全員がアーティストであり、ビジネスパーソンでもある……LDHの快進撃を支える「360度マネジメントシステム」(EXILE AKIRA)
新型コロナウイルスの感染拡大でエンターテインメント業界も大きな打撃を受けた。国民的グループとなったEXILEも例外ではないが、逆境をバネに変える力に満ちあふれている。
(聞き手=加藤純平・ライター)(問答有用)
「今だからこそ新しいエンターテインメントを」
「全員で一つの“輪”になり 『360度ビジネス』で新たな世界へ挑戦していく」
── 新型コロナウイルスの感染拡大は、エンターテインメント業界にも大きな影響を与えました。
AKIRA 僕たちの活動のメインはライブです。僕たちの会社LDHは、ステージ衣装やグッズの製作、ダンススクールの経営、飲食店や海外事業の展開などさまざまなプロジェクトも手掛けていますが、それもライブがあってこそのチャレンジ。そんなライブがまったく開催できなくなり、大きな打撃を受けました。ですが、こんな大変な状況だからこそ、「本質」が明確に見えてきた気もしています。
── その本質とは?
AKIRA 日常のありがたみだったり、多くの人への感謝だったり、ライブができる喜びも改めて感じることができたことです。頭文字が社名でもあるように、僕たちの会社は「Love・Dream・Happiness」をテーマに掲げ、より多くの人たちに楽しんでもらいたいという思いでエンタメを創造してきました。こうした本質と向き合った先に、新しいエンタメの形があるのではないかと改めて考えています。
国民的グループに成長したダンス&ボーカルユニット「EXILE(エグザイル)」。現在はAKIRAさんら15人がメンバーとなり、2018年9月~19年2月には東京ドームなど各地のドーム球場を会場に全7公演のツアーを敢行。歌やダンス、華やかなステージの演出で、集まった累計約32万人のファンを魅了した。LDH所属の若手グループの台頭も著しく、新たな展開を見据えていた今年。新型コロナによって2月末以降の公演がすべて中止・延期となったが、それでもAKIRAさんは前を向き続ける。
── 最近は、AKIRAさんがグループを代表してコメントする場面が増えています。現在のLDHではどんな役割なんですか。
AKIRA 中間管理職ですかね。どの業界でも一番大変なポジションじゃないですか(笑)。EXILE TRIBE(EXILE関連グループの総称)のリーダーとして、LDH会長のHIROさん(13年にEXILEパフォーマーを勇退)と一緒になって今後、どう盛り上げていくかを考えたり、各グループのメンバーと意思疎通を取ったり。新型コロナの状況もあって、より一丸とならなければいけないので、とにかく縦横無尽に動き回っていますね。
HIROさんの存在感
── AKIRAさんはLDHのダンススクール「EXPG」でのインストラクターなどを経て、06年にEXILEメンバーになりました。今では表には見えない役割も大きくなっているんですね。
AKIRA LDHはHIROさんをはじめ、オリジナルメンバーが出資して立ち上げた会社であり、所属メンバーとスタッフが共に築き上げるのが当たり前という雰囲気があります。また、僕自身も、EXILEがあったからこそ、今の自分があると考えています。EXILEに学び、EXILEで夢を見られ、世界にも挑戦できるという環境があるので、恩返ししたい思いが強いですね。
── EXILE、そしてLDHではHIROさんの存在感は圧倒的ですね。AKIRAさんとHIROさんはどんな関係なんですか。
AKIRA HIROさんとはEXILEに加入する前、1年のうち360日ぐらい、一緒に焼き鳥を食べていたんです(笑)。HIROさんは常に自分の横で夢を語っていて、それをメモするのが僕の仕事でした。そういう関係性は今も変わっていません。HIROさんが築いた経営術や組織の作り方、仕事へのアプローチの仕方は、横にいたからこそ自然に僕の身についていると思います。
── 来年にはEXILEが20周年を迎えます。この間、メンバーの入れ替わりも経ていますが、AKIRAさんにとって最大の困難は?
