国際・政治狂った米国、中国の暴走

コロナが見せた現実2 変わる中国人 ウイルス禍封じ込めた「キャッシュレス経済」=田代秀敏

社会の隅々までスマホのQRコード決済が普及している(Bloomberg)
社会の隅々までスマホのQRコード決済が普及している(Bloomberg)

 <コロナが見せた現実2>

 北京では6月11日、約2カ月ぶりに集団感染が報告され新型コロナウイルス感染第2波に対する警戒感は消えないものの、中国が第1波からいち早く抜け出したことは間違いない。成功したのは、「一党支配体制で国民を一元的に管理・統制しやすい統治体制がプラスに働いた」からだとされるが、さらに重要な要因は鄧小平により開始された改革開放の現在に至る42年の高度経済成長にこそある。(コロナ後の米中)

恐るべきスピード

 そもそも中国の都市設計がコロナ封じ込めに適している。中国人は壁で境界を作ることを好む。中庭を囲む形で東西南北に家屋を配置する伝統的な集合住宅「四合院(しごういん)」から現代的な超高層マンションまで、中国の住宅または敷地の周囲には壁が設けられる。まるで「万里の長城」のミニ版のような趣で、高さは3メートルほど。この内と外とを隔てる壁の存在が、市中感染の拡大を抑えることにつながった。

 加えて、地域を管轄する「居民委員会」がうまく機能した。中国では全ての都市に基礎的な行政区画として、1000~3000世帯からなる「社区」(コミュニティー)が設けられており、この社区を管轄する公式の行政機関が同委だ。ロックダウン(都市封鎖)の緊急事態では同委の専従スタッフが、住民の出入りを管理し、自宅隔離対象者に代わり買い物やゴミ出しなどを行い、市中感染リスクを最小化した。

 居民委員会のスタッフと住民とが問題なく連携できた背景には、連絡から買い出し代行時に必要な決済まで、スマートフォンだけで事足りる社会のデジタル化があった。中国は、巨大IT企業のアリババとテンセントとが激烈な競争を繰り広げてきた結果、世界最先端のキャッシュレス経済が実現した。

 街中至るところに貼り出されたQRコードを読み取らせることで個人の移動・購買などをリアルタイムで把握。そのビッグデータを活用してコロナ感染リスクを人工知能(AI)で算出し、スマホ画面にユーザーごとの感染リスクが色で表示されるようにした。これがコロナの封じ込めに大きく貢献した。

 リアルタイムデータとAIとの活用は、企業支援にも力を発揮。例えば、中国の商業銀行の中には、緊急融資のオンライン申請の審査を約2時間で完了するものがある。地方政府はビッグデータをAIで解析して、管轄する重要な企業の財務状況を把握。資金ショートを起こす前に、AIが算出した必要額を申請されなくても振り込む。恐るべき「中国スピード」である。

時間は厳守する

 近年は、中国人そのものの社会的なあり方にも変化がみられる。それが経済発展とテクノロジーとがもたらした中国人のエトス(倫理よりも広い最も基本的な行動様式)の変換だ。

 人々がスマホを常に携帯し、監視カメラ網によるAI顔認証が至るところで実施されることで、個人の社会的信用は目に見える形で数値化されるようになった。この個人信用スコアが低下すると、ローンの申請や結婚相談所の会員登録、ホテルの宿泊、航空機の搭乗などが制限される。

 AIによる個人信用スコアは、「個人特性、支払い能力、返済履歴、人脈、素行」の5要素が関わっているとされている。「素行」には、「うそをつかない」「人をだまさない」「時間厳守」といった徳目や近代資本主義的なマナーなどが含まれているとされ、これまで金銭や時間にルーズな人が多いという印象があった中国人の思考と行動とが一変しつつある。

 ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは「神学者ジャン・カルヴァンが唱えた厳格な予定説(神の救済にあずかれるかどうかはあらかじめ決定されているという神学思想)がエトスを変換させ、欧州で近代資本主義を生成した」と論じた。経済活動における「信用」の重要性が、個人信用スコアのシステムによって社会全体で高まっていけば、中国で新たな「資本主義」が生成される可能性もある。

(田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)

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