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「空から見た東京が美しい」の反面「飛行機が真上に飛んできて驚いた」「騒々しい」の声も……都心上空を通過する「羽田便新ルート」の評判

    新宿上空を飛ぶANA機
    新宿上空を飛ぶANA機

    今年3月29日、羽田空港に着陸する飛行機の都心上空を飛行する新ルートの運用が開始された。

    これまでは風向きに関係なく、千葉県上空から着陸するルートのみとなっていたが、新ルートでは池袋や新宿、渋谷、恵比寿、目黒、大崎、品川などといった都心上空を飛行する。

    羽田空港では滑走路4本のうち2本同時に着陸することが可能となっている。

    北海道などの北方面からの到着便では主に山手通りに沿った中野、代々木公園、渋谷、代官山、目黒上空の飛行ルート、沖縄や九州、大阪など南方面からの到着便では新宿上空付近から山手線の少し内側に入り、表参道や広尾、白金付近の上空のルートを飛行して着陸することになる(図)。

    東京の新たな魅力

    筆者も3月末に運用を開始した後、新ルートでの着陸を5回ほど体験したが、着陸直前の機内の雰囲気が大きく変わった。

    今まで空から見ることができなかった新宿や渋谷を中心に東京らしい景色を飛行機の窓から堪能することができるようになