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新型コロナ感染追跡で活躍?!中国が推進するAI技術&監視カメラの実態(後編)=遠藤誉
新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。
政府は全国の小中高校について休校を要請。だがしかし、あまりに突然の決定であり、疫学的根拠も示されなかったことから、逆に大きな批判にさらされることになりました。
マスク不足のほか、トイレットペーパーなど日用品の買い占め行動も報告されるなど、日本社会は混乱が続いています。
その一方で、「震源地」の中国では、必死の押さえ込み作戦が功を奏し、患者数の増加に歯止めがかかってきました。
中国ではAIによる診断や感染マップ作成のほか、患者の行動追跡に監視カメラを活用しているとも言われています。
新型コロナ対応において、日中の「技術力」の差が明らかになっているのか。
それとも中国の「技術力」には「裏」があるのか。
米中間の「ハイテク技術戦争」の舞台裏を報告した書籍『米中貿易戦争の裏側』(遠藤誉著、毎日新聞出版刊)より一部抜粋をお届けします。
「天網恢恢疎にして漏らさず」―監視カメラからは逃れられない?!
「国家情報法」を発布した2017年末日、習近平は「中共中央一号文件」として「雪亮工程」を発布した。
公式に発布されたのは2018年2月だが、そもそもこの工程に着手することを宣言したのは2012年11月の第18回党大会においてである。
中国には胡錦涛政権時代の2005年から「天網工程」というのがあった。
これはもともと「天網恢恢(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず」(天の神が地に張り巡らした網は、ゆったりして粗いようであるが、決して漏らすことはなく、それに搦め捕られる)という言葉から来ている。
が、実際上は、中国人民の全ての行動を「天から監視する」という意味で、この時から監視カメラが全国のあちこちに張り巡らされるようになった。
2017年の「雪亮工程」は「雪に照らされたように地面から全てを監視する」という意味だ。
だから同時に発布された「国家情報法」は「家の中に隠れても無駄だよ。すべて摘発するからね。山中だろうと隠れ家だろうと、全ての不穏分子の情報を国家に出しなさいよ」という位置づけなのである。
2019年2月、ハイテク産業マーケット調査会社 IDC(International Data Corporation)は、2022年までに中国は27・6億台の監視カメラを中国全土に張り巡らし、13億以上(約14億)の人民すべてに1人につき2台の監視カメラで監視するようになるだろうと予測している。
習近平はそれを貫徹するために300億ドル(約3・15兆円)を注ぐだろうと言われている。
世界の顔認識サーバーの4分の3を中国が購入?!
RFA(Radio Free Asia)もまた、2022年までに中国人民1人につき2つの監視カメラが配置されるのだったら、中国は世界最大の監視カメラ市場となるだろうと述べ、IHSマークィットは世界の顔認識サーバーの4分の3は中国が購入するだろうと予測している。
一方、日本のハイテク産業に関する調査会社テクノ・システム・リサーチは2016年、世界の監視カメラのシェアに関して興味深い分析を出している。
当時は全世界の出荷台数が4453万8千台と母数が小さいが、そのうち中国の国有企業「杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン/HIKVISION)」は世界トップで32・3%のシェアを占めていると報告している。
ハイクビジョンは国有企業の中でも「央企(ヤンチ―)」と呼ばれる中央政府が管轄する百社ほどの国有企業の中の一つだ。
トランプがファーウェイの次に潰しに掛かるのはハイクビジョンだろうと言われていたが、案の定、米商務省は2019年10月7日、ハイクビジョンや公安機関など28団体・企業をエンティティ・リストに追加した。
中国政府によるウイグル族などイスラム系少数民族への弾圧に関与していることが理由だとしている。
注目すべきはその中に書籍『米中貿易戦争の裏側』の第二章で述べたAI国家戦略指定企業BATISの中のアイフライテックとセンスタイムが入っているということだ。
特にセンスタイムはAI顔認証に関して世界のトップに躍り出た企業で、2014年9月に香港中文大学の湯暁鴎教授が創立した。
2018年9月に日本のソフトバンクが10億ドルも投資し、2019年9月6日には、企業評価75億ドルを突破して、AIを手掛けるスタートアップ企業として世界最大となった。そのAIトレーニングチップは、業界をリードするアメリカの NVIDIA の製品を補完する可能性があるという。
なお、ソフトバンクの孫正義氏は、清華大学経済管理学院顧問委員会の委員の一人で、習近平のお膝元にいる。
そして香港デモ参加者がマスクで顔を覆っているのは、世界トップを行く顔認証技術を生み出した香港中文大学のセンスタイムが関係する監視カメラから逃れるためなのである。何という皮肉であろう。
(書籍『米中貿易戦争の裏側』より抜粋)