フォートナイトvsアップル戦争 エピックが宣戦布告した「腐ったリンゴ」の専横【オンライン独自コンテンツ】
全世界に3億5000万人のユーザーを持つ人気ゲーム「フォートナイト」を運営する米エピックゲームズがゲーム課金に30%もの高額の手数料を取るアップルに反旗を翻し、世界中のゲームユーザーが沸騰している。 (オンライン限定ミニ特集:フォートナイトはITの民主化を勝ち取るか)
エピックの直接課金に激怒したアップル
ことの発端は、エピックゲームズ(エピック)が8月13日、アップルのアプリストアを介さず、フォートナイトの直接課金に乗り出したこと。このゲームはスマホやパソコン、ソニーのプレイステーション、任天堂のニンテンドースイッチなど据え置きゲーム機で展開されており基本は無料。キャラクターの着せ替え衣装などをゲーム内で買う課金型のシステムを採用している。スマホ版の場合は、アップルの「アップストア」や、グーグルの「グーグルプレイ」経由で課金を行うため、30%の手数料がアップルなどに落ちる。
しかし直接課金ならこの手数料は落ちずにエピックに直接入る。エピックは浮いた手数料を直接課金の提供価格に反映し、ゲーム内で使える通貨を最大20%割引で販売している。しかも課金画面では、アップストア、直接課金の両方の選択肢とそれぞれの価格が並んでいるため、ユーザーがどちらを選ぶかは明白だ。
このように課金型ゲームで直接課金のシステムを導入されると、アップルやグーグルには1円も入らないことも考えられる。
アップルをパロディCMでこき下ろしたエピック
ちなみにフォートナイトの2019年のビデオゲームの売り上げは史上最高の18億ドル(約2000億円)で、スマホなどモバイル向けは3~4割占めると見られる。仮に3割としても、単純に考えるならアップルとグーグルは労せずして1億ドルのキャッシュを手に入れることができる計算だ。
直接課金の導入に怒ったアップルは、これをガイドラインの規約違反と判断し、8月14日にアップストア内からフォートナイトを削除。グーグルも追随する形でグーグルプレイ内からフォートナイトを削除した。
対するエピックは削除後、すぐに両社を提訴し、アップルのマッキントッシュのCMのパロディー動画を作るなど徹底抗戦の構えを見せている。
このCMは、当時、圧倒的シェアを誇った米IBMのコンピュータを、近未来の監視社会を描いたジョージ・オーウェルのSF小説『1984』の監視者「ビッグ・ブラザー」に見たて、一方のアップルを閉塞感に満ちた世界を破壊するイノベーターとして描いた名作として語り継がれている。これをパロディーにしてアップルをこき下ろしたのである。
手数料騒動は確信犯か
実は、エピックが手数料関連で騒動を起こしたのはこれが初めてではない。複数の大手ゲーム会社で開発に携わるゲーム開発者によれば、同社のパソコンゲーム用のダウンロード販売プラットフォーム「エピックゲームズストア」立ち上げの際、すでに販売プラットフォームとして大きなシェアを獲得していた米バルブ・コーポレーションの運営する「スチーム」の半分以下の手数料を提示し、スチームの手数料が高すぎるという議論を投げかけたという。
フォートナイトのプレイヤーに向けても、アプリ起動後に今回の件に対する声明文を発表、ユーザーを巻き込む形で「フリーフォートナイトカップ」というゲーム大会も開催した。エピックはこの大会開催を報告する際に、アップルを「腐ったリンゴ」と表現している。
「ゲーム制作ツールの削除」を警告
騒動が過熱する中、アップルは報復第2弾として、8月28にエピックゲームズの開発者用アカウントを削除すると警告した。この措置で特に影響を受けるのと見られたのがエピックのゲーム制作ツール「アンリアル・エンジン」だ。
アンリアル・エンジンは、エピック以外のゲーム会社や個人開発者でも使えるように一般公開されている人気の製作ツールで、日本でもスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエスト」やバンダイナムコエンターテインメントの「鉄拳」といった大型タイトルをはじめとし、大手ゲーム企業がこぞって使うほどに需要がある。また、映画業界の製作現場でもアンリアル・エンジンが採用されている。
スマホゲームも例にもれず、多くのゲームでアンリアル・エンジンが採用されているのだが、報復第2弾の発表でアンリアル・エンジンで開発されたすべてのゲームが影響を受ける可能性も懸念されたため、エピックはアップルにこの報復を停止するよう求める申し立てを行った。
結果として、28日にエピックの開発者アカウントは削除され、同社が公開しているすべてのゲームは削除、更新ができなくなったが、裁判所の判断でアンリアル・エンジン向けの開発者アカウントはそのまま残ることになり、最悪の事態はひとまず回避される形となった。
アンリアル・エンジンの利用減少も
しかし、これで終わったわけではない。裁判はまだこれからも続き、展開によってはアンリアル・エンジンが使えなくなる可能性はいまだに残る。そのため、これから新規でモバイル向けのゲームを作ろうとしている会社にとって、アンリアル・エンジンを使うのは、自殺にも等しい行為と言えるだろう。
そうなると考えられるのが、アンリアル・エンジンと人気を二分するゲーム制作ツール、米ユニティ・テクノロジーズの「ユニティ」にユーザーが流れるという展開だ。モバイル向けはもともとユニティが強いとされており、今後はユニティを選ぶ企業も増えると考えられる。つまり、「アンリアル・エンジンが使えなくなる」という状況をくすぶらせておくことは、エピックにとってさらに致命的な状況に発展しかねない。
今回の対立には、実はもう一つの側面が存在する。エピックの裏には中国IT大手テンセントの影があるのだ。テンセントは12年、エピックの当時の発行済株式総数の48・4%の株式を3300億ドルで取得。取締役の指名権を持ち、グループ関連会社として処理している。現在の出資比率は40%前後と見られ、筆頭株主は約50%を保有するCEOのティム・スウィニー氏となっている(以下の記事につづく→アップル税に反旗を翻した米エピックゲームズの影に中国テンセントの野望 )。
アップルもエピックも資金は有り余っている企業。お互い「最後まで殴りあう」という判断も十分に選択肢に入ってくる。現にアップルは9月8日、直接課金システムの使用中止を求める形で、エピックを反訴した。
この問題は、下手をするとかなり長期化するかもしれない。
(白鳥達哉・編集部)