テクノロジーエコノミストリポート

トヨタ、NTT、パナソニック…… スマートシティ事業に大企業の参入が相次いでいる理由=百嶋徹

    トヨタが建設するウ―ヴン・シティのイメージ トヨタ自動車提供
    トヨタが建設するウ―ヴン・シティのイメージ トヨタ自動車提供

     人工知能(AI)やビッグデータなど先端技術を活用した「スーパーシティ」構想を実現する「改正国家戦略特区法」、いわゆるスーパーシティ法が、5月の通常国会で成立した。昨年の通常国会では閉会に伴い廃案となったが、1年を経て成立。スーパーシティでは、規制改革を伴う複数分野のサービスを生活に実装し、2030年ごろの「まるごと未来都市」の実現を加速する(図1)。政府は今後、スーパーシティ構想を進めたい自治体を公募し選定する予定だ。今回の法案成立を機に、多様な社会課題を解決するスマートシティーの取り組みが全国で加速していくことが期待される。

    トヨタが実証都市

     スマートシティーで大きな注目を集めているのがトヨタ自動車の動きだ。トヨタは、今年1月に米ラスベガスで開催された世界最大級の技術見本市「CES2020」において、人々の暮らしを支えるあらゆるモノやサービスが情報でつながる「コネクティッド・シティ」を富士山のふもとに作ることを発表した。今年末に閉鎖する子会社の工場(静岡県裾野市)の跡地を利用して、将来的に約70・8万平方メートルの範囲においてまちづくりを進めるべく、21年初頭に着工する予定だ(写真)。

     人々が生活を送るリアルな環境の下、自動運転、新たなモビリティーサービスであるMaaS(マース)、パーソナルモビリティー、ロボット、スマートホーム、AIなど多様な技術を導入・検証できる実証都市を、世界中から幅広いさまざまなパートナー企業や研究者を募り連携しながら、新たに作り上げる。

     トヨタは、網の目のように道が織り込まれ合う街の姿から、この街を「Woven City(ウーブン・シティ)」と名付け、スマートシティー実現に向けた取り組みを推進する。初期は、同社の従業員・家族やプロジェクト関係者をはじめ、2000人程度の住民が暮らし、その後段階的に増やしていくという。

     このプロジェクトの狙いは、1カ所で技術やサービスの開発と実証のサイクルを素早く回し、新たな価値やビジネスモデルを生み出し続けることだ。ウーブン・シティは、異業種・異分野の技術・ノウハウなどを組み合わせるオープンイノベーションの場として、日本の国際競争力の命運を握っていると言っても過言ではない。

     これまで先端技術分野の本格的な連携の場の整備が遅れてきた日本にとって、ウーブン・シティは、先端技術のスピーディーな社会実装で世界をけん引する米国や中国に一気にキャッチアップする突破口になり得るのだ。

    企業主導へ

     また、トヨタは3月にスマートシティービジネスの事業化に向けてNTTと業務資本提携に合意した。NTTは既にスマートシティーの取り組みを推進しているが、トヨタとNTTが提携する目的は、スマートシティービジネスの事業化が可能な長期的かつ継続的な協業関係を構築することだ。具体的には、スマートシティー実現のコア基盤となる「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築・実装・運営し、国内外の都市に連鎖的に展開する方針。互いに約2000億円もの出資を行い株式を持ち合うのは、長期的にコミットする証しだろう。

     両社が言うスマートシティプラットフォームは、さまざまなデータを分野横断的に収集・整理し提供するデータ連携基盤、いわゆる「都市オペレーティングシステム(OS)」を指しているとみられる。先行ケースとして、ウーブン・シティと品川駅前のNTT街区の一部にて、このプラットフォームを実装していくという。

    (出所)内閣府
    (出所)内閣府

     なお、5月に成立したスーパーシティ法は、昨年廃案となったものとおおむね同じ内容だが、その内容を強化するために、都市間でシステムの乱立を防止し相互連携を強める。具体的には、都市OS整備事業者は、システム間の接続仕様であるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を公開するルールを法令上義務化することが追加された(図2)。トヨタとNTTは、スマートシティプラットフォームの開発環境としてAPIを提供するとともに、他都市と連携し政府の都市OSアーキテクチャーを参照することを挙げており、スーパーシティ法における都市OS設計思想とも整合性をとる形で取り組みを進めるとみられる。

