ソニーが新型ゲーム機 「PS5」で過渡期に挑む 米IT企業と競争激化=岡安学
ソニーのゲーム子会社、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が6月12日に開催した映像イベントで、今年冬に発売される新型家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)5」の片りんが見えてきた。
イベントの最後にPS5本体と高精細のHDカメラ、リモコンなどが映し出された。光線の反射や屈折をシミュレーションして立体像を作る「レイ・トレーシング(光線追跡法)」や、4Kテレビ対応などの発表済みの機能に加えブルーレイの後継光ディスク「ウルトラHDブルーレイ」対応機種と、ディスク駆動部を廃した「デジタル・エディション」の2種類をそろえたことが話題となった。
ソニーのゲーム事業がグループ全体に占める割合は2019年度実績で23・2%。映像・音響・モバイル機器を手掛ける「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション事業」(23・9%)と並ぶ屋台骨だ。それだけに、PS5にかける同社の期待は大きい。
今回、2機種を投入したのも、過渡期に差し掛かっているゲーム機のハードウエア競争で、高いシェアを維持するための戦略だ。
ゲームコンテンツも、インターネットからのダウンロード型への移行が進んでいる。物理的な形状があるメディアの所有にこだわる感覚が薄い若い世代と、物理メディアにこだわりがある、年齢が比較的高い世代の双方の嗜好(しこう)に配慮した結果だろう。光ディスク搭載機のさまざまな付加価値も、ネット配信によるサブスクリプション(月額定額制)の利便性を知ったユーザーには響かない。
個人向けのコンシューマゲーム機は、次世代モデルが登場するまで基本性能が変わらない。そのため、パソコンやスマートフォンに対して新機種の投入ペースが遅く、ハードの性能で優位性を失いやすい。また、新機種は発売直後に専用タイトル数が少なく、購入が手控えられることがある。
コロナで停滞
PS5発売後は、同じ据え置き機である米マイクロソフトの「エックスボックス・シリーズ・エックス」や、大ヒットした任天堂の「ニンテンドースイッチ」、さらにパソコン用の「Steam(スチーム)」などと競合関係になる。
ただ、最近のソフト開発メーカーの傾向では複数のゲーム機ハードに対応する事例が多く、オンラインへの対応でもハードの機種を超えた対戦可能な「クロスプレー対応」となることが多く、ハード間の差異は縮小している。複数のハード機用に展開されないソニーや任天堂のゲームで遊びたいかどうかがハード機選びの基準になるであろう。
ソニーのゲーム事業部門の2019年度営業利益は2384億円で、連結営業利益の28%を占める稼ぎ頭。コロナ禍の巣ごもり生活によりゲームのプレー時間が増え、ゲーム業界は好調だが、コロナ禍の影響でゲーム機の生産は停滞している面もある。ニンテンドースイッチの品薄は、人気だけでなく中国での生産がストップしたことも原因だ。
PS5発売と同時に十分な数を用意できるか、専用ソフトの開発が間に合うかといった点は懸念材料といえよう。高性能スマホを優に凌駕(りょうが)する性能を有していても、そのスマホの半額以下でないと、消費者には見向きもされないのがゲーム機の宿命だ。
ソニーの新たな強敵は米巨大IT2社だ。グーグルが「Stadia(ステイディア)」を、アップルが「Arcade(アーケード)」をそれぞれ昨年、ネット配信サービスで開始。競争激化は否定できない。
(岡安学・デジタルライター)