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半沢直樹でも手がつけられない……コロナで壊滅的打撃のJALとANAの末路

    大量運休で出番を失った旅客機が並ぶ羽田空港 筆者撮影
    大量運休で出番を失った旅客機が並ぶ羽田空港 筆者撮影

     6月上旬、羽田空港を訪れると、新型コロナウイルスの感染拡大によって搭乗時の光景は一変していた。

     チェックインカウンターにはビニールカーテンが張られ、保安検査場には検温用サーモグラフィーが設置されている。至る所に消毒液が置かれ、利用者に手指の消毒を促す。搭乗口では足元に間隔を空けて並ぶことを促すラインが引かれ、地上係員がそれをアナウンスする。

     日本航空(JAL)は乗客を10~20人程度に分けて機内へ案内する。全日本空輸(ANA)は上級マイル会員などを最初に搭乗させる「優先搭乗」を一時中止。後方窓側席から順に案内を始め、最後に前方通路側席の乗客を乗せる「6段階方式」を採用する。

     機内では、客室乗務員がマスクと手袋を着用して接客。飲み物の提供は冷たいお茶などに限定するなど、機内サービスは縮小されている。両社は機内清掃や消毒の頻度を増やした上で、6月から希望者への除菌シートの提供も開始した。

     海外の航空会社では、機内への持ち込み手荷物の数を制限するなど、乗客同士、または乗客と客室乗務員が接触する機会を最小限に抑える工夫をしているという。

     ただ、こうした航空会社の取り組みは、実際に空の便を利用してみなければわからない。

    飲み物の提供は冷たいお茶などに限定されている(6月) 筆者撮影
    飲み物の提供は冷たいお茶などに限定されている(6月) 筆者撮影

     ANAは平子裕志社長が自らPR動画に出演し、自社の取り組みを紹介する。JALの株主総会では、整備部門出身の赤坂祐二社長が「機内の空気は2、3分ですべて入れ替わる。循環する空気も、高性能フィルターを通して常にクリーンな状態が保たれている」と強調した。実際、航空機が採用している「HEPA(高効率粒子状空気)フィルター」は、0・3マイクロメートル以上の粒子を99・97%捕集する機能があり、病院の手術室の空調設備にも使われている。各社は機内の安全性をアピールし、窓の開かない密閉空間に対する不安を払拭(ふっしょく)しようと躍起だ。

    国際線回復は3年後

     コロナによる世界規模の移動制限によって、航空業界は大打撃を受けた。ANAホールディングス(HD)の1~3月期売上高は前年同期比20%減の3920億5000万円。営業損益は588億5000万円の赤字、経常損益は631億7700万円の赤字、純損益は587億9100万円の赤字だった。四半期利益が赤字に転落するのは2018年1~3月期以来で、1~3月期としては過去最悪となった。

     JALも同様だ。1~3月期売上高は前年同期比21%減の2803億円、営業損益は195億円の赤字、経常損益は192億円の赤字、純損益は229億円の赤字で、1~3月期利益の赤字転落は12年9月19日の再上場以来初めてだった。

     さまざまな対策が功を奏し、国内線については両社ともに復調傾向にある。JALは6月から徐々に便を増やしており、8月には計画比9割の便を運航するまでに回復する。7割が運休していた5月からは隔世の感だ。ANAも、6月には69%だった減便率を7月には51%まで減らしている。

    機内の換気に使われている高性能フィルター 筆者撮影
    機内の換気に使われている高性能フィルター 筆者撮影

     ANAHD傘下でLCC(低コスト航空会社)の「ピーチ・アビエーション」は、都道府県をまたぐ移動の自粛が緩和された6月19日から国内全路線の運航を再開した。7月22日には国内全便を再開、8月には大幅増便を実施して国内旅行需要を喚起する方針だ。

     一方、国際線には入国制限や検疫といった課題があり、需要減退の長期化は避けられそうにない。JAL、ANAともに国際線の売り上げは国内線との比率で5割弱を占める。「国内線の利用者はなんとか1日3万人まで戻した(平常時は13万人)。ただ、国際線に至っては1日1000人を切っている(平常時3万人)。回復にはまだまだ時間がかかる」。ANAなどを傘下に持つANAHDの片野坂真哉社長は6月29日の株主総会で、依然厳しい国際線の現状を強調し、融資枠を含め1兆円規模に上る借り入れや、新規採用の見送りについて理解を求めた。

     世界の航空会社などが加盟する国際航空運送協会(IATA)は、各国の国内線需要は22年に19年の旅客水準に戻ると見込む一方、国際線の回復については入国制限などによって23~24年にずれ込むと予測する。

     海外では、新型コロナの影響による経営破綻が相次ぐ。4月にはヴァージン・オーストラリアが事実上、経営破綻。5月にはタイ国際航空が会社更生手続きを申請し、6月にはタイのLCCノックスクートも清算を発表した。

