国際・政治「安倍から菅へ」

安倍政権四つの大罪と新総理に求める4本の矢=古賀茂明(下)

    自民党総裁選について毎日新聞のインタビューに答える菅義偉官房長官=東京都千代田区の衆院第2議員会館で2020年9月4日、丸山博撮影
    自民党総裁選について毎日新聞のインタビューに答える菅義偉官房長官=東京都千代田区の衆院第2議員会館で2020年9月4日、丸山博撮影

    口が裂けても“出口”と言えない次の総理

     自民党のこれまでの成長戦略をみると、痛みを伴う改革など全くやってこなかった。IT化一つとってもはんこ議員連盟が反対してそれを潰す。そういうことを平然とやってきた。安倍政権は本来これだけ支持率が高く、ある意味で政治的資産が大きい。それを使って抵抗が大きくても難しい改革に取り組めるはずだった。その力を持っていたはずなのに、それを全くそういう方向に使わず、日本の経済をどんどん悪くした。

     しかも次の政権は安倍政権のように長期政権にならない、そうだとしたら安倍政権のばらまき、緩和を続ける可能性がある。しかし第一の矢、第二の矢の「出口」をどう見つけるのか。気が遠くなって誰も考えられない状況になっている。しかも「出口を考える」と言っただけでマーケットにショックが起きて株式相場が大暴落する懸念がある。まともな首相なら「出口のことを考えないといけない」と言いたくなるところだが、新しい総理が「そろそろ出口のことを考えます」とは言えない。安倍政権はそういう状況にまで日本を追い込んだ。

     安倍政権が誕生した時はまだプライマリーバランスをどうするとかという話を真剣にやっていた。「2年でデフレを脱却する」と言っていた。カンフル剤は2年でおわりということだ。それが今や金融緩和を止められない麻薬中毒患者になってしまった。

     残っていた日本経済のギリギリの底力、遺産を全て使い果たしてカツカツにして逃げ出したのが安倍総理ではないか。

    国民のメンタリティを変えるリーダーが必要

     野党にできるかというと野党には経済のプロがいない。しかし、9月2日に民主党の若手21人が記者会見を行い。「民主党は抜本的見直しが必要だ」と提言を出した。代表選に若手政治家が候補を出そうという動きが出ている。

     国民が「大変だ、明日は私たちどうすればよい」というとき、多くの庶民は「自分たちの生活をなるべく変えないで、なんとか今の生活を維持したい」という守りのモードに入っている。

     新しい政権が「痛みはありますけど改革に耐えてください」というメッセージを打ち出したら、「やめてください。もう十分痛みは感じています。私たちの生活だけはなんとか変えないでそのままにしてください」というふうになる可能性がある。

     そういう国民のメンタリティーを大きく変えていくようなメッセージを発信できるリーダーが出てこないとダメだ。

    新総理に求められる二つの資質

     国民の誰でも「がんばれば新しい未来が待っているんだ」という夢を持ちながら痛みに耐えてがんばっていくように思えるためには、新しい指導者に2つ要素が必要だ。

     1つは「この人はほんとに私たちのことを考えてくれる」と言う信頼感。安倍政権にはなかった。それが大前提だ。

     しかし、それだけではダメで、もう一つは、本当に新しい道に引っ張っていくだけのシナリオを作って、綿密に動かしながら運営していく実行力があるか否か。単に威勢が良いのではなく日々の努力がある。この二つを持っている指導者でないとダメだ。

    経産省は解体し農水省と合併、DX省を作れ!

    安倍晋三首相(左)と首相官邸に入る今井尚哉首相補佐官。安倍首相は多くの経産省出身者を重用したが、その中でも最も信頼を得ていたのが今井氏だ=東京都千代田区で2020年5月4日午後4時35分、竹内幹撮影
    安倍晋三首相(左)と首相官邸に入る今井尚哉首相補佐官。安倍首相は多くの経産省出身者を重用したが、その中でも最も信頼を得ていたのが今井氏だ=東京都千代田区で2020年5月4日午後4時35分、竹内幹撮影

     安倍内閣は「経済産業省内閣」と言われていた。経産省は面白い官僚が集まっていて前向きな話をする人が多いから、意外と役に立つのではないかという期待もあったが、結局あまり大したことができなかった。

     私はむしろ経産省は解体したほうがいいと思う。とくに国民へのメッセージとして。その一つはエネルギー関連を環境省に移す。環境省の役人が優秀というわけではない。経産省の優秀な官僚を環境省に移籍させたほうがいい。経産省は常に原発のことを考えないといけない。そのくびきから解放し、エネルギー政策は環境省に明け渡す。そして環境省の大臣は再生可能エネルギーを中心とした新しいグリーンリカバリーのシナリオを作れる人を送る。

     もう一つは経産省にはデジタルや情報関係の部署が多くあるが、総務省にも旧郵政部門があり、通信を中心にデジタル部門担当の部局がある。内閣府にもある。これらをすべて統合してDX(デジタル・トランスフォーメーション)省を作ればよい。DX省の大臣は民間人。上層部もほとんど民間人が占め、昔の産業再生機構のようなイメージの組織をつくる。DXについての政策はすべてそこで統合的にやる。外国人もどんどんアドバイザーに入れていく。

