国際・政治

「パラサイト」「愛の不時着」「梨泰院クラス」……ヒット連発の「韓流」に日本のコンテンツがどうあがいても敵わない理由【サンデー毎日】

    日本記者クラブで記者会見する韓国映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(右)と主演俳優のソン・ガンホさん=東京都千代田区で2020年2月23日午後5時26分、滝川大貴撮影
    日本記者クラブで記者会見する韓国映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督(右)と主演俳優のソン・ガンホさん=東京都千代田区で2020年2月23日午後5時26分、滝川大貴撮影

    ヨン様ブームから17年。再び日本人の涙腺を崩壊させる韓国ドラマが空前の支持を集めている。

    現代版〝ロミジュリ〞の誉れ高い「愛の不時着」がそれだ。

    なぜ「韓流」は人気なのか。深掘りすると、日本のコンテンツ環境との「違い」が浮き彫りになった。

    20代OLが夢中になった「愛の不時着」

    「自転車で2人乗りをしたり、一緒にピアノを弾いたりという胸キュンシーンが毎回必ず入っていて、ドキドキが止まらない。叶わない恋と分かっていながら惹ひかれ合う姿に何度も声をあげて泣いてしまいました」 

    こう話すだけで涙声になるのは20代のOL。コロナ禍で、生まれて初めて観た韓国ドラマが「愛の不時着」(以下、不時着)だった。 

    韓国の財閥令嬢で起業家としても成功するユン・セリ(ソン・イェジン)がパラグライダー中に竜巻にさらわれ、北朝鮮との非武装地帯に不時着するところから物語は始まる。

    彼女は軍の将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)に助けられ、やがて恋に落ちていく―。 

    動画配信サービス「ネットフリックス」で独占配信されている恋愛ドラマに〝涙腺決壊〞する視聴者が続出、全16話を見終わった後は「不時着ロス」に陥る人たちも現れた。

    2月末の配信開始以来、7月2日現在まで視聴トップ10圏内につけているのだ。 

    第三次「韓流」ブームが日本列島を席巻している・・・

    ブームといえば、今から17年前、ぺ・ヨンジュン主演のドラマ「冬のソナタ」が列島を〝席巻〞した。

    韓流ブームの先駆けとなり、2004〜05年にNHKで放映された時代劇「宮廷女官チャングムの誓い」は男性の支持も集める。

    続いてK―POPが人気を博し、第2次韓流ブームが到来。11年のNHK紅白歌合戦には、韓国の人気グループである東方神起やKARAらも出場した。

    だが12年、当時の李明博大統領が竹島(独島)に上陸すると一気に退潮、韓国コスメや食品に注目が集まる第3次ブームが再び盛り上がるまでには5年ほどの時間を要した。

    そして今年、熱狂的支持とともに降臨したのが「不時着」なのだ。

    「冬ソナ」時代と違うのは、主な視聴者が「40歳以上」のみならず、「20〜30代の働く女性」でもあること。

    支持される理由は多様な要素が内包されているからだ。

    韓国ドラマ・映画愛好家の山本裕子氏はこう話す。

    「38度線に引き裂かれる男女の恋という意味で、物語の筋は古典的な『ロミオとジュリエット』の構図です。韓国の王道ともいえるラブコメですが、そこに軍部内の勢力争い、北と南の精神や文化の違い、一人の女性のアイデンティティー獲得など多くの軸が組み込まれている。脚本も演出も非常に巧みです」 

    韓国ドラマでは過去、財閥出身のキャリアウーマンが描かれることはなかったが、「不時着」の主人公はまさにそれ。高飛車なヒロインが不遇な環境に置かれることで、真に大事なことに気付いていく姿が、多くの世代の女性に〝刺さった〞というのが山本氏の見立てだ。

    韓流スターのホログラムコンサートが開かれる「Klive」=ソウル市中区で2014年6月18日午後9時11分、三木幸治撮影
    韓流スターのホログラムコンサートが開かれる「Klive」=ソウル市中区で2014年6月18日午後9時11分、三木幸治撮影

    「虜」続出のヒョンビン、人気の秘密は「大学で学んだ演技力」

    とりわけ女性の心をわしづかみにしているのが、主演俳優のヒョンビン。

    「185㌢の長身に、相手役の女性が腕を回しても両手が届かないほどの広い肩幅。それなのに笑うとチャーミングだし、嫉妬する姿も可愛くて、もう虜です!」(50代・主婦) 

    堅物な軍人役を、ただ屈強なだけではない、優しくピュアな男として演じ切った。

    「ヒョンビンは05 年のドラマ『私の名前はキム・サムスン』でブレークしました。最高視聴率50・5%を記録した韓流ラブコメの傑作です。そして10年にドラマ『シークレット・ガーデン』で再ブレークし、地位を不動のものにした。でも、その人気絶頂のさなかに海兵隊に志願したんです。最も過酷な海兵隊を選んだことで、〝韓国の男の模範〞〝男の中の男〞として一目置かれる存在になりました」(山本氏) 