AKIRA 13年から15年にかけて、HIROさんをはじめオリジナルメンバーが勇退した時ですね。結局、HIROさんという大きな船があったからこそ、僕たちは自由に航海できていたんです。HIROさんが「いい」と言えば、メンバー全員が心から「いい」と思えていた。それが、オリジナルメンバーの勇退を機に、それぞれのEXILE愛や価値観の違い、思いの差により、グループをまとめることがとても難しくなってしまったんです。
── メンバーのボーカル、ATSUSHIさんの海外留学に伴い、EXILEは16年8月、いったん活動を休止します。
AKIRA 当時は、EXILEを再構築しないとまずいなという感覚がありました。思い返すと、僕がEXILEの真ん中で気合いを入れて踊っている時、横にはHIROさんがいてくれました。でも、HIROさんたちがいなくなってみると、思うようにEXILEを動かせない自分がいて、ものすごく歯がゆかったですね。自分は何をやってきたんだろう、と絶望し、活動休止を機に一から勉強し直そうと考えました。LDHの人生で一番悩んだ時期かもしれないです。
「全員主役」の化学反応
── AKIRAさんは16年9月、EXILEメンバー5人の派生グループ「EXILE THE SECOND」(エグザイル・ザ・セカンド)に加入します。
AKIRA 彼らと一緒に次のEXILEを引っ張っていきたいと思い、メンバー一人ひとりに直談判してお願いしました。SECOND単独でライブツアーをやったり楽曲をリリースしたりして、改めて一からエンターテインメントを作り上げる工程を日々、勉強するような感じでしたね。SECONDのファンの人たちに、5人が築き上げてきた歴史とスタイルを大切にしながら楽しんでもらうのは大前提ですが、その先の新しいEXILEを見据えて、もう一度6人で頑張っていこうぜ、って。ここは大きな分岐点でしたね。
── 18年5月のSECONDのツアー最終日に、ATSUSHIさんをはじめEXILEのメンバーがサプライズ登場し、新生EXILEとして完全復活します。
AKIRA 充電期間を乗り越えたことでグループの結束がかなり強くなり、ようやくEXILEが回り始めたと思いました。他のメンバーたちも一人ひとりが成長し、個が強くなることで集団としてより強くなったんです。以前はHIROさん中心だったのが、今はEXILE、そしてEXILE TRIBEとして一つになっています。 こういう経験をしたからこそ、コロナの状況でもみんなで協力して新しいものを生み出そうという「輪」ができているのを実感しています。
EXILE TRIBEの活動は、いまやステージ上にとどまらない。ジャンルの垣根を超えた総合エンタメとして企画された「HiGH&LOW」シリーズは、架空の街で起こるグループ同士の対立や仲間の絆がストーリーの軸。15年にテレビドラマから始まり、メンバーがキャラクターとなって映画化や漫画化、アニメ化などを次々に展開していく 。昨年10月にはオンラインゲーム化も実現し、ゲームアプリは半年で50万ダウンロードを突破した。
── AKIRAさんも「琥珀」という人物になって登場する「HiGH&LOW」シリーズは、「全員主役」をキャッチコピーにうたっています。
AKIRA 僕たちは歌って踊るだけが仕事じゃなくて、一人ひとりが成り立ちや仕組みをしっかりと理解しながら自己プロデュースして夢をかなえていく。そして、各メンバーがアメーバのように動き回り、新しい化学反応を起こしたりすることで、いろんな可能性が生まれると思っています。その集大成が「HiGH&LOW」。僕たちがこれまでさまざまなコンテンツを作り上げてきたからこそ、新しいエンタメの形を生み出し、独自の世界観を表現することができました。僕たちの「360度ビジネス」を具現化できたと思っています。
メイド・イン・LDH
── 360度ビジネスとは?
AKIRA 僕たちは正式には「360度マネジメントシステム」と名付けていて、アーティストの才能と発信力を生かすため、アパレルや飲食店など幅広い業界に進出しているのもその一つ。グッズやライブの衣装もそうだし、モバイルアプリや雑誌『月刊EXILE』の刊行、テレビ番組「週刊EXILE」(TBS系)なども手掛けています。すべては意味なく増やしているのではなく、自分たちのルーツを生かし、多くの人に喜んでもらいたいという精神から生まれています。メンバー発案のプロジェクトも多いですね。
── 結婚式のプロデュースもしているのは驚きです。
AKIRA 僕たちのライブにはカップルや夫婦も多く、子どもやおじいちゃん、おばあちゃんとも一緒に家族総出で来てくれる人もいて、心から感謝しています。さらに皆さんの人生に華を添えられるように、LDHが結婚式をプロデュースすれば、一生の思い出として喜んでもらえるんじゃないかと考えました。僕たちがステージで着た衣装をお色直しで着てもらったり、楽曲を使ってもらったり、時にはサプライズでメンバーが登場したりと、いろんな工夫をしています。
── 海外事業ではどんなことを?
AKIRA 欧州法人の「LDHヨーロッパ」ではガールズグループを育成したり、僕が役員でもある米国法人「LDH USA」はロサンゼルスとニューヨークにダンス学校を構えたりしています。海外でLDHが築き上げてきたことを紹介すると、「お前らは一体、何者?」と驚かれるんです(笑)。自分たちはただダンサーというだけでなく、360度ビジネスなどバックボーンにこれだけ大きなものがあるのは武器。“メイド・イン・LDH”の精神で知らない世界にチャレンジしたいですね。
── プライベートでは昨年、台湾の女優・林志玲(リン・チーリン)さんと結婚しました。
AKIRA 結婚したことで、家族を持つことの責任が人としてもう一段成長させてくれ、表現の幅や伝えたいメッセージは大きくなりましたね。夫婦でミュージックビデオ2曲に特別出演したのは、楽曲のメッセージでもある「人間愛」をシェアしたいと思ったから。それは、海外での活動の中で感じたことでもあり、夫婦で表舞台に登場するのは日本ではなかなか見慣れない光景かもしれませんが、それを超えるような温かい、熱いメッセージをファンの皆さんに届けられたと思っています。
── これからの新しいエンタメの形とは?
AKIRA コロナ禍の中でスマートフォンのアプリなどオンラインの需要が増えました。そうした環境の変化とともに、世の中が必要とするものも変わっていきます。自分たちが届けるエンタメも一つの形に執着するのではなく、時代に合わせてアプローチすることが大切だと思っています。そこにヒントや可能性が埋まっているはずなので、下ばかり向くのではなく、今だからこそファンの人たちに楽しんでもらえることをたくさん考えたいですね。
(本誌初出 グループを一丸に=EXILE AKIRA EXILEパフォーマー/805 20200825)
●プロフィール●
エグザイル・アキラ(本名・黒澤良平)
1981年8月生まれ、神奈川県出身。高校卒業後、クラブイベントに出演中、EXILEメンバーの目に留まる。2003年からEXILEの所属事務所「LDH」のダンススクールEXPGのインストラクター。06年EXILEメンバーとなる。パフォーマーの活動に加え、俳優としても活躍。17年にはラルフローレンのアンバサダーにアジア人で初めて就任、19年にはグローバルモデル、アンバサダーとして世界の顔となった。著書に『THE FOOL 愚者の魂』(毎日新聞出版)。