コロナでオフィス需要が大幅減……それでも「2025年まではオフィス物件の大量供給が続く」のはなぜ?
東京都港区。白い壁に覆われた8・1ヘクタールもの広大な更地の上で、無数の大型クレーンが空高く伸びる。森ビルが約5800億円を投じて臨む「虎ノ門・麻布台プロジェクト」の建設地だ。2023年の竣工に向け、着々と工事が進められている。
メインタワーの複合施設は地上65階建て、高さ約330メートルで、現在国内でもっとも高い大阪・あべのハルカス(約300メートル)を抜く。敷地面積は、03年に開業した港区のランドマーク・六本木ヒルズに次ぐ約6万3900平方メートル。延べ床面積約86万400平方メートルの約4分の1、約21万3900平方メートルが賃貸オフィスになるという。
ここから北東約1キロ、今年6月に暫定開業した地下鉄日比谷線の新駅、虎ノ門ヒルズ駅の頭上でも、せわしなく重機が行き交う。建設が予定されているのは、地上49階建ての虎ノ門ヒルズステーションタワー。供給されるオフィスの床面積は、今年1月に開業したばかりの虎ノ門ヒルズビジネスタワーと合わせて35万平方メートルを超える。虎ノ門ヒルズビジネスタワーには既に西松建設や日鉄ソリューションズなどが入居し、フェイスブック東京オフィスの移転も予定されている。
港区が開発の中心に
図1は、都内のオフィスビルの供給量の推移だ。20年は03年以来の供給のピークとなる。不況で延期された開発が、景気回復によって数年遅れで再開する傾向があり、さかのぼるとバブル崩壊後の1994年にもピークの山があった。
都心の駅から近い、真新しいオフィスには、成長企業が集積する。エリアごとに供給量の推移を見てみると、街の“栄枯盛衰”が一目瞭然だ(図2)。03年は六本木ヒルズ、06年は東京ミッドタウンの竣工によって港区が突出。10、11年は湾岸の再開発に合わせて豊洲エリアで竣工が相次ぎ、江東区の伸びが際立った。その後、開発の中心は丸の内・大手町を抱える千代田区に移るが、20年に入って再び港区が主役に躍り出た。
20年以降、港区では「虎ノ門・麻布台プロジェクト」「虎ノ門ヒルズエリアプロジェクト」のほかにも、東京ワールドゲート神谷町トラストタワー(20年、森トラスト)、世界貿易センタービル南館(21年、世界貿易センタービルディング他)、旧虎の門病院跡地の再開発(23年、都市再生機構)など、オフィスビルの大量供給を伴う大型プロジェクトが相次ぐ。
港区で虎ノ門とともに注目されるのは、高輪ゲートウェイ駅西側で25年の竣工が予定されている「品川開発プロジェクト(第1期)」だ。計画面積は約9・5ヘクタール。四つの街区にオフィスのほかマンションや宿泊施設など合わせて5棟が建設される予定で、建物全体の投資額は5500億円に上る。3棟の約30万平方メートルが賃貸オフィスになるという。
近隣に品川プリンスホテルやザ・プリンスさくらタワー東京など、4棟のホテルを持つ西武ホールディングス(HD)も、計約13万平方メートルの敷地でオフィスを含む複合開発を計画している。
27年には、丸の内・大手町・有楽町の大家主、三菱地所による大規模開発も待ち構える。東京駅東口の常盤橋地区(大手町2丁目など)に、虎ノ門・麻布台プロジェクトのメインタワーをしのぐ390メートルの高層ビルを建設する計画だという。
「オフィス需要」続くのか
20年の東京五輪開催に照準を合わせて進められてきた都心の大型開発。建設を後押ししているのは、「世界と戦える国際都市」の形成を目的に地域を限定して容積率・用途などの規制緩和や手続きの簡略化を図る国家戦略特区の特例制度だ。都内ではこれまでに、虎ノ門・麻布台プロジェクトを含む37件のプロジェクトが採択された。
だが、少子高齢化が進む中、オフィス需要の伸びは期待できない。都内のオフィスは、23年から25年にかけての大量供給によって供給過剰となり、賃料も下落に転じると言われてきた。コロナで都心一極集中の弊害が指摘され、働き方改革、オフィスのあり方の見直しが進む中、渋谷区や港区では既に、オフィスの空室率がじわじわと上昇し、賃料の下落も始まっている。今後、オフィスを供給するデベロッパーに勝算はあるのか。
編集部がデベロッパー各社に訪ねたところ、JR東日本は文書で「市場やニーズ変化を常に注視し、アップデートしていきたいと考えているが、オフィスやホテルなどの基本的な計画を変更する予定はない」と回答。西武HDの担当者は「交通利便性の高い都心の一等地のオフィスのニーズは揺らがないと考えている」と、楽観的な見方を示した。
(編集部)
(本誌初出 オフィス 2025年まで大量供給 都心プロジェクトマップ=編集部 20200901)