加速する「デジタルインフラ」 “コロナ後”の景気対策で脚光=真家陽一
「消費拡大・民生改善・構造調整・持続力強化につながる『両新一重』の建設を重点的に支援する」。中国の李克強首相は、5月22日に開幕した全国人民代表大会(全人代=国会)の「政府活動報告」でこう表明した。
「両新一重」は今回の全人代で提起された新語で「新型インフラ」「新型都市化」、交通・水利などの「重要プロジェクト」を指す。
新型コロナウイルスの世界的流行で外需に期待できない中、政府活動報告では内需拡大戦略を掲げ、「両新一重」を戦略の重要項目に位置づける。とりわけ注目を集めるのが「新型インフラ」だ。第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)など成長分野の新技術に関する設備を指す。もともとは2018年12月の中央経済工作会議で、強大な国内市場の形成を促すべく、整備強化の方針が打ち出されたが、コロナ後の景気対策として脚光を浴びている。
リーマンの反省
中国は08年のリーマン・ショック時に4兆元(約60兆円)の大型景気対策を打ち出し、いち早くV字回復を果たしたが、資金の8割超は鉄道・道路・空港・電力といった「伝統的」なインフラに投じられた。その過程で過剰債務が生じ、深刻な後遺症として現在に至るまで尾を引いている。
その反省から、中国は伝統的なインフラでなく、新型インフラに焦点を当てた景気対策を推進しようとしている。政府活動報告は「次世代情報ネットワークを発展させ、5Gの応用を広げ、充電スタンドを整備し、新エネルギー自動車を普及させ、新たな消費需要を喚起して産業の高度化を後押しする」としている。
新型インフラの定義について、中国の経済政策を担う国家発展改革委員会の伍浩イノベーション・ハイテク発展局長は4月20日の定例記者会見で、(1)情報インフラ、(2)統合インフラ、(3)イノベーションインフラの三つが含まれると説明している。
中国銀行研究院は3月23日付のリポートで、20年の新型インフラの投資規模を1・2兆元(約18兆円)と予測。これは19年のインフラ投資総額の約7%にとどまる。そういう意味では、新型インフラの景気浮揚効果は伝統的なインフラに比べると限定的と言えるが、中長期的な経済効果を見逃すわけにはいかないだろう。
中国政府系シンクタンク「中国情報通信研究院」の王志勤副院長は、5Gが25年までにもたらす経済効果を消費が8兆元(約120兆円)、投資が4・7兆元(約70兆円)、直接雇用が300万人に達すると予測している(『人民郵電報』3月25日)。
5Gの普及は中国のIT業界に多様なビジネスチャンスを生み、生産性も改善すると期待されている。また、電気自動車(EV)向けの充電スタンドの整備は、自動運転技術の進展とも相まって、中国の自動車産業を世界トップクラスに押し上げる可能性もある。
「新型」コロナは、中国における「新型」インフラの建設を加速させる作用をもたらした。コロナ禍で登場したさまざまなオンラインサービスとも関連する新型インフラは、中国経済のデジタル化をより一層深化させ、中国社会を変革していくことも予想される。
(真家陽一・名古屋外国語大学教授)