国際・政治 新型コロナでついに勃発!
「世界同時多発食料危機」が自給率4割の日本を襲う(後編)=柴田明夫(資源・食糧問題研究所)
新型コロナウィルスの感染拡大が、世界の食料市場にも影響を及ぼし始めた。後編では、脆弱な世界の穀物市場とその貿易構造、日本の危うい食料安全保障を脅かしはじめたコロナ禍の影響を探る
穀物を支配しはじめた中国
実は世界の穀物生産量が不足しているわけではない。
米農務省によれば、2019/20年度(概ね2019年後半~20年前半)の世界穀物生産量は26.6億㌧で過去最高となる見通しだ(図3)。
このうち、小麦は7.6億㌧、トウモロコシ11.1億㌧、コメ(精米)4.9億㌧で、いずれも記録的豊作で、世界の穀物在庫も8億トン程度(年間需要の約30%)まで積み上がっている。しかし、消費量も26.7億トンで過去最高となる見通しで、2年連続で生産量を上回ることから、需給は引き締まる方向にある。
しかも、世界の穀物在庫の過半(小麦の51.6%、トウモロコシ67.0%、コメ64.7%)は中国の在庫で占められ、中国を除いた世界の穀物在庫量は小麦22.2%、トウモロコシ11.4%、コメ18.4%と、必ずしも安心できるレベルではない(図4,5)。国連食糧農業機関(FAO)が適正とする在庫率は17~18%、つまり年間消費量の約2カ月分であることから、トウモロコシの11%台は実は危機的な水準なのである。
穀物の世界市場は薄い
7年連続の豊作に伴い、世界の穀物貿易量も4億2798万㌧と4億㌧の大台を超え、生産量に対する貿易比率も16%台となっている(図6)。
世界の穀物市場は、「薄いマーケット(thin market)」と言われている。生産量に対し貿易量が15%前後に限られるからだ。つまり穀物輸出国の国内生産量の変動が増幅されるかたちで貿易量の増減に反映されるのだ。供給の源泉が薄いため、輸出量が変動しやすいのである。
世界の穀物貿易量は、1980年代から2000年代初めまで、20年以上にわたり2億㌧台で推移してきたが、いまや4億㌧台に倍増した。しかし、これにより、世界の穀物市場は一段と安定することになったとはいえない。地球温暖化に伴う気候大変動が常態化するなか、旧ソ連圏などの粗放的で不安定な地域に世界の穀物市場は依存するようになっているためである。
コロナで止まった日本の食材輸入
日本も安心してはいられない。食料の6割以上(カロリーベース)を海外に依存しているためだ。18年の農業総産出額は9兆558億円で、前年の9兆2742億円をピークに減少。畜産、野菜、コメのいずれも頭打ちだ。
生産現場の人手不足と生産基盤の脆弱化が止まらないのに加え、最近は気候大変動下で頻発する大規模災害、豚感染症(CSF)などの家畜疾病、新型コロナウィルスの影響など、内外市場は一段と不安定化している。
一方、農林水産物の輸入額はここ数年9兆円台半ばで推移している。しかし、この輸入が、中国を震源とする新型コロナウィルスの蔓延で一時止まった。中食・外食で幅広く消費されるタマネギなどの食材は、中国産が市場を席巻。国内の生産体制が弱体化しているため、増産要請に対応できない。 幸い、今回の輸入停滞は長期化することなく収束したものの、今回の新型コロナウィルスや地球温暖化に伴う気候大変動、日本の購買力の減退、国際情勢の急速な変化や地政学リスクの高まりを考えると、輸入物の安定調達に対するリスクは間違いなく高まっており、いざという事態に対応できない状態が垣間見えたといえよう。
グローバル化が増幅させた食のリスク
世界経済は、95年の世界貿易機関(WTO)スタート以降、グローバリゼーションが加速した。しかし、グローバル化と80年代までの国際化を一緒にしてはなるまい。
国際化には、生産力をベースにした国の存在が「核」として在るのに対し、グローバル化には国家の存在・個性すら失くしてしまうものだからだ。
日本はひたすらグローバル化を進めた結果、食料の安定供給、安全な食の確保の両面で大きなリスクを抱えるようになってしまったのである。
やはり食料は、地産地消が基本なのである。
(柴田明夫、資源・食糧問題研究所)