国際・政治「安倍から菅へ」

安倍政権四つの大罪と新総理に求める4本の矢=古賀茂明(上)

     第一次安倍政権を含め、バブル崩壊後の自民党政権は内政に関して四つの大罪を犯した。

     一つ目が日本を借金大国にしたこと。

     二つ目は少子高齢化を放置して社会保障の基盤を崩した。この2つは国民を不安にさせる。

     そして三つ目は日本を成長できない国にした。これが一番罪深い。日本はお金はあり技術もあり労働者も非常に勤勉だ。三拍子そろった好条件で、世界の成長センターのアジアの中にある。欧米からはうらやましい国に見えるなぜか日本だけは成長できないというパラドックスに陥っている。

     四つ目がエネルギー政策。原発にこだわって、福島原発事故の原因を作り、再生可能エネルギーをつぶしていた。

     国民にノーを突きつけられて2009年に自民党は下野したが、民主党政権の敵失で12年に復権した。本来はそこで出てきた新しい自民党が過去の過ちを反省、検証し、新しい答えを用意すべきだったが、実際に出てきたのはアベノミクスという言葉のまやかしだった。

     3本の矢と称して異次元金融緩和、機動的な財政のばらまきを徹底的に行い、最初の1、2年はカンフル剤効果をもたらした。それを3年、4年、6年とずっと続けてしまったことが非常に大きな問題。

     

     本来3本目の矢である成長戦略が一番大事だったが、そこが結局全く絵も描けず答えも出なかった。

     その結果何が起きているか。借金はどんどん増えた。戦後最長の景気拡大と言い続けて(実際はならなかったが)、その最中にどんどん財政支出を拡大した。普通景気がいいなら財政再建、財政規律を高めていくことができたはずなのに、そうではなく逆方向の借金大国に向かった。国の債務はますます拡大した。

    出生率、実質賃金、1人当たりGDPはすべて悪化

    日本の高齢化と少子化はどんどん進み、「世界一のがん大国」へ
    日本の高齢化と少子化はどんどん進み、「世界一のがん大国」へ

     少子高齢化を放置して社会保障制度を崩壊の危機に陥らせた過去の自民党の大罪もそのまま引きずっている。「女性活躍」などキャッチフレーズは出し、待機児童を減らす施策は打ったが、ふたを開けてみたら出生率は、政権発足の12年に比べ19年時点ではもっと低くなった。出生率は1.8を目指しますと言っていたが、1.8はおろか、1.36と4年連続の低下だ。

     そして肝心な経済成長。3本目の矢にあたる成長戦略を最初に発表した13年6月5日、株価は暴落した。「バイ・マイ・アベノミクス(アベノミクスは買いだ!)」(安倍首相)とマーケットを期待させておいて、出てきたのは官僚の作文だけ。日経平均はドカンと下がった。それ以来、結局成長戦略は何も出ていない。

    産業は自働車一本足からいまやトヨタ1社に

     象徴しているのが日本の産業構造。製造業が支えていたイメージがあるが、どんどんサービス化が進んでいた。しかしサービス業もIT分野は大きな柱にはなっていない。介護や飲食、観光などは拡大しているが、給料の安い仕事しか増えていない。

     しかも日本を支えていた電機は途上国の追い上げにあい、もはやベストテンにも入れなくなった。半導体もキオクシア(旧東芝メモリ)の9位が精いっぱい。スマホもダメ。太陽光は1990年代から00年代初頭はに常に日本がベストテンの3、4社を占めていたが、今は1社もいない。

    テスラの時価総額は日本車9社の合計を超えた

    時価総額でトヨタを抜いたテスラ(Bloomberg)
    時価総額でトヨタを抜いたテスラ(Bloomberg)

     電気自動車もテスラにやられっぱなし。トヨタ自動車がまだ電気自動車(EV)で攻勢をかけていない段階で悲惨な状況になっている。そこにコロナに襲われた。そのぜいじゃくな産業構造に対し、16年の通商白書は「日本の産業構造は自動車1本足打法になっている」ことを自ら認めた。そして1本足の自動車はもはやトヨタ1社体制になった。

     トヨタは巨大で資金力もある。ギリギリ頑張ろうとはしているが、日本の自動車産業を象徴しているのは、アメリカの新興EV専業メーカー・テスラが時価総額でトヨタを超え、その後さらに日本の自動車9社を合わせた時価総額でもテスラに抜かれたことだ。

    東証一部すべての時価総額を超えたGAFAM

     コロナで露呈した日本のIT化の遅れも深刻だ。一方で米国は経済のサービス化、IT化が進んでいるために、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのGAFAにマイクロソフトを加えた5社の時価総額は560兆円を超え、東証1部約2170社の合計すら上回った。コロナ禍でオンライン会議システムのZoom(ズーム)の世界ユーザーも4倍以上に増えている。コロナのおかげですと喜んでいる会社がたくさんある。この差がアベノミクスの結果だ。

