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今年度のノーベル経済学賞に輝いた「オークション理論」と日本の深い関係……菅政権が検討?「周波数オークション」にも応用

今年のノーベル経済学賞は、米スタンフォード大学のポール・ミルグロム教授とロバート・ウィルソン名誉教授に決まった。

功績は数多いが、放送や通信向け電波の周波数の権利割り当ての競売などに使われる「オークション理論」の発展に貢献したと評価された。

周波数の割り当ては古くからの懸案事項だった。

1990年代までは、政府当局が事業者に提出させた計画書を基に、最も「優れた」事業者を選ぶ比較審査方式が各国で採用されていた。

しかし、当局が計画書だけで優れた事業者を選ぶのは限界がある。

特にこの方式は、既存業者に有利で新規参入を妨げ、選定に時間がかかるうえ審査過程が不透明になる問題があった。

経済学の知見を積極的に政策に取り入れる土壌のある米国では当時、理論的な進展が目覚ましかったオークションの採用は自然な流れだった。だが、周波数オークションには、他の伝統的なオークションと比べ、大まかに二つの困難があることが理論的に知られていた。

実際、先行したニュージーランドでは、制度設計の不備で大きな成果を上げられなかった。

困難の一つは、周波数の価値には、全ての事業者が共有する「共通価値」が多く含まれることだ。

この下では、より楽観的な予測をした事業者が落札することになるが、この予測は平均的に高すぎるため、落札者が結果的に損をする「勝者の呪い」という現象が起きる。これは事業者の積極的な入札を阻害する要因となる。

もう一つは、周波数は通常、地域ごとに分割してオークションにかけられるが、事業者にとっての周波数の総価値は、単体の価値の合計ではなく、その「組み合わせ」で決まる補完性(シナジー効果)があることだ。

例えば、日本で県ごとに利用権を分割したとして、北海道と沖縄の利用権を落札した事業者が事後的に効率的な経営を行うのが難しいことは明白だろう。

衆院総務委員会で携帯電話の通信料金引き下げなどを促すための電気通信事業法改正案が全会一致で可決され一礼する石田真敏総務相=国会内で2019年(平成31年)4月18日、川田雅浩撮影
衆院総務委員会で携帯電話の通信料金引き下げなどを促すための電気通信事業法改正案が全会一致で可決され一礼する石田真敏総務相=国会内で2019年(平成31年)4月18日、川田雅浩撮影

米、収益10兆円超

これらの問題を回避するため、両氏が中心となって設計したのが「同時競り上げ式オークション」だ。

94年に米連邦政府が電波利用権を通信会社に割り当てる入札で採用され、これまでに10兆円を超える収益を政府にもたらした。

重要なのは、それまでの理論研究の蓄積により、周波数オークションを難しくする要因が先述の「共通価値」や複数財の「補完性」といった概念で正確に認識されていた点だ。

制度設計でも最先端の知見がフルに活用された。経済理論の威力が余すところなく発揮された事例と言えよう。

ちなみに、いまだに比較審査方式を採用しているのは先進国では日本くらいだ。

菅政権は、携帯料金の値下げを政策目標に掲げるが、市場構造を固定化したまま価格設定に介入するのは、決して筋が良いとは言えない。

それよりはオークションにより、制度の透明性を確保して新規参入を促す方が、通信業界の長期的な活性化には有効だ。周波数オークションの一日も早い導入が望まれる。

(石田潤一郎・大阪大学社会経済研究所教授)

(本誌初出 ノーベル経済学賞に米2氏 周波数オークションの扉開く 日本ではいまだ導入されず=石田潤一郎 20201027)

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