     欧米では、政府による大規模な救済が始まっている。ルフトハンザドイツ航空は最大90億ユーロ(約1兆円)の公的支援を受けると発表。米財務省は航空業界向けの給与支援プログラムとして、計95億ドル(約1兆円)の資金援助を実施した。

    大量輸送時代は終わる

    もう一つ、航空業界が直視しなければならない現実がある。

     これまで航空会社は国際線ビジネスクラスを利用する出張客を軸に成長戦略を描いてきた。だが、コロナによるテレワークの普及や出張経費の削減といった働き方の変化によって、この戦略が大きく崩れる可能性がある。売り上げを維持するためには、観光需要の取り込み強化が不可欠だ。需要が急増したマスクや医療品を中心に貨物需要が旺盛だが、今後は旅客だけでなく貨物の収益性をどれだけ高められるかも課題となる。

    国際線の回復がままならない中、貨物臨時便の運航が相次ぐ 筆者撮影
    国際線の回復がままならない中、貨物臨時便の運航が相次ぐ 筆者撮影

     こうした中、航空各社が進めているのは、燃費の悪い旧型機の退役だ。豪州のカンタス航空は「ジャンボ」の愛称で親しまれたボーイング747の退役時期を当初計画より半年前倒しし、運航コストの削減を図る。近年の旅客機はエンジンが2基だが、ジャンボは倍の4基あり、その分燃費が悪い。日本では旅客型については既に全機退役しており、世界的に見ても旅客機から貨物機に移行させる傾向にある。

     エールフランス航空は総2階建ての超大型機エアバスA380の運航を6月で終了した。A380もジャンボと同じくエンジンが4基あり、運航コストの高さが課題だった。同社はコロナ以前から、最大10機保有していたA380を削減。旅客機は通常、20年程度運航させるところを、09年の就航からわずか11年で退役させている。

     A380を世界最多の115機運航する中東のエミレーツ航空も、46機を退役させる予定と報じられている。A380の生産は21年には完了する予定で、最終号機はエミレーツ向けだ。500席を超える座席数を設定できるA380に代わり、これらの航空会社は今後、エアバスA350や中型機のボーイング787を増やしていく方針だ。

     一度に大量輸送する時代は終焉(しゅうえん)を迎え、1便当たり200~300席で1日2~3便運航する多頻度運航の傾向が更に強まりそうだ。

    各国で退役が進む超大型機 筆者撮影
    各国で退役が進む超大型機 筆者撮影

    ニーズ高まるビジネス機

     日本では、JALが100%出資の中長距離国際線LCCの「ZIPAIR(ジップエア)」を6月に就航させ、成田─バンコク線の運航を開始した。現在は入国制限によって貨物専用便になっているが、使用するのはフルフラットシート採用のビジネスクラスを含む2クラス290席の中型機だ。ANAHD傘下のピーチも中距離国際線LCCへの参入を表明しており、エアバスA321LRという航続距離の長い機体を発注済みだ。

     世界的に国際線の旅客需要が回復期に差し掛かるとみられる23年は、ANAがボーイング777の発展型の次世代大型機777Xを、JALが大型機A350の長胴型A350-1000を、それぞれ欧米路線に投入する年でもある。

     いずれもコロナ以前に計画されている。出張をオンラインで済ませる人が増えるとしたら、ドル箱のロンドン便やニューヨーク便は従来通りファーストからエコノミーまでの4クラス展開のままでよいのか、機内の半数をビジネスクラスとする構成でよいのか、という疑問が湧く。

     ただ、A350は約4日間で客室仕様を変更できる構造を採用しているため、繁忙期と閑散期で上級クラスの比率を変更する方法もあり得るだろう。

     エコノミーの座席を外して貨物を載せられるようにした航空会社もあり、今後、機体メーカーにはこれまで以上に柔軟な運用ができる機種の開発が求められそうだ。ボーイングはコロナ前、米中関係の悪化による需給調整によって主力の787の生産レートを月産14機から10機に減らした経緯があり、23年にはそれを12機まで戻す計画だった。ところがコロナを受け、22年には逆に7機に半減させる方針を発表している。運航する航空会社もメーカーも、今後数年は厳しい状況が続きそうだ。

     一方で、期待できる分野もある。大量輸送の超大型機の退役が進む一方で、1機当たりの定員が20人にも満たないビジネスジェットのニーズが伸びている。利用者は「長時間、他人と隣り合わせになるのは怖い」という富裕層だ。日本の大手2社もコロナ以前から事業を立ち上げており、今後新たな収入源に成長する可能性を秘める。

     コロナによって激変する航空事情。ビジネスモデルの転換によって、航空各社は何とか生き残ろうとしている。

    (吉川忠行・『Aviation Wire』編集長)

    (本誌初出 JALとANAの行方 テレワークでビジネス客減少 ドル箱国際線の仕様変更も=吉川忠行 20200728)

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