    ドラマには、時に「こんな設定ありか?」と突っ込みたくなる漫画的場面もあるが、結局ヒョンビンの魅力に〝持っていかれて〞しまう。

    たとえばジョンヒョクとセリが北朝鮮から韓国へと密航するシーン。途中で警備隊に見つかるも、何と婚約者同士のデートのフリをして、熱烈なキスで乗り切るのだ。 

    そのドラマにリアリティーを加味しているのが高い演技力である。

    ヒョンビンは韓国中央大学校演劇映画科大学院在学中、主演女優のソン・イェジンはソウル芸術大映画科卒業。

    ヒョンビンと同じく中央大学校で脚本を学んだ韓国女性はこう話す。

    「大学では発声法やキャラクターの把握の仕方など、演技のメソッドをきちんと学びます。それだけでなく俳優も監督や脚本を経験したり、実際に自分たちで映画も作る。卒業後もネットワークがあり、互いに切磋琢磨するのです。学校で演技を修める人が多いという意味では、ハリウッドも同様です」 

    ある日、スカウトされて芸能界入りし、いきなりドラマや映画の主演を務めることも珍しくない日本とは、そこが大きく異なるという。

    制作予算は日本の数倍……財閥が大金を投じて制作し、それがヒットする好循環

    ドラマの制作現場もしかり。

    「不時着」は、韓国で最も勢いのある制作会社、スタジオドラゴンの制作で、放送されたのはケーブルテレビ局のtvNだった。

    韓国では大手の地上波テレビの他に新興のケーブルテレビ局があり、そこが話題作を次々と世に送り出している。ケーブルテレビだけにタブーが少なく、視聴率も上がるというわけだ。

    「ネットフリックスで『愛の不時着』と人気を二分する青春復讐劇の『梨泰院クラス』も同じくケーブルテレビで初放送されました。財閥や投資家がお金をつぎ込み、良質な作品が生まれるという好循環が見られます」(山本氏) 

    実はtvNも、スタジオドラゴンもCJ財閥グループの傘下である。

    「不時着」の制作費は非公開だが、同じく人気の韓国ドラマ「ザ・キング:永遠の君主」は全16話で総制作費は約28億円とも。

    単純に計算すれば1話につき1億7500万円という多額の予算がかけられていることになる。「不時着」も恐らく同額に近い制作費と見ていいだろう。

    映画批評家の前田有一氏もこう話す。

    「北朝鮮のシーンはセットを組み、衣装やメーク、髪形もすべて再現しています。銃を使った戦いの場面も多く、空撮も何度かやり、海外ロケも敢行している。潤沢な制作費がなければ不可能でしょう」 

    韓国・羅州にある「朱蒙」の屋外セット。現在放送中のため韓国人観光客が多数訪れていた 2006年11月7日撮影
    韓国・羅州にある「朱蒙」の屋外セット。現在放送中のため韓国人観光客が多数訪れていた 2006年11月7日撮影

    一方で、明るさの見えない日本のドラマは斜陽産業だ。

    視聴率低迷からCMのスポット料金も下がり続け、現在はゴールデンタイム1話の平均制作費は2000万〜3000万円、最高額でも5000万円ほどが相場とされる。

    地上派テレビ局中心の日本の制作システムが現場のやる気を削いでいる

    だが問題は資金面に限らない。制作システムにも大きな違いがある。 

    日本のドラマは主にテレビ局主導で制作されてきた。ドラマのプロデューサーが企画を決め、制作会社に依頼するのだが、ヒットすれば多くはテレビ局の手柄となり、下請けにはほとんど光が当たらない。

    対して韓国は、制作会社がドラマの編成に企画を持ち込むケースが多い。パイロット版を見てもらい、テレビの編成が採用の可否を決める。

    成功すれば、制作会社の人間は評価と大金を手にすることができるのだ。 

    実は2月に米アカデミー賞作品賞を受賞し、話題となった韓国映画「パラサイト」も製作は同じくCJグループ。最も栄誉とされる作品賞で英語以外の映画が選ばれたのはアカデミー賞史上初であり、歴史的快挙と報じられた。

    「日本の映画人は口に出しては言いませんが、これにより『韓国がアジア映画界ナンバーワンである』という事実を決定的に突き付けられたと感じたでしょう。これまで自分たちはハリウッドにも影響を与えた小津安二郎、黒澤明というスーパークリエーターの系譜を継いでいるという自負と根拠なき自信を持っていた。でも学園恋愛ものの〝壁ドン〞などに力を入れている間に韓国に水をあけられたのです」(前田氏)

