同一労働同一賃金 最高裁が5件の判決予定 賞与、扶養手当の扱い焦点=向井蘭
「同一労働同一賃金」に絡む5件の裁判で、10月13日から15日にかけ相次いで最高裁の判断が示される。いずれも、無期雇用の正社員と有期雇用の非正規従業員を巡る不合理な待遇格差を禁じる旧労働契約法20条の解釈が争点で、旧労契法20条の規定は今年4月1日施行のパート・有期雇用労働法8条に引き継がれている。最高裁判決はどこまでの待遇格差が「不合理」かの指針となる。
13日に判決が言い渡されるのは、大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件だ。大阪医科薬科大学事件では、正社員と同じくフルタイムで働いていた大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)の元従業員(アルバイト)が、正社員に支給されている賞与が支給されないのは不合理などとして提訴。大阪高裁は昨年2月、元従業員に対して賞与の6割以上の相当額の支払いを命じる判決を下した。
メトロコマース事件では、東京メトロの売店で働いていた非正規従業員が、東京メトロの子会社メトロコマースに対し、退職金や住宅手当などで正社員と待遇格差があるのは不当として提訴。東京高裁は昨年2月、退職金が一切支払われないのは不合理として、非正規従業員に退職金の一部を支払うよう初めて判示したほか、住宅手当などについても「違法な格差」と認めた。
15日に判決が出される日本郵便事件は、日本郵便の契約社員らが東京、大阪、佐賀地裁で起こした3件の訴訟が対象で、手当や休暇などで正社員との待遇格差を争い、18〜19年に高裁判決が出された。このうち、東京、大阪高裁判決では、住居手当については正社員と同等の支給を認め、判決が確定している。また、大阪高裁判決では、年末年始勤務手当などについて「雇用期間が5年超であれば不合理」との判断を示した。
格差の基準示す
もっとも、大阪医科薬科大学事件の最高裁判決では、賞与の6割以上相当額の支払いを認めないのではないか。日本郵便事件やメトロコマース事件では、賞与の金額(正規雇用との格差)部分について、労働者側の上告が受理されず、格差を合法とした高裁判決が確定しているからである。ただし、労働者側の訴えは認めないものの、賞与について最高裁が何らかの基準を示す可能性が高い。
そうなれば、最高裁の基準内容次第では実務に多大な影響を及ぼす。多くの会社が正社員のみに賞与を支払い、非正規従業員には支払っていないからである。また、「退職金を原告らに支給しないことが不合理かどうか」が争点に絞られているメトロコマース事件でも賞与と同様、最高裁が退職金について何らかの基準を示す可能性が高い。
日本郵便事件の最高裁判決で、注目すべきは扶養手当についての判断だ。大阪高裁は原告への扶養手当の不支給について「不合理ではない」としたが、最高裁は労働者側の上告を受理しているため判決で覆る見込みが高い。企業規模を問わず扶養手当や家族手当を正社員にのみ支払っている事例は無数にあり、これらが全て違法となると実務に与える影響は非常に大きい。
(向井蘭・杜若経営法律事務所弁護士)