経済・企業歴史でわかる経済危機

疫病で見る世界史:なぜ中国がコロナウイルスの起点になったのか=飯島渉(青山学院大学教授)

    英ロンドンで19世紀半ばにコレラが流行した要因は井戸水だった。当時の状況を「飲めない水ならどこにでもある」と風刺した漫画(World History Archive/ニューズコム/共同)
    英ロンドンで19世紀半ばにコレラが流行した要因は井戸水だった。当時の状況を「飲めない水ならどこにでもある」と風刺した漫画(World History Archive/ニューズコム/共同)

     結核をはじめとする感染症の流行は、約1万年前までさかのぼることができる。感染症は、農業のために森林を切り開き、野生動物を家畜化するといった生態系への働きかけ(開発)によって流行し、都市化で人口が集中したことがそれを助けた。感染症に焦点を当てた「疫病史観」で振り返ると、多くの人命を奪った感染症の流行が、歴史を大きく左右したことが分かる。

    「コロンブスの交換」

     1492年のコロンブスの新大陸到達以降、ユーラシア大陸とアメリカ大陸の間で人やモノが行き交う「コロンブスの交換」が進み、欧州から天然痘などの病原体がアメリカ大陸に持ち込まれた。これが免疫を持たなかった多くの原住民の命を奪い、現在のペルーに栄えたインカ帝国や、メキシコのアステカ帝国が弱体化。スペインによる植民地化を容易にした。帝国を滅亡させた陰の主人公は、病原体だったのである。

     英国が植民地化したインドの地方病だったコレラは1817年に感染爆発を起こし、世界中に広がった。背景には、英国をはじめとする欧州諸国のアジア進出のほか、グローバルに拡大した商品貿易や移民、奴隷貿易があった。コレラ対策の切り札は上水道の整備で、それを目的として近代国家が生まれた。国家が大規模な水道整備に必要な多大な資金を集める役割を果たし、感染症対策への関与も大きくなっていった。

     20世紀初期に米国から流行したインフルエンザ(スペイン風邪)は、米国が第一次世界大戦への参戦で兵士や物資を送り込む過程で感染が欧州に拡大。世界中で数千万人の命を奪った。その数は、第一次世界大戦で亡くなった人よりも多かった。

    中国が起点のワケ

     現在、世界を震撼(しんかん)させている新型コロナウイルスのような新興感染症が、中国を起点に登場しているのはなぜか。背景には、20世紀末から急速に経済成長した中国が、人類が1万年かけて経験した開発や都市化をわずか30年ほどの間で経験したことがある。「世界の工場」となった中国が、国際貿易や人の移動の面でそのプレゼンスを高めていることも、新型コロナ感染症をグローバルに拡大させる要因となった。

     流行の中心地となった中国の武漢市や湖北省などでは、大規模なロックダウン(都市封鎖)が行われ、人々の活動を制限して感染症の抑え込みを行った。流行の中心が欧州や米国に移ると、多くの国で外出制限や学校の休校措置がとられ、世界はなかば鎖国のような状態となった。ほぼ同時にこれほど大規模な活動の制限が求められたことは、感染症の歴史においても、経済社会の歩みの中でも初めてのことである。

    「疫病史観」は、私たちが想像している以上に、感染症が人類の歴史に大きな影響を及ぼしてきたことを主張する。考えてみると、農業化や工業化、さらに都市化という人類史の基本的なトレンドは、人々が集まって大きく生産や消費を行うことを前提としてきた。

     しかし、今回の新興感染症は、私たちがそうした行動をとることを許さない。経済社会を成り立たせている基本的な活動が、感染症流行の要因になっているのである。現在、起きていることは、経済社会のあり方が根本から変わる転換点と後に位置づけられるのかもしれない。

    (本誌初出 “疫病史観”の人類史 インカ帝国を滅ぼした天然痘 近代国家を生んだコレラ=飯島渉 5/26)

    (飯島渉・青山学院大学教授)

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月8日号

    もうかるEV(電気自動車)、電池、モーター14 「電動化」が業績・株価を左右 「次の勝者」探しも活発化 ■神崎 修一/桑子 かつ代/斎藤 信世16 巨人の焦り トヨタから「自動車」が消える日 ■井上 久男18 自動車部品 日本電産が台風の目に ■遠藤 功治20 図解 EV用電池「国盗り物語」 ■編集 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事