     一方でどれくらい国民生活は豊かになったのか。

    実質賃金は4%下がった

     豊かさの国際比較で使われる1人当たりGDPで安倍内閣誕生の前年(11年)は世界で15位だったが、18年は26位に後退、アジア(中東を含む)では7位だ。

     しかも実質賃金は12年に比べ19年は4%以上減っている。4%も実質賃金が下がっているというのは相当ひどいことだ。安倍政権はその理由として、「今まで働きに出なかった奥さん方が、時給も増えているし、この際働こうと喜んで働きに出た結果、夫と妻の給料2人で割ると平均賃金が下がる。だけど家庭としては豊かになっている」と解説している。算数的にはそういう説明はできるが、何が起きているのかといえば「安い仕事」だけ増えているということだ。総所得は増えているが、1人当たりで見たらむしろどんどん下がっている。付加価値の高い産業が伸びず、成長できていないからだ。

     一番大事な国民生活がどれくらい豊かになったかという視点で見ても安倍政権にはプラスの評価を与えにくい。

    再生可能エネルギーをつぶした

    南相馬市の「南相馬真野右田海老太陽光発電所」。津波で浸水した約100㌶の土地に、22万枚を超える太陽光パネルが並ぶ。台風19号の影響で停止中だが、復旧への作業が続く。県は原発事故後再生可能エネルギーの導入を進め、県内電力消費量に対し、18年度は再エネ導入量が77㌫相当になった=南相馬市で20年1月30日、手塚耕一郎撮影
    南相馬市の「南相馬真野右田海老太陽光発電所」。津波で浸水した約100㌶の土地に、22万枚を超える太陽光パネルが並ぶ。台風19号の影響で停止中だが、復旧への作業が続く。県は原発事故後再生可能エネルギーの導入を進め、県内電力消費量に対し、18年度は再エネ導入量が77㌫相当になった=南相馬市で20年1月30日、手塚耕一郎撮影

     四つ目の大罪はエネルギー政策だ。これは世界から2周遅れ。途上国でさえ自然エネルギーの方が化石燃料より安くなっている。ところが日本だけは未だに高い。「再エネは高くて不安定」というセリフが成立してるのはもはや日本だけ。福島事故の後は、再エネを伸ばす絶好の時期だったのにそれをやらなかった。

     コロナ後の経済復興と脱炭素社会への移行を両立させる「グリーンリカバリー」では、欧州連合(EU)が飛び抜けて優秀で米国の各州も進めているところがあるが、ポイントは、彼らがコロナ禍の苦しみの中でも、将来のために投資先を「絞り込んでいく痛み」を歯を食いしばってやっていることだ。

    独仏が決断した自動車の脱炭素

     自動車産業を代表する先進国は米日独仏の4か国だが、独仏は実は日本よりもさらに経済的打撃が大きく、自動車産業は大きく落ち込んでいる。裾野が広いだけに「雇用をどうやって守るか」が大きなテーマになっているが、フランスもドイツもあえていばらの道を選んだ。

     自動車業界は何と言ったか。労働組合も企業もそろって大きな声で「とにかく新車販売に補助金を出してほしい」という要求を政府に出した。それに対してドイツもフランスも「わかった。しかしガソリン車、ディーゼル車は除く」と決断した。細かくいうとプラグイン・ハイブリット車を入れるか否か独仏で違うが、自動車業界だけでなく関連産業も含め財界団体はみな大ブーイングで、決まるまでに二転三転し、大激論がなされたが、結局はこれを決めた。

    コロナで骨抜きにされた日本のエコカー減税

    エコカーの先駆けとなったトヨタの初代プリウス
    エコカーの先駆けとなったトヨタの初代プリウス

     翻って日本のエコカー減税はどうか。よく見るとわかるが日本のエコカー減税はほぼ全ての新車が対象になっている。平均より燃費が悪くても対象なのだ。2年ごとに見直しがあり、今年はそれにあたる。現状があまりにもい加減だということで、租税特別措置の年末の税制改正の時に大幅にエコカー減税を絞ろうという議論が進んでいた。ところが自民党の甘利明税調会長は大手自動車から陳情を受けて「エコカー減税はそのままやります」と宣言したという。まだ税制改正の検討も始まっていないのに、「コロナで大変だ」という名目で結局いまの日本、安倍政権がやってきたことは「旧に復す」つまりポスト・コロナと言いながら「昔の生活に何とか戻したい」ことばかり考えている。

    近距離路線を廃止に追い込んだ仏航空行政の覚悟

     ヨーロッパはそうではない。「コロナ後は新しい世界を作るんだ」という覚悟で相当に厳しい決断をしている。フランスはコロナ禍で旅客需要が激減したエールフランスに補助金を出す見返りとして近距離路線をすべて廃止にせよと迫った。例えばパリ-リヨン間などはTGV(高速鉄道)で移動した方が二酸化炭素(CO2)の排出が少ない。エールフランスといえば、組合の強い会社だが、ストライキの脅しも含めすったもんだした揚げ句、結局はそれをのませた。

     フランスはそれぐらいの強いリーダーシップを持って苦しくても歯を食いしばって新しい社会をつくろうとしている。日本にその覚悟はあるのか。

    ◇こが しげあき

    1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官。「改革はするが戦争はしない」を基本理念とする市民の集まり「フォーラム4」提唱者。元報道ステーションコメンテーター。2015年外国特派員協会「報道の自由の友賞」受賞。著書に『国家の共謀』、『日本中枢の狂謀』など。

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