国際・政治狂った米国、中国の暴走

コロナが見せた現実1 分断の米国 24州が「黒人の投票権制限」 トランプが導く“新南北戦争”=中岡望

    (注)低所得者は年収3万6000㌦未満、中所得者は6万~8万900㌦、高所得者は18万㌦以上 (出所)ギャラップ
    (注)低所得者は年収3万6000㌦未満、中所得者は6万~8万900㌦、高所得者は18万㌦以上 (出所)ギャラップ

     米国(ロナが見せた現実1>

     5月25日午後9時25分、米ミネソタ州ミネアポリス市で白人警察官が黒人を押さえつけ、膝で首を圧迫した。「息ができない」という黒人の訴えを無視して、死に至らしめた。1人の少女が、その様子をスマホで克明に撮影し、SNSで拡散した。

     過去数年、ミネアポリス市では膝で首を圧迫され、失神した黒人は数十人に及ぶ。同市は人種差別が根強い街と言われている。黒人人口は20%だが、警察官に逮捕される人の60%が黒人である。2018年以降、警察官に殺害された容疑者の60%が黒人で、白人に比べて13倍である。

     だが、ミネアポリス市が特別なわけではない。調査機関マッピング・ポリス・バイオレンスの調査では、全米で13~19年の間に警察官に殺害された容疑者7666人のうち、黒人の数は1945人と、人口比で白人の2・5倍に達する。黒人の人口比率が13%であることを考慮すると、黒人が狙い撃ちされていることは明らかだ。ユタ州では黒人の人口比率が1%強にもかかわらず、過去7年間に警察官に殺害された黒人の数は全体の10%に上る。(コロナ後の米中)

    「最高裁も差別」の歴史

     米国では奴隷制度が廃止されて以降、人種差別は社会を分断する最大の問題である。米国の政治は奴隷制度と人種差別を巡る問題を軸に展開してきたと言っても過言ではない。黒人やヒスパニックなどに対する差別は米国社会の底辺に常に存在し、差別行為や格差の広がりをきっかけに、それらに反発するデモや暴動として一気に表面化する。

     白人至上主義者を支持層とし、人種差別を公然と助長する行為を取るトランプ米大統領への不満がくすぶる中、コロナ禍によって失業者が多数出たことで、いつ不満が爆発してもおかしくなかった。

     黒人のコロナ感染率は白人に比べると極めて高く、職を失う黒人も多かった。5月末の失業率統計では、黒人の失業率は1年前の6%強から約17%に上昇しており、これは白人の失業率(12%強)に比べて高い。

     6月1日にギャラップ社が行ったアンケート調査では、黒人が多数を占める低所得者層で、「感染拡大後に解雇された」が37%、「所得が減った」が58%、「貯蓄を取り崩した」「借金した」が42%に上るなど、コロナ禍が深刻な影響を与えていることを明らかにした(図)。

     黒人差別の実態を理解するには、歴史的な観点が不可欠である。

     初期の米国政治は奴隷制を巡って分断されていた。その対立が南北戦争に発展し、最終的に奴隷制度は廃止された。南北戦争後、連邦政府は軍隊を南部に駐在させ、解放民局を設置し、黒人の権利を守ろうとした。そして南部再建が始まった。

     だが、連邦政府は解放奴隷の人権を十分に守る体制を作ることなく撤退を始める。次に始まったのが南部復古である。旧南部連合の指導者は罰せられることもなく、恩赦され、州政府の要職に復帰した。南北戦争以前の旧体制がそのまま無傷で復活したのである。

     南部で復帰した白人たちが、支配体制を維持するためには黒人の投票権を制限する必要があった。南部諸州は黒人の投票を阻止するために、さまざまな法律や規則を導入した。その一連の法律は「ジム・クロウ法」と呼ばれた。

     驚くべきことに、米国最高裁は黒人に公民権(公職に関する選挙権・被選挙権を通じて政治に参加する地位・資格)を与えた「1873年公民権法」を83年に憲法違反と判断したのである。さらに96年に黒人を隔離する政策を合憲と判断した(プレッシー対ファーガソン裁判)。その後、南部では黒人の投票権は制限され、地域のみならず制度上でも隔離されることとなった。南部では黒人差別は常態化した、警察官の主な仕事は黒人の取り締まりであった。これは現在の警察官の態度につながっている。

     黒人に公民権と投票権が確保されたのは、奴隷制度廃止から100年後の1964年である。米国社会にリベラルな考え方が定着し、差別用語を排除する「ポリティカル・コレクトネス」が社会に規範となった。長い差別を補うために、大学や企業に優先的に黒人を採用することを求める「アファーマティブ・アクション」が広く受け入れられた。

     しかし、一部の米国人の心の奥に定着する黒人差別の意識は、払拭(ふっしょく)されることはなかった。保守派や白人至上主義者は、再び黒人の投票権を制限し始めた。2010年以降、24州で何らかの形で黒人の投票権を制限する法律を制定している。長期的な白人人口の低下を危惧する共和党は、黒人の投票権を制限する戦略を取った。共和党は奴隷解放を実現した“リンカーン大統領の党”であったが、現在では“白人至上主義者と手を組む政党”へと変質している。

    「トランプのせい」

     差別を忌避する社会的雰囲気の中で人種差別主義者は沈黙を強いられていた。その蓋(ふた)を取り除いたのがトランプ氏である。米国が白人社会でなくなることを懸念する白人層や人種差別論者、白人至上主義者、保守的なキリスト教原理主義者の支持を得ることで、トランプ氏は大統領になった。人種和解を促進するよりも、公然と差別用語を口にし、白人至上主義者やネオナチを擁護した。

     現在、米国にはヘイトグループは940団体ある。トランプ政権樹立後の17年以降、白人至上主義者の団体は55%も増えている(サザン・ポバティ・ロー・センター調べ)。今年6月に行われた米メディアのNPRとPBSの調査では、米国国民の3分の2は、「トランプ大統領が人種的対立を助長した」と答えている。

     トランプ大統領は人種差別に抗議するデモ隊を抑圧するために、連邦軍の出動を要請した。最終的には、軍首脳部の猛反対で、連邦軍の出動を断念した。もし軍最高司令官のトランプ大統領が連邦軍に銃口を国民に向ける命令を出していたら、流血は避けられなかっただろう。

     米国社会は人種問題に限らず、さまざまな分野で潜在的に分裂した状況にあり、その溝は深い。もし連邦軍がデモ隊に対して発砲する事態が起これば、それは「新しい熱い南北戦争」の始まりになったかもしれない。米国社会は、トランプ政権の下で分断が急速に進んでいるのは間違いない。

    (中岡望・ジャーナリスト)

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