経済・企業エコノミストリポート

サステナブル金融に新商品 持続可能な社会構築目指す 目標達成で金利負担減も=江夏あかね

    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成
    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成

     金融市場では近年、環境・社会・ガバナンス(ESG)の要素を投資判断に組み込む概念が浸透しつつあるほか、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)などを背景に、持続可能な社会の実現に資する「サステナブル金融」が進化を遂げている。

     サステナブル金融の負債性の資金調達手段としては、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドといった債券に加え、ローン関連でもグリーンローンをはじめとした複数の金融商品が存在する。

     グリーンボンドやグリーンローンは、環境改善効果を目的としたプロジェクトに要する資金を調達するための債券・ローンである。ソーシャルボンドは、社会開発に資する事業を資金使途とする債券である。サステナビリティボンドは、環境・社会的課題の解決などに資する事業を資金使途とする債券である。これらは、サステナブル金融で典型的な金融商品だが、諸外国で近年、新たな金融商品として注目を集めているのが、サステナビリティ・リンク・ローンとトランジションボンドである。

    サステナビリティ・リンク・ローン 条件が成果連動

    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成
    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成

     サステナビリティ・リンク・ローンとは、持続可能な社会の実現への取り組みを促す動機付けが組み込まれた金融商品である。まず、貸手・借り手間で、どのように取り組みを評価するのか、事前に設定・合意する。その上で、例えば、表面利率が変動する仕組みの場合、借り手が目標を達成すれば、低い利率で利息を支払い、未達の場合は高い利率で利息を支払う。取り組みの成果は、重要業績評価指標(KPI)、外部機関による格付けなどのサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT、成果目標)を用いて測定される。

     サステナビリティ・リンク・ローンは、資金使途が限定されず、一般事業目的となることが特徴である。借り手によっては、組織全体で持続可能な社会の構築活動に注力しているものの、特定かつ相当規模の関連プロジェクトを有していないケースもある。このような場合、サステナビリティ・リンク・ローンが有効な資金調達手段となり得る。

     そして、サステナビリティ・リンク・ローンは、目標の達成状況により借り入れ条件が変更となり、借り手は金利負担軽減といったメリットを享受できるという意味で、成果連動型となっていることも特徴である。さらに、債券ではなくローンの一種であるがゆえに、証券形式である債券に比べて資金の出し手が少数であるケースが多いため、借り手のニーズに応じた柔軟な商品設計(借入期間、返済方法、利率など)が可能になる。

    融資実行は未知数

     現状では、サステナビリティ・リンク・ローンは、コミットメントライン契約が中心となっている。同契約は、あらかじめ取り決めた期間に、一定の融資限度額を設定するものだ。サステナビリティ・リンク・ローンとして組成されても、実行されていない融資枠も相当あるとみられる。また、多くの事例は、既存のローン契約をサステナビリティ・リンク・ローン形式に変更する形を取っている。

    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成
    (注)2020年3月末現在 (出所)ブルームバーグにのデータを基に、野村資本市場研究所作成

     ブルームバーグのデータに基づくと、組成額残高(2020年3月末現在、約2097億ドル=約23兆円)のうち、借り手としては、電力、食品・飲料、運輸、石油・ガスなど、国・地域別では、フランス、スペイン、英国、オランダ、米国など欧米諸国が中心である。

     注目事例としては、米国ミシガン州のエネルギー会社のCMSエナジーの子会社であるコンシューマーズ・エナジーが、米国の借り手として初めて、18年6月に締結したサステナビリティ・リンク・ローン形式のコミットメントライン契約(14億ドル=約1500億円)が挙げられる。同契約には、複数の邦銀も参加している。CMSエナジーは同年2月、40年に向けて二酸化炭素(CO2)排出量8割削減、再生可能エネルギーによる発電を全体の4割に引き上げ、などのクリーン・エネルギー目標を掲げており、これをローンの成果目標として設定した。

