総合商社の雄、丸紅が「eスポーツ」に進出するワケ……コスト削減で利益を出す経営はそろそろ限界なのか
足元の既存事業は新型コロナウイルス禍でも一定の成果を出しているが、今後もGDP(国内総生産)と同程度の成長率しか期待できない成熟安定領域だ。
長い目線で捉えると、ビジネスモデルが10年後には半減している危機意識が社内にあった。
高い成長性を持つにもかかわらず、当社が全く手を付けていない未開拓領域を「ホワイトスペース」と呼び、時間をかけて育てることが、2019年4月に新設した次世代事業開発本部の使命だ。
中間層が台頭し、アジアには大きな消費パワーがある。東南アジアや中国をイメージし、中国子供教育事業や医療品流通・製造など12のテーマに絞って消費を取り込んでいきたい。
半数を外部人材
直近はヘルスケア・メディカル(医療)分野で形になる案件が多い。
中国の上海復星医薬と合弁会社を設立(18年6月)し、日本製医薬品の卸販売事業に着手した。
2次性副甲状腺機能亢進(こうしん)症治療剤の「レグパラ錠」(協和キリン)など2種類を販売し、即座に黒字化した。
来年10月にはロシアのハバロフスクでロシア鉄道と共同で、日本式の人間ドックを提供する「予防医療診断センター」の開業を予定しており、1年で黒字化できると考えている。
こうした事業は長い時間をかければ、100億円規模の事業になる。
他社にない事業では、eスポーツを柱にしていきたい。
競技に集まる人々は「ミレニアル(1981年以降に生まれ、00年以降に成人を迎えた)世代」。
先行する米国でeスポーツの視聴者やファンを対象に動画・記事配信、イベント企画などを通して収益モデルを確立し、そのモデルをアジアに横展開して大きな事業にしていく。
一見、こうした事業は既存事業と重なり合わない「飛び地」に見えるが、次世代で成長する事業の開発過程には普遍性があり、当社が過去に成し遂げてきた「勝ちパターン」と重なっている。
例えば、カタールで手がけたLNG(液化天然ガス)事業やインドネシアなどでの工業団地の開発や分譲、管理を行う事業だ。
早いタイミングで成長領域を捉え、ファーストムーバー(市場にいち早く参入すること)になる。
大きな投資やM&A(企業の合併・買収)で「のれん」の減損リスクを抱えるよりは、1、2年で結果を出そうとせず長期目線で事業を開発する考え方が、過去の成功案件に共通している。
80、90年代に成功した普遍的な事業開発プロセスが当社には明確にあり、パターン化できている。
これをヘルスケアやeスポーツなどに応用できればモノにできる。
00年以降、事業領域の中でコストを削って利益を出す色が強くなり、長期的に投資をし、利益を回収する発想が薄くなっていた。
時間を味方につけて、長期的視点からの判断を繰り返しできるかが求められている。
次世代事業開発本部は20代後半から40歳前後を中心に比較的若い約90人の体制で組織している。
問題解決が得意なコンサルやデータ分析ができる外部人材も約3割いる。
意見の不一致が発生した場合の自由な議論が事業開発には有効だ。
商社の中にいると発想が似通ってしまうため、思考の多様性をより促すため、今後、同本部の半数を外部人材としたい。
(大本晶之・丸紅執行役員 次世代事業開発本部長)
(構成=柳沢亮・編集部)
(本誌初出 丸紅 医療、eスポーツの収益化目指す=大本晶之 20201027)