはしていないが、よく知られているデータとしては、IHS マークィットが2016年に出した1・76億台という数字を上げることができる。もっとも、この段階はまだ「かわいいものだ」と言っていいかもしれない。
それでも2億台近い監視カメラが中国の街中に張り巡らされていることを知った世界の人々は、中国が突き進む監視社会の現状と未来像に驚愕し危機を感じた。
人民の私生活をまで監視して、ほんのわずかでも政府転覆を狙う者の動きを察知する。その兆しを見つけた者は、直ちに中国政府に報告せよと指示を出ているのが「国家情報法」だ。
それほどに習近平は「人民の声」を恐れている。ここまで情報のIT化が進み、世界の現状を知ることができるIT環境の中で生きている中国人民にとって、西側世界の価値観に触れさせず、閉ざされた情報の監獄の中に人民を閉じ込めておくことなど、もうできないのである。
だから政府転覆の兆しや民主化を望む「中国政府にとってのスパイ」を発見したら、必ず政府に報告する義務を全ての中国人民は負っていることを強圧的に知らしめたのが「国家情報法」の精神なのである。
この事実を直視しない限り、建国70周年という、最も平和裏に記念祭を挙行したい習近平政権が、なぜ敢えてこの年に「逃亡犯条例改正案」などを香港政府に通させようとしたか、理解に苦しむだろう。この根幹と「国家情報法」との因果関係を理解しない限り日本国民を誤導していくだろう。 (書籍『米中貿易戦争の裏側』より一部抜粋)