    日本郵船も活用

     日本郵船は19年11月、日本初のサステナビリティ・リンク・ローンに係るコミットメントライン契約(500億円)を締結した。成果目標として、国際的な非営利団体「CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)」が毎年発表する気候変動に係る開示度スコアを採用し、高ランク維持ならば5年の契約期間内に金利上昇がない条件である。

     サステナビリティ・リンク・ローンは比較的新しい金融商品である上、相対取引も存在するため、有価証券である債券などに比べて情報開示が限定的な傾向がある。そのため、資金の出し手にとっては、金融商品としてのパフォーマンス分析などは相対的に難しいとも考えられる。その意味では、情報開示やデータ蓄積などを通じて、金融商品としての透明性を向上させることが更なる広がりのカギになると考えられる。

     なお、透明性がある程度確保される債券形式で、サステナビリティ・リンク・ボンドが19年9月、イタリアの大手電力会社エネルによって世界で初めて発行された。

    トランジションボンド 低炭素移行に幅広く

    低炭素社会への移行を幅広くカバー (Bloomberg)
    低炭素社会への移行を幅広くカバー (Bloomberg)

     トランジションボンドは、一般的に、CO2排出量などグリーンボンドの発行基準を満たさないものの、低炭素社会に移行(トランジション)するプロジェクトを資金使途とする債券を指す。フランスの大手運用機関アクサ・インベストメント・マネージャーズが19年6月にガイドラインを公表するなど、金融市場で注目が集まりつつある。

     トランジションボンドは、(1)温室効果ガス排出量が多い産業や、グリーンボンドを発行するための十分なグリーン資産を持たない発行体にとって、温室効果ガス排出量の削減が必要な場合に、資金調達手段の一つとなり得る、(2)投資家にとって、既に低炭素化が進んでいる企業だけでなく、低炭素化を目指す企業に投資する手段の一つとなること、などが利点だ。

     これまでの発行事例は、電力・ガス会社が中心である。例えば、香港の電力会社キャッスル・ピーク・パワーの子会社であるキャッスル・ピーク・パワー・ファイナンスが17年7月に起債した「エネルギー・トランジションボンド」は、再生可能エネルギーの開発が困難な場所における、石炭火力発電所からの転換を目的とした天然ガス火力発電所建設が資金使途である。加えて、国際機関の欧州復興開発銀行(EBRD)やフランスの大手金融機関クレディ・アグリコルといった金融機関も関連プロジェクト向け融資に充当すべく、トランジションボンドの発行に取り組んでいる。

     興味深い事例としては、ブラジルの大手食品企業マーフリッグ・グローバル・フーズが19年7月に起債した「サステナブル・トランジションボンド」が挙げられる。同債券は、アマゾン・バイオーム(生態群系)地域からの肉牛の購入が資金使途である。肉牛の購入は、同社が定めるサステナブル基準に適合する畜産農家に限定している。

     サステナブル・トランジションボンドは、同社が発行してきた債券の中で最も長い期間となる10年、かつ有利な条件で調達可能となった。ただし、牛肉生産が森林破壊要因となっているほか、畜産業の温暖化ガスの排出量が多いことなどが指摘されていることもあり、同社のサステナブル・トランジションボンドは投資家や環境活動家から効果を疑う声が上がったとも報じられている。

    市場の信認が大前提

     トランジションボンドは、10年超の歴史を有するグリーンボンドに比べると、金融市場での共通見解が形成されておらず、様子見している投資家も多いとみられる。トランジションボンド及び同市場が健全に発展していくためには、発行体によるサステナビリティ戦略への積極的な取り組みを通じて市場の信認を得ることが大前提になるほか、グリーンボンドなどと同様に情報開示を通じて、投資家が環境・社会面でのインパクトを適切に把握できるように透明性を確保することが重要と思われる。

     世界の金融市場ではサステナブル金融が一大テーマとなる状況が続くと想定される。さらに、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大により、サステナブル金融の対象となり得る新しいテーマも注目を集め始めており、新たな金融商品が今後も誕生する可能性もある。

    (江夏あかね・野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター長)

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