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経済再生のため企業の内部留保463兆円を今こそ放出すべきだ=水野和夫(法政大学教授)

もはや国家は国民の生命・財産を守ってくれない?
もはや国家は国民の生命・財産を守ってくれない?

「コロナとの共生」──。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を前に、100年に1度の危機を乗り越えようという訴えかけに、私は疑問を感じている。2008年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災でも、そう喧伝(けんでん)されたが、2〜3年もすれば元に戻った。

ペストが崩した教会権威

 仮に14世紀のペスト以来の大変革期を迎えたという認識なら理解できる。それまで絶対的な権威で地域の秩序を構築していた教会が、ペストの前に何ら有効な解決手段を打ち出せず、死者が多いあまり葬儀さえできない実態をさらけだした。

 これが後のルターによる宗教改革につながり、現在まで続く国民国家の形成への一大転機になった。

 14世紀の教会に当たるのが、現在の国民国家だ。全米で広がる抗議デモは国民国家への不満や怒りで、教会を倒した宗教改革とも言える。白人警察官による黒人男性の暴行・死亡事件はそのきっかけに過ぎない。

 国民国家における資本主義を極めた米国で、貧富の差は臨界点を超え、コロナで医療分野でも富める者は救われ、貧しい者は切り捨てられる状況に米国民は、「もはや国家は国民の生命・財産を守ってくれない」と、国民国家に反旗を翻したのだ。

 日本でも為政者は安全な場所から「コロナとの共生」と、国民に訴えるが、テレワークがままならないサービス業などの従事者は感染リスクにさらされたままである。休業要請をするだけで補償がないのだから、生活のためにやむを得ず、感染リスクが高い最前線に追いやられているのだ。日本でも「国家は国民を守ってくれない」という不満は日に日に増している。

「企業は株主だけでなく、従業員や取引先、地域社会といったさまざまな利害関係者を重視しなければならない」と、最近になって言い始めた。であれば、積み上げた内部留保463兆円(19年3月)で、国民生活を支援する時だ。

 私の試算では463兆円のうち、生産性向上や低金利による利益が132兆円となる。これは本来、支払われるべき賃金や利子に該当するから、未曽有の危機の今、国民に還元すべきだ。また、内部留保は200兆円あれば、十分だから残りの131兆円は、休業要請に応じた小売業などの補償に使えばいい。

バブル経済の限界

 国民国家における資本主義体制が誕生して約400年。私はその限界が見えたのは、1971年のニクソン・ショック(金とドルの交換停止)だったと考えている。その後、日本のバブル崩壊(90年)でも同じようにシグナルを発していた。

 バブル崩壊を金融緩和でごまかし、さらに大きなバブルを作って無理やり成長させる資本主義はとうに、限界に達している。

 約1世紀前のスペイン風邪は、第一次世界大戦の終戦を早めたというが、その後、全体主義やブロック経済で、第二次世界大戦へと向かった。100年後の現在、再び流血を経て体制転換に向かうようなら、22世紀の人々は「20世紀も21世紀も地球人は野蛮でしかなかった」という評価を下すだろう。

(水野和夫・法政大学教授)

(本誌初出 国民国家・資本主義の終焉=水野和夫 2020・6・30)

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