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経済・企業 スクープ

変えられていた積水ハウス取締役会規則

積水ハウス大阪本社
積水ハウス大阪本社

 不動産取引をめぐる詐欺事件、いわゆる地面師事件をきっかけに会社のガバナンス(企業統治)について問題点が指摘されている積水ハウスで、取締役会規則が通常とは異なる形に変更されていることが明らかになった。編集部が入手した資料で、積水ハウスの取締役会の「招集権者」と「議長」がそれぞれ会長の阿部俊則氏と副会長の稲垣士郎氏の個人名になっていることが分かった。 一般に、議長や招集権者は「会長」や「社長」など業務執行上の役職で規定されている。役職が変われば、取締役会での役割も変わるのが普通で、日本の上場企業で個人名が記載されているのは極めて珍しい。特定の人物に取締役会での権限を長期に集中させることが可能になり、企業法務の専門家らからは、ガバナンスの強化という時代の流れに逆行している、との声が出ている。

地面師事件の影

 積水ハウスをめぐっては前会長の和田勇氏と現職の取締役である勝呂文康専務執行役員が、2月17日に現経営陣の「ガバナンス不全」を指摘して取締役会の総入れ替えを求め「株主提案」を行った。現在、株主総会に向けてプロキシファイト(委任状争奪戦)が展開されている。

 編集部が入手した「積水ハウス取締役会規則」を見ると、第7条に示された「招集権者」には「取締役会は阿部俊則取締役がこれを招集する」、第9条に示された「議長」には「取締役会の議長は稲垣士郎取締役がこれにあたる」と記載されている。

 もともと積水ハウスでは、招集権者も議長も「会長」が担っていたが、2018年1月24日の取締役会で改定された。同日の「取締役会議事録」によれば、取締役会規則は「第3号動議」によって、議長は「稲垣取締役がこれにあたる」とされ、招集権者は「第4号動議」により「阿部取締役がこれを招集する」とされた。以後、取締役会規則は改定されていない。

 日本取引所グループの取締役で、コーポレート・ガバナンスに詳しい久保利英明弁護士は「個人名で招集権者や議長が規定されているのは上場会社では聞いたことがない。ガバナンスの思想からはかけ離れており、株主を無視する独裁者の振る舞いと映る」と指摘している。

 実は、同日の取締役会では、前会長の和田勇氏が辞任に追い込まれる“クーデター”があった。17年に発覚した地面師事件の責任をめぐって、当時会長の和田氏と、当時社長(現会長)の阿部氏、当時副社長(現副会長)の稲垣氏らが激しく対立したことが一因だった。

 取締役会の冒頭で、同社の地面師詐欺事件を調査した調査対策委員会の委員長で、積水ハウスの監査役である篠原祥哲氏が「阿部社長には業務執行の最高責任者として大きな責任がある」と指摘していた。

 また取締役会に先立ち、積水ハウスの人事・報酬諮問委員会では阿部氏の社長解職が議決されており、その答申を受けて和田氏は阿部氏を解職しようとしたところ、逆に和田氏が辞任に追い込まれた。

 議事録には、和田氏が阿部氏の「代表取締役及び社長解職動議」を、阿部氏が和田氏の「代表取締役及び会長解職動議」をそれぞれ提出したことが記載されており、和田氏解職の過程で阿部氏と稲垣氏により取締役会規則の改定が実行された様子が示されている。

 第1号議案で阿部氏の社長解職動議が賛否同票で否決されたあと、議長が和田氏から稲垣氏に交代する動議が可決される。その後、阿部氏や稲垣氏が帯同させていた弁護士が議場に入るなどした後、招集権者に「阿部取締役」、議長に「稲垣取締役」が就く規約改定動議が可決された。

 議事録によれば、この2件の規則改定が行われた直後に、和田氏は自ら辞任を表明した。自身の解職の可決が決定的だったからだという。

 取締役会の招集権者は会の開催に影響力を持ち、議長は議事進行に権限を有している。つまり、稲垣氏が議長になって和田氏の会長解職を主導する一方、阿部氏が招集権者となって、和田氏や、和田氏に同調する取締役が臨時取締役会の招集を求めて阿部氏の解職動議を提出することなどをけん制する狙いがあったとみられている。

定年後も可能

 現在、阿部氏も稲垣氏も代表取締役を務めているが、積水ハウスは代表取締役の70歳定年制を取っており、稲垣氏は今年、阿部氏は来年70歳を迎える。

 しかし現状の取締役会の規則では2人は代表取締役を退いても取締役に留まる限り、招集権者と議長を続けることが可能で、取締役会に影響力を保持することができる。社内からも「このままでは院政につながりかねない」(積水ハウス幹部)と懸念の声が出ている。

インタビューに答える久保利英明弁護士=東京都千代田区で、内藤絵美撮影
インタビューに答える久保利英明弁護士=東京都千代田区で、内藤絵美撮影

 久保利弁護士は次のように指摘する。「そもそも〝ガバナンス″とは経営者を監視、コントロールする仕組みのことで、その役割を担うのが株主によって選任、付託される取締役だ。ガバナンスが進んだ会社では議長も招集権者も社外取締役が務めており、社内役員の執行役を監視する体制が組まれている。議長と招集権者に社内の実力者2人が名指しで記載されていることは、恣意的な運用を許してしまいかねない」

 現経営陣の退陣を求める株主提案を行っている勝呂氏は、この取締役規則について「現経営陣のガバナンス不全を示す一つの根拠」と指摘している。

 これに対して積水ハウスの広報担当者は、「現取締役会規則は、新しいガバナンス体制の構築に向けて、改定されたものです。取締役会規則は、ガバナンス改革の進捗にあわせて、改定されるものであり、現規則をもって、院政につながるとの評価にはあたらないと考えます」と回答している。

 和田、勝呂氏の株主提案は、取締役11人のうち、過半数の7人を社外取締役に選任するよう求めている。会社側の提案する社外取締役候補は4人で、株主側と会社側は激しく対立している。

 注目の株主総会は4月23日に行われる。

 

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