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経済・企業 「安倍から菅へ」

「新政権で仕事をする?あり得ない」竹中平蔵(東洋大学教授、元総務相)

反論 常識的だったアベノミクス 菅氏は「正論」勝負の人

 小泉純一郎政権で総務大臣を務めた竹中氏は、当時副大臣だった菅義偉官房長官とも親交がある。竹中氏に安倍政権の評価と菅氏の政治手腕を聞いた。

(聞き手=編集部、構成=和田肇・編集部)

── 安倍晋三政権の経済政策をどう評価するか。

■大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」は経済学的に言えば極めて常識的で正しい。だが、安倍政権の最大の貢献は金融政策のルールを明確にしたことだ。中央銀行は独立していなければならないが、政策目標は日銀が勝手に決めるものではない。政府が物価目標2%を掲げているのに日銀が0%では困る。目標を共有し、それを実現する政策手段は日銀が独立して決める。これが普通の考え方だ。しかし、日本はそこが今まであいまいだった。それが、1990~2000年代を通して日銀が日本経済に十分に貢献できなかった理由だ。安倍政権は2%物価目標という政策目標を政府と日銀で共有し、実現できる日銀総裁を選んだ。大きな政策変更だ。

── 「大きな政府」を目指した安倍政権下で、国の国債・借入金、政府保証債務は約1100兆円とGDPの2倍に達した。

■コロナ禍の前と後で評価は異なる。12年の民主党政権下の3党合意(社会保障と税の一体改革に関する合意)は個人的には間違いだと思う。それを引き継いで安倍政権は消費増税を決断した。

 一方、足元の一般会計は160兆円規模に膨らんでいるが、これはコロナ対策で財政と金融をフルに活用せざるを得なかった。そこは認めないといけない。

 しかし、今後コロナ禍が長期化すれば、また財政・金融政策を使う局面が来る。その「負の側面」のコントロールは極めて難しい。新政権のマクロ経済対策は「ナローパス(狭き道)」になる。

無派閥という「菅派閥」

── 総務大臣当時、副大臣を務めたのが菅氏。その手腕は。

■私は霞が関に来て日も浅かったので、人事は相当程度、菅さんに任せた。官僚に睨(にら)みが利くのは重要だ。改革はリーダーシップがないとできないからだ。国家戦略特区など多くの改革で、根回しを含めて菅さんが手腕を発揮した。その強みは「情報収集能力」と「政治的腕力」にあるだろう。

 政治的腕力を示す話として、新千歳空港の民間発着枠の拡大がある。同空港の航空管制を担っていた自衛隊が当初、「民間枠は増やせない」と言ったのに対し、菅さんは担当の役人を全員呼んで数字で説明させたところ、矛盾が出てきて、結局は枠を増やした。

 横浜市議会議員から身を起こした菅さんは、「正義魂」のようなものを持っている。駆け引きでなく「正論」で勝負するオーソドックスな政治家と言える。

── 菅内閣はどうなる。

■私が新政権で仕事をするという見方をする人がいるが、私は一度退いた人間なので、あり得ない。

 菅さんは非常に広い人脈を持っている。若手の起業家たちとの勉強会にも熱心だ。さらに「無派閥という名の“菅派閥”」と言われるように、派閥に属さない若手議員たちが菅政権を支えるのではないか。菅さんは以前から「若い人たちにつなぎたい」と言ってきた。新政権では安倍政権の枠組みを引き継ぎつつ、若手を多く登用するのではないか。


 ■人物略歴

たけなか・へいぞう

 1951年生まれ。一橋大卒。ハーバード大客員准教授などを経て、2001~06年の小泉政権で経済財政政策担当相、郵政民営化担当相、総務相を歴任。16年から現職。博士(経済学)。慶応義塾大学名誉教授。

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