     日本では、先進的なスマートシティー構築のために、スーパーシティの取り組みと並行しつつ、企業主導型の計画で多くの成功事例を作ることが重要だ。パナソニックが推進してきた藤沢市や横浜市での「サスティナブル・スマートタウン」や、トヨタのウーブン・シティのような企業主導の新規開発計画を先行させることが現実的だろう。既存エリアでは、スマート化に向けた取り組みに多くの時間を要するため、事業所跡地などの企業不動産を有効活用したスピーディーな取り組みにまずは期待したい。さらにこれらの取り組みが、官民などが主導するスーパーシティと都市OSを介してデータ連携していくことが望まれる。

    (注)記載した分野は取り組みの例 (出所)内閣府
    (注)記載した分野は取り組みの例 (出所)内閣府

    データ運用がカギ

     一方、世界の先進事例として注目されていたカナダ・トロント市のスマートシティー計画は頓挫した。米グーグルを傘下に持つ持ち株会社アルファベットは、子会社サイドウォーク・ラボを通じて開発計画に参画してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などにより、5月に撤退を表明した。なお、同計画はデータ運用の是非が問われていた。プライバシー保護やデータ管理に対する懸念が市民や関係者から示され、これまで未着工のままであった。

     社会課題解決に向けたまちづくりには、産学官民が一致結束して取り組むために、各主体間の信頼感・人的ネットワークの形成も欠かせない。盤石な財務基盤を持つ巨大IT企業といえども、フィジカル空間(実世界)でのビジネスに本格進出することの難しさを示しているのかもしれない。

     トヨタとNTTは、収集データは市民と都市に帰属するとし、両社では保有しない方針だ。ウーブン・シティでは、初期の居住者がデータを巡ってトヨタと対立することは考えにくく、かなり踏み込んだ個人データの収集・保有も行えそうに思えるが、同社はあえてそれを選択しないようだ。

     GAFA(米国のグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)など巨大IT企業のようにデータを占有・独占すれば、特定の企業が多くの経済的利益を得る機会が高まる。しかしデータを連携・共用していけば、これまで1社単独では収集できなかったようなデータを互いにスピーディーに活用・分析できるようになる。これがイノベーションを迅速に生み出し、より大きな社会的価値の創出につながるのではないだろうか。

    都市のニューノーマル

     スマートシティーは、アフターコロナを見据えた都市のニューノーマル(新常態)の在り方、すなわちパンデミック(感染症の世界的流行)や災害に強い都市モデルを示すべきである。

     まず新たな感染症を発生させないように気候変動防止が欠かせない。スマートシティーは環境配慮の要素も併せ持つべきだ。都市機能が1カ所に集積するスマートシティーでは、職住の近接一体化により通勤時間が短縮され、自転車や徒歩での通勤が容易になる。また感染症への対応には、ウイルス学、公衆衛生学、免疫学、社会学など多様な学問領域の知見が必要だが、都市に多様な領域の研究者が結集していれば、知見の融合を図りやすい。

     先端技術を活用した感染拡散の予防・抑制機能の装備も重要だ。遠隔医療や遠隔教育は今後欠かせない機能となる。自動ゴミ収集システムは廃棄物収集運搬業者の、自動運転タクシーやモノの自動配送ネットワークはドライバーの感染リスクを回避できる有力な方法だ。パンデミックや災害の発生に対応したBCP(事業継続計画)対策として、多くの企業が一斉に在宅勤務を実施し、インターネットのデータ通信量が急増しても、それに耐えうる最新の通信網やデータセンターの整備も必要だ。

     トロントのプロジェクトでは、取り外し可能な六角形のモジュール型舗装を用いることで、交通データなどに基づいて時間帯によって柔軟・迅速に用途変更できる道路(ダイナミックストリート)の設置が計画されていた。今後の都市インフラには、強靭(きょうじん)性に加え、パンデミックや災害の発生、交通流・人流の変化など都市を取り巻く環境変化に対応して、ダイナミックに変化し得る柔軟性・可変性も求められるのではないだろうか。

    (百嶋徹・ニッセイ基礎研究所 社会研究部上席研究員)

    (本誌初出 まちづくり スマートシティー 日本でも巨大プロジェクト進行 アフターコロナ対応も視野に=百嶋徹 20200714)

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