テクノロジーコロナ株高の崩壊

新型コロナワクチンが「完成しても簡単には使えない」理由

    新型コロナのワクチンは常温で分解されやすい(Bloomberg)
    新型コロナのワクチンは常温で分解されやすい(Bloomberg)

    米国では、新型コロナウイルスの1日当たりの新規感染者数が10月16日に6万9156人(ジョンズ・ホプキンズ大)と、8月以降では最大の新規感染者数を記録した。

    早期完成が望まれるワクチンの開発状況を見ると、中国やロシアでは数千~数万人を対象としてワクチンの有効性や安全性を評価する第3相臨床試験の結果を待たずして「緊急使用」が認められた一方、米国を含む多くの国では使用が認められていない(10月19日時点)。

    米食品医薬品局(FDA)は10月6日、ワクチンの緊急使用承認(EUA)の際の指針を公表した。

    開発する製薬会社に対して、被験者へのワクチン接種から最低2カ月間の経過観察などを求める方針を示した。

    この指針に従えば、トランプ米大統領が選挙を意識して言及していたワクチンの「10月中の完成」の可能性が極めて低くなる。

    ホワイトハウス側は新指針に反対していたとされるが、最終的にはFDAの指針を承認した。

    背景にあるのは“拙速な承認プロセス”に対する懸念の声だ。

    民間調査会社ピュー・リサーチ・センターが9月に実施したワクチンの接種意向調査では、「接種する」と回答した人の割合が5月調査時に比べて大幅に減少し、「接種しない」と回答した人の割合は大幅に増加した(図)。

    さらに、接種しないと回答した人に理由を尋ねた調査では、副作用や有効性に対する懸念が上位を占めた(表)。

    接種率が低ければ、感染再流行を抑えられない可能性がある。

    「マイナス70度」必要

    もう一つ大きな課題がワクチンの「輸送」だ。

    承認取得に最も近い位置にいると思われる米ファイザーと独ビオンテックが共同開発しているワクチンは、ヒトの体内に新型コロナウイルスの表面に突き出ている「スパイク」の設計図を載せた「メッセンジャーRNA(mRNA)」という物質を送り込み、その偽物を体内の細胞に作らせることで、体が持っている免疫反応を誘導する仕組みだ。

    しかしmRNAは分解しやすく、同社のワクチンはマイナス70度での保管・輸送が必要になる。

    そのため、専用の低温保持輸送箱が開発されたが、この容器は

    (1)1日に2回以上開けてはならない、

    (2)一度に1分以上開けてはならない、

    (3)5日後にはドライアイスの補充が必要

    ──など、従来のワクチンに比べて制約が多い。

    施設が整った都市部の病院であればともかく、地方のクリニックなどでこのワクチンを効率的に接種するのは容易ではない。

    なお、米国ではドライアイスの原料は、バイオエタノールの副産物としての二酸化炭素(CO2)が約4割を占めていた。

    コロナ禍により燃料用エタノールの需要が落ち込み、一部地域ではCO2の需給が逼迫(ひっぱく)していることも気がかりだ。

    (近内健、丸紅経済研究所チーフ・アナリスト)

    (本誌初出 リスク10 ワクチン 難しい低温輸送 接種率低迷も=近内健 20201103)

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