PER 「株の割高感示す」 企業利益2割上振れ期待=武田淳
PER(Price Earnings Ratio)は「株価収益率」と直訳され、「株価÷1株当たり当期純利益」で算出する。単位は「倍」である。企業が生み出す全利益が株主のものだとして、投資資金を何年で回収できるかを直感的に示す尺度であり、一般的に、株価が利益の何倍になるまで買えるのか(割高感)を判断するのに使われる。<特集:指標で先読み米国経済>
ただ、「何倍まで買えるのか」に絶対的な基準はなく、景気動向や業界の成長力などによって左右され、そもそも何年で回収したいのかは極めて主観的である。しかも、投資家の判断は経済金融情勢によって変わる。米ダウ工業株30種平均のPERについては、経験則的に5年程度の平均を目安にする例が多く、筆者もこれを基準としている。なお、「予想PER」とは純利益の今期予想を計算に用いたもので、前期実績を用いれば「実績PER」となる。
ダウの予想PERは、コロナショック直前の5年平均で16・8倍だった。この水準を適正とすると、最近の20倍を超えるPERは、株価が2割程度、割高であることを意味する。それでも株価が底堅い現状は、市場が利益見通しの2割程度の上方修正を織り込んでいることになる。
リーマン時との差異
今回のコロナショックを2008年9月のリーマン・ショックと比べると、当時は継続的な利上げによりダウが前年10月にピークを付けて1年近く経過し、PERもピークの16倍強から15倍弱へ低下していた。つまり、ピークを過ぎたバブルを緩やかに縮小させようとする途中で破裂したのがリーマン・ショックだと言える。
一方、昨年後半から今年初めにかけては、大幅な金融緩和下でダウが史上最高値を更新し続けた。19年終盤にはPERが19倍まで上昇、20年に入り増益予想で若干低下したが、ダウが3万ドルに迫りPERは再び18倍を超えていた。
だが、バブルがピークに達し、何らかのショックで増益期待が吹き飛べば暴落する状況だったところにコロナ感染が拡大、株価急落につながった。しかし、コロナショックは、本来一過性である疫病の流行が原因であり、株価が織り込む2割程度の利益上振れが実現する可能性は十分ある。
一方で、一向に収まらない感染拡大、さらには感染第2波への警戒もあり「V字回復」への期待は後退している。期待をつなぐのはワクチンや治療薬の開発であり、経済正常化で先行する中国や韓国の動きであろう。予断は許さないが、第2波をうまく抑え景気が回復すれば、良き先行事例として株式市場の期待維持に貢献しよう。
今後の株価は、こうした脱コロナの道筋が見え、利益回復の裏付けが追い付くまでは、期待の交錯によりもみあう展開が見込まれる。現に5月下旬は2万4000ドル台近辺で膠着(こうちゃく)した。予想利益が上方修正され、PERが適正水準となれば、その後は利益改善見通しを背景に本格回復が期待できよう。
(武田淳・伊藤忠総研チーフエコノミスト)