コロナで「世界最悪の被害」 イギリス経済が「どん底」に陥っている根本原因
新型コロナウイルスの感染第2波や現実味を増す合意なき欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)の可能性、失業者の大量発生の懸念など、英国経済の先行きに不透明感が漂っている。
英国の2020年第2四半期の経済成長率は、前期比マイナス19・8%と、1955年の現統計開始以来の過去最大の下げ幅となり、G7(主要7カ国)の中で最も急激な景気後退を見せたことになる。
上半期で英国経済は21・8%縮小した(図)。
英国は欧州において新型コロナによる最大の死亡者数(約4・3万人、10月12日時点)という不名誉な記録も残した。
10月に入っても、1日当たりの新規感染者が1・5万人を超える日が続いている。
しかも、検査を受けたくてもすぐには受けられなかったり、大規模検査・追跡システムが十分に機能していないという問題も抱えている。
全国的なロックダウン(都市封鎖)の再導入も懸念されたが、10月12日にジョンソン首相は、感染状況に応じ地方自治体単位で3段階の制限措置を導入すると発表した。
英国の経済成長率が低迷した理由は、政府対応のまずさによるロックダウンの長期化や旅行セクターの比重が他国に比べ高いこと、ブレグジットを巡る不確実性といった複合的な理由が背景にある。
ブレグジットは協定交渉が難航しており、合意なき離脱となる可能性が現実味を帯びてきている。
失業者400万人
英国経済の最大のリスクは、一時帰休の取り組みが10月末に終了し、政府の雇用支援策は段階的に縮小されるため、失業率が急上昇することである。
英国予算責任局(OBR)の7月時点の予測では、一時帰休終了を要因とする最悪の場合のシナリオとして、20年末までに失業者が倍増以上の400万人に増え、21年第1四半期に失業率が13・2%とピークを迎える可能性を指摘している。
これは6〜8月の失業率(4・5%)のおよそ3倍に達する。
また、10月9日に発表された8月の月次の国内総生産(GDP)成長率は前月比2・1%と7月の同6・4%より低下した。
英国では8月の月〜水曜日限定で、外食半額の取り組み (英国版「GoToイート」)が実施され、景気改善があったにもかかわらず、回復ペースは既に落ち込んでいる。
第3四半期のV字回復も幻に終わり、長期にわたり緩やかな景気回復を示す「U字型」か、感染拡大の第3波、4波が到来する度に景気の大幅な後退と回復を繰り返す「W字型」の成長となる懸念も出てきた。
このままでは、向こう数カ月で新型コロナ感染の再拡大や制限措置の再導入により、英国経済が苦境に陥り、英中央銀行(BOE)が5月当初に想定していたように、1709年の大厳冬による飢饉以来、過去300年で最悪の経済成長率の低下(年率マイナス14%)となる可能性が高まっている。
(菅野泰夫・大和総研ロンドンリサーチセンターシニアエコノミスト)
(本誌初出 リスク9 1日1万人感染 経済は過去最悪=菅野泰夫 20201021)