全日空に続いて大リストラを断行? 民営化後最大の危機を迎えたJR東 コロナによるダメージの本当のヤバさ
JR東日本が1987年の設立以来、初めて赤字に転落する見通しとなった。コロナ禍で鉄道収入の回復が見込めないため、大規模なリストラは不可避だ。
同社が9月16日に発表した2021年3月期の業績予想は、連結最終損益が4180億円の赤字(前期は1984億円の黒字)、鉄道事業の収支を示す個別の損益も3640億円の赤字。連結・個別とも最終赤字となった年はなく、民営化後経験したことのない危機と言っても過言でない。
同社は21年3月期の旅客運輸収入を1兆200億円と見込む。前期は1兆7928億円であったから前期比56・9%の大幅減だ。
特に、同社の2本柱のうちの一つ、新幹線などの中長距離客は自粛期間明けの8月に入っても前年比23・8%と不振を極め、もう一つの柱となる首都圏の定期券客も同じく前年比78・1%と低迷。誤算だったのが、今年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)の乗降者数だ。足元で1日約2万人と、当初見込んでいた1日約4万人の半分にとどまる。
深沢祐二社長は9月3日の会見で「鉄道の輸送需要は完全には元に戻らない」との認識を示した。
羽田新線は凍結か
収支改善には営業費用の削減が必須となる。
JR東は21年3月期、1500億円のコストダウンを目標としているが、達成は容易でない。鉄道事業は固定費の比率が高く、変動費は車両の動力費や他社との乗り入れに要する手数料などに限られる。同社の17年度の鉄道事業での固定費を試算すると1兆3849億円と、営業費(1兆6365億円)のうち84・6%にも達する。列車を間引いて運転したとしても収支はほとんど改善されない。
打開策の一つが、「定期券の時間帯別運賃」の導入だ。混雑する時間帯の運賃を上げる一方、すいている時間帯の運賃を下げれば、乗客数を平準化できるため、JR東が抱えている社員や車両の削減が可能になる。というのも、同社の社員4万6439人、車両1万2986両(17年度末時点)は、混雑時対応のために確保している面があるからだ。
設備投資も見直す。20年度は19年度比296億円減の7110億円にするとした。設備のスリム化や車両更新周期の見直しなどを検討している。あおりを受けるのがJR東の主導で建設中の羽田空港アクセス新線だ。総工費3400億円の多くをJR東が負担するため、今後、計画の一時凍結か中止が検討される可能性もある。
コロナの影響が長引く場合、JR東の鉄道事業の再編も考えられる。地域ごとに分社化し、各社で収支均衡を目指して独自の運賃を設定する形もあり得る。
これは、首都圏や新幹線で上げた利益で地方の損失を補うという同社発足以来の構造からの決別を意味する。利用者が少なく、利益を期待できない場合は沿線の自治体からの援助が必須で、そうでなければ路線網の縮小もやむなしとなるかもしれない。
(梅原淳・鉄道ジャーナリスト)
(本誌初出 鉄道にリストラの波 JR東が初の赤字転落へ コロナ長期化で事業再編も=梅原淳 20201006)