原発は「コストが高すぎて採算がとれなくなった」の衝撃……原発産業はこのまま滅びてしまうのか
国内で稼働中の原子力発電所の原子炉は、9月18日時点で3基しかない(表)。
テロ対策で義務付けられる特定重大事故等対処施設(特重施設)の建設が遅れていることから、これまで再稼働した9基のうち、関西電力高浜3号機と九州電力川内(せんだい)1、2号機は特重施設の整備遅れで、原子力規制委員会により停止させられている。
川内原発の特重施設設置期限は1号機が今年3月、2号機が5月で、高浜3号機は8月だったが間に合わず、「規制が厳しすぎる」との声が関係者から出ている。だが本来は、特重施設設置を受けて再稼働認定するのが筋だ。
2018年策定の第5次エネルギー基本計画では、2030年に原子力比率20〜22%を目標に据えており、これは再生可能エネルギーと同程度の比率だ。しかし、原発比率の現状は9%程度。今後の原発再稼働も特重施設工事の関係で、稼働しても停止する可能性は高い。また、原子力規制庁による再稼働審査も長期化する傾向にある。再稼働コストも増加しており、原発新基準適合のためにかかる投資額は、1基当たり平均約1000億円以上とされ、今後さらに膨らむ可能性がある。
原発事業の投資対効果は見込めなくなっており、廃炉を決定した原発は全57基中、24基に達する。投資額が1兆円を超えるような原発新設も、現状では採算の見通しが立たない。中国電力島根3号機など、ほぼ完成している原発が再稼働することはあっても、以後の計画の実現性は不透明だ。
新設が途絶えて10年
核燃料サイクルも完全に行き詰まっている。日本原燃の青森県六ケ所村再処理工場は、来年夏以降に稼働準備が整うものの、高速増殖炉「もんじゅ」は既に廃炉が決定し、残るプルサーマル(ウラン燃料を燃やしてできたプルトニウムを、さらにウランと混合させた「MOX燃料」で発電すること)も再処理工場の建設費・運営費回収を考えると、現在の再稼働基数では到底足りない。
三菱重工業、日立製作所などの原発プラントメーカーは、今でも原発関連で1500億円程度の売り上げ規模を持つとされるが、かつては各社5000億円程度はあった。原発新設が途絶えて約10年。原発技術者が減少する中で今後、メーカー側も事業継続に黄信号が点灯している。「原発推進」か「脱原発」か。袋小路を脱するため、菅義偉新政権は、早期に判断を示す必要がある。
(宗敦司、エンジニアリング・ビジネス編集長)
(編集部)
(本誌初出 原発「袋小路」 核燃サイクル破綻 見えない再稼働=宗敦司/編集部 20201006)