「不妊治療」株 菅政権「保険適用」追い風に 富士製薬、あすか製薬が急伸=赤羽高
自民党総裁選が告示された9月8日、菅義偉官房長官(当時)が目玉政策の一つに不妊治療の保険適用拡大を掲げると、不妊治療で使われるホルモン製剤を手掛ける製薬会社の株価が急騰した。富士製薬工業は前日比25%上昇、あすか製薬も同17%と急伸(図)。両社の株価は菅新政権の発足後も、田村憲久厚生労働相が不妊治療の助成金増額を検討すると表明したことなどを受け、それぞれ2日間で7%、14%上昇した。(本当に強い バイオ医薬株)
バイオ医薬品の中でも、人間の体にある内分泌物質(ホルモン)を由来とするホルモン製剤は、技術的に新しい分野ではない。開発ターゲットとしては、抗体医薬品などに主役の座を譲って久しく、「オールドバイオ」の部類に入る。しかし、バイオ医薬の主流になりつつある抗体医薬品に比べると生産コストが低く、主用途の不妊治療分野は治療助成金や新婚世帯の補助など行政からの支援もあり、新たな成長分野に再浮上しつつあった。そこに、不妊治療の保険適用拡大という追い風がさらに吹く。
現在、不妊治療の中でも保険適用されるのは、排卵誘発剤を使う治療など一部に限られる。体外受精や顕微授精といった生殖補助医療は自由診療で、用いられる黄体ホルモンも保険適用外。黄体ホルモンは卵巣から分泌され、受精卵の着床や妊娠維持に働く代表的な女性ホルモンだ。
ホルモン製剤に成長余力
関連の黄体ホルモン製剤としては、富士製薬が2016年2月に発売した「ウトロゲスタン」、あすか製薬が16年4月に発売した「ルテウム」のほか、スイス中堅製薬の日本法人フェリング・ファーマの「ルティナス」、独メルクの日本法人メルクバイオファーマ社の「ワンクリノン」などがある。
生殖補助医療の保険適用の議論はこれまでも、少子化対策としてたびたび俎上(そじょう)に上ってきた。しかし、若年層の出産を推進する観点から幼児教育の無償化や児童手当などが優先されてきた背景がある。少子化対策が実を結んでいないこともあり、不妊治療の強化が再び政策面で浮上してきた。黄体ホルモン製剤の市場規模は、足元では30億円程度。しかし、保険適用が実現すれば市場が一気に拡大する期待もある。
また、ホルモン製剤は、特許期間が切れたバイオ医薬品の後続品「バイオシミラー」の分野での展開も進む。バイオシミラーは、一般の後発医薬品(ジェネリック医薬品)と同様、低薬価で医療費の抑制が期待されている。日本ジェネリック製薬協会によると、20年1〜3月期のジェネリック医薬品の市場占有率は78・5%で、政府が掲げる8割の目標に届きつつある。
抗体医薬品分野のバイオシミラーも登場しているが、市場成長余力の大きいホルモン製剤分野は引き続き成長市場だ。ジェネリック専業メーカーに加えて、協和キリン、持田製薬、日本化薬といった新薬メーカーへの期待も高まっている。
(赤羽高・東海東京調査センターシニアアナリスト)