    「コンテンツの質よりクライアントへの忖度を重視」する日本の製作委方式

    現在、日本の映画界から突出した作品が生まれないのは、大手映画会社とインディーズとの間に大きな溝があることも挙げられる。

    「日本は東宝、東映、松竹という大手のメジャー作品とインディペンデント映画という二極化の状態になっています。興行収入の85%を大手が占め、残りの15%を小作品が奪い合っている。でも、本来は中間層が分厚くならないと産業として盛り上がらないし、作り手の士気も落ちてしまうのですが」(同) 

    3年前、話題になった短編映画「カメラを止めるな!」は300万円の低予算で製作されたが、「偶然的成功にすぎない」と前田氏は見る。

    「ハリウッドはエッジの効いた低予算の作品で有名になると、次は中間予算の映画に抜擢されて、やがてビッグバジェットの大作に起用される。ロールス・ロイスにだって乗れるという、いわば成功への道程があるわけです。でも日本にはそういうシステムがありません」(同)

    政府の文化予算を大幅に増やさなければ韓国には勝てない!

    では、現状打破のためには、どうすればいいのか。

    東京国際映画祭の作品選定に携わる矢田部吉彦氏に尋ねた。

    「フランス文化省の関連組織である国立映画センターCNCは、劇場収入の一部を映画税として徴収し、それを原資に野心的な企画に助成金を出しています。これが多様性あるフランス映画の基盤になっているのです。かたや日本の助成金は少なく、限られていて、自費に頼らざるを得ない。作り手が生活を維持しながら才能を発揮し、夢を抱ける環境作りを真剣に考える必要があります」 

    さらに問題点は、製作委員会方式にもある。

    製作委員会とは映画会社や広告代理店、放送局、出版社、レコード会社、芸能事務所などが映画に出資する企業の集合体で、予算を集めやすく、リスクを分散しやすいメリットがある半面、改善すべき点も多い。

    「製作委員会方式は他国でもやっています。ただ日本の問題は、たとえば一つの映画に出資した5社のうち、全社が納得する監督や脚本、キャスティングでなければならない点。だから自然に忖度をすることになる。ベストセラー漫画や小説の原作ものばかりが選ばれ、主演も人気タレントに集中します。気鋭の監督やプロデューサー、俳優は必要ないのです」(前田氏)

    そんな日本とは対照的に、韓国はフランスをはじめとする欧米の仕組みをモデルに、自国の映像産業を育て続けてきた。

    1997年、IMF経済危機の直後に韓国15代大統領に就任した金大中は、演説でこう語った。

    「今日の危機は克服できる。文化は21世紀の基幹産業になる。観光産業、コンベンション産業、映像産業、文化的特産品などには無限の市場がある。富の宝庫だ」 

    経済危機を乗り切るために、その突破口を文化政策に置くという強い意志により、2000年には文化予算が前年と比べて45%も増えた。

    政府予算のうち、文化予算が初めて1%に達したのだ。

    それ以降、歴代大統領も国主導の文化政策を推し進めている。

    日本の文化庁「諸外国における文化政策等の比較調査研究事業報告書」によれば、17年度の文化予算額はフランス4851億円、韓国2821億円、日本は1043億円。国家予算に対する文化予算比率は韓国1・05%、フランス0・88%だが、日本は0・11%にすぎない。 

    そういった国の助成金など豊富な資金を使って、韓国は才能育成に力を注いできた。

    韓国映画振興委員会KOFIC(前身は映画振興公社)はさまざまな活動を行っているが、その一つが、授業料無料でクリエーターを育てる韓国映画アカデミーの創設だ。

    「パラサイト」のポン・ジュノ監督もここから世界へと羽ばたいた。

    加えて韓国政府は助成金でO’PEN(オーペン)という、一種のプラットフォームも持つ。

    コンクールで選出された優秀な監督とプロデューサー、脚本家や製作会社など才能同士をマッチングするシステムであり、これも良質な作品を生む揺籃となっている。 

    それは映画だけではなく音楽業界にも通じる。国の助成金と育成システムにより隆盛を見たことは、たとえば18年に、BTS(防弾少年団)が全米アルバムチャート「ビルボード200」でアジア圏初の1位獲得という快挙を成し遂げたこととも無関係ではないだろう。 

    新型コロナ禍で映画や舞台の延期、中止が相次ぎ、エンターテインメントへの飢餓感やその必要性を自覚した人も少なくない。

    だが日本では芸術・芸能への支援が、韓国や欧州に比べても不十分だ。

    「3密」を避ける苦肉の策ながら、前向きにリモートドラマやライブの生配信が登場する中、ここは「不時着」よろしく、自ら〝竜巻〞を起こしてでも一線を越える大胆な施策を求めたい。

    本誌/鳥海美奈子

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