     日本はさまざまな技術で世界最先端のものを持っているがシステム化していくのが苦手だ。そのためには規制改革も必要だ。そういうのも突破していく役所としてDX省をつくる。担当大臣を設置するのではダメで、恒常的な役所を作るべきだ。

     そうなると経産省の産業政策はほとんど意味がなくなってくるので、縮小して農水省と合体させ、産業省にする。そうすれば官庁は一つ減るからDX省を作っても役所は増えない

     通商交渉は経産省がやる時もあれば、経済財政担当大臣がやる時もあるし、外務大臣が中心にやる時もある。農大臣も重要なプレイヤーだ。通商交渉も経産省を含めた各省庁の部門を集めて米USTRのような組織としてJTRを作って政府全体を統合してやればよい。

    省庁再編の障害は官僚の抵抗だけ

    中央省庁(手前)や国会議事堂(右奥)が集中する東京・霞が関周辺。左奥に首相官邸が見える=東京都千代田区で2012年7月11日午後2時1分、本社ヘリから武市公孝撮影
    中央省庁(手前)や国会議事堂(右奥)が集中する東京・霞が関周辺。左奥に首相官邸が見える=東京都千代田区で2012年7月11日午後2時1分、本社ヘリから武市公孝撮影

     ある大臣とこの構想について話したが、「大変だよな」という。しかし全然大変ではない。法律をちょこちょこっと書き換えればできる。何が大変かといえば官僚が抵抗するからだ。しかし安倍政権は官邸主導の人事で官僚を支配したのだから、そういう時こそこの力を使えばよい。

     官僚が抵抗すればそれとガンガン戦う姿勢を国民に示していく。それを打ち出せれば、「消費減税します」とか「給付金を国民全員に」というより、国民に対して、新しい世界を目指すメッセージになる。

    「そういう世界で自分たちは働けばよいのか」と未来に希望が持てる。

     それとともに絶対やらないといけないのは教育。学生だけではなく働いている人の教育も重要だ。「これからはAI(人工知能)でどんどんあなたたちの仕事はなくなります」という警鐘を鳴らす声がある。それが不安なら、政府が「全部教育しなおします。誰でもやる気ある人はみんな無料で勉強できます。ITでどんどん産業が芽生えてくる。そこに行ってGAFAのような仕事を生み出してお金を稼ぎましょう」というメッセージを出したらどうか。

    必要な4本の柱

     キャッチフレーズ的にいえば4本柱。1つはDX、もう一つはグリーンリカバリー、そして分散革命、最後が全世代向け教育だ。

     分散革命とはエネルギーの中央集権から地域分散というだけでなく、また、単に地方に補助金を交付するのではなく、リモートワークでも、観光でもITやデジタルを駆使した付加価値の高い仕事をどんどん地方で起業してもらう。人も地方に住んでワーケーションとギガワーク、ワークシェア的な新しい手法をどんどんできるようにする。そして四つ目は、それらを実現するために必要な全世代への教育だ。

    菅氏に抑え込まれたメディアのあきらめ

    記者会見する菅義偉官房長官=首相官邸で2020年9月4日午前11時18分、竹内幹撮影
    記者会見する菅義偉官房長官=首相官邸で2020年9月4日午前11時18分、竹内幹撮影

     いま密室の議論で「菅首相が誕生する」といわれている。困ったことだと思うのはマスコミが安倍首相に抑ええつけられたトラウマがあるからか「菅氏にも抑えつけられるもんだ」と思い込んでいる。だから菅批判を誰一人書かない。スタートからこうなっていると大変なことになる。

     本当はここで一度、安倍首相から解放されたのだから、「何でも好き勝手に書くからな」という姿勢を示し、「総理をやりたいなら、日本の経済をどうするのかその構想を示せ。菅氏からそんな話は聞いたことがないぞ」とどんどん突っ込むべきだ。しかし、「緊急事態という理由で党員投票しないで菅首相になったらすぐ解散」と報じる。党員投票なしと解散総選挙の記事を同じ記者が書いている。これは考えられない。

     党員投票をしないのは緊急事態だからできないという理由だ。解散などやってる余裕はないはず。そんな矛盾した話をよく書ける。それは政権からリークされた情報で記者が書いているからだ。こんなにワンサイドでやられたら菅氏の言うことを聞くしかない。

     官僚にも、記者にもまともな人はいる。しかし、その人たちが抵抗しようにも、「どうせ菅総理に抑えつけられる」と言う雰囲気ができてしまったら、「自分だけがんばっても村八分にされ、つぶされて終わりだ」とあきらめてしまう。それは避けなくてはいけない。(了)

    ◇こが しげあき

    1955年、長崎県生まれ。東京大学法学部卒業後、旧通産省(経済産業省)入省。国家公務員制度改革推進本部審議官、中小企業庁経営支援部長などを経て2011年退官。「改革はするが戦争はしない」を基本理念とする市民の集まり「フォーラム4」提唱者。元報道ステーションコメンテーター。2015年外国特派員協会「報道の自由の友賞」受賞。著書に『国家の共謀』、『日本中枢の狂謀』など。

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