投資・運用コロナ激変 不動産

安倍首相が辞任したものの、世界各国の不動産市場では今後も「アベノミクス」が続くワケ

    ソウル市江南区の公式アップル店舗(Bloomberg)
    ソウル市江南区の公式アップル店舗(Bloomberg)

     コロナ禍の中、経済動向に左右される不動産市場にも影響が出ている。

     景気の先行きを見極めたいと投資をいったん控える動きが出るほか、海外への渡航制限で実際の現物不動産をみることができず、不動産のクロスボーダー(国境を超える)取引は落ち込んだ。アジア太平洋地域では2020年第1四半期(1~3月)の域内全体の不動産取引額が前年同期比で35%減の282億ドル(約2兆9600億円)、このうちクロスボーダー取引は同53%減の84億ドル(約8820億円)となった(ドイチェ・アセット・マネジメント調査)。

    世界各国でアベノミクス

     ただ、不動産価格の観点からみると状況は異なる。取引額が減少しつつも全面的な値下がりにはならず、物流施設など一部のセクター、韓国など一部の国では活発な動きもみられる。

     この背景には、各国の中央銀行が実施した大規模な金融緩和が挙げられる。行き場を失った投資マネーがより高い利回りを求めて不動産市場に流れる構図だ。

     リート(不動産投資信託)指数の底値からの回復は、金融当局の量的緩和の効果を示すものと言える。実物不動産価格の先行指標となる日米のリート指数は3月に急落し底値を付けたのち、7月末までに4~5割値上がりしている(図1・2)。セクター別にみると、ホテルや商業施設のリートは低迷が続く一方、住宅は回復基調で、物流施設は堅調に推移するなど選別的な値動きだ。

     12年末からの第2次安倍晋三内閣の経済政策(アベノミクス)で最大の効果をもたらした日銀の異次元緩和は、資産価格の上昇を実現した。アベノミクス以降、首都圏のマンション価格は約1・4倍、都心一等地のオフィスビルの価格は2倍以上に高騰した。

     コロナ禍の中で現在、世界各国はいや応なく、過去の日本と似たような量的緩和政策を打ち出している。こうした施策の結果、当初予想されていた不動産価格の落ち込みが一定程度打ち消されている可能性があると考えている。08年のリーマン・ショックの際は、国内外で金融機関がリスク回避のため融資資金を引き揚げたが、今回は金融機関の不動産に対する融資姿勢も比較的安定しており、デベロッパーの倒産が相次ぐような兆候はなく、不動産価格の大きな下落もみられていない。こうした状況も不動産投資への過度の不安感を払拭(ふっしょく)する材料になる。

     不動産取引額は今後当面、低迷する見通しだ。しかし、金融市場で量的緩和が続く限り、不動産価格へのマイナスの影響は限定的にとどまる可能性がある。

    ソウルで高値取引

     代表的な例が、感染拡大への対策が早かった韓国だ。韓国は欧米のようなロックダウン(都市封鎖)を一度も経験せず、感染の抑え込みに成功した。金融政策の対応も効果的で、5月にベースレート(基準金利)を過去最低の0・5%に引き下げたほか、金融機関向けの資金供給オペ(公開市場操作)など、韓国で初の量的金融緩和策を導入。その結果、不動産借り入れコストも過去最低水準と資金の借り手に有利な状況にある(図3)。

     韓国では、コロナ禍による輸出低迷や不況は避けられそうもない状況にありつつも、投資家のマネーは不動産市場に流れ込んでいる。6月には、高層ビルが建ち並ぶソウル市江南地区のオフィスビルが史上初めて坪当たり3300万ウォン(297万円)の高値で取引されたと報道され、注目を集めた。

     この売買以外でも複数の高価格の取引が進行しているもようだ。物流施設でも一つの売買取引に10社以上の入札が殺到して価格が高騰するなど、活発な動きがみられている。

     借り入れコストの低下は韓国だけの現象ではない。米国など主要国では不動産借り入れ金利が過去1年間でみると大幅に下落し、不動産投資家に有利な条件がそろっている。空室率や賃料動向は今後少なくとも1~2年は低迷が見込まれるが、借り入れコストの低下の方が好機として注目されよう。

    セクターで明暗

     ただし、投資家のリスク選好によるセクターの明暗がはっきりしている。注目セクターは日本でも海外でも物流施設と賃貸住宅で、先行指標となる日米リートのセクター別指数にもこれが反映されている。

     特に物流施設セクターは、すでに日米両国でコロナ前の水準を上回っている。物流施設は以前からEコマース(電子商取引)事業者の需要が強かったが、外出制限でオンラインへの需要シフトが加速している。今後も物件の入札価格は高騰しやすい地合いにある。

     賃貸住宅は需要が安定している点が魅力だ。景気に影響されやすい分譲マンションと異なり、単身者や若い世帯向けの手ごろなサイズの賃貸物件は不況の影響を受けにくい。特に日本以外のアジアの国々では「賃貸マンション」という業態がまだ確立していないだけに、成熟した日本市場は機関投資家にとってアジア域内で最大の注目だ。

     一方、ホテルや商業、オフィスセクターはコロナ禍の影響がしばらく続くとの観測から回復には時間がかかるものと思われる。

    (小夫孝一郎、ドイチェ・アセット・マネジメント オルタナティブ調査部長)

    (本誌初出 金融緩和 不動産に向かう投資マネー オフィスビルが史上最高値=小夫孝一郎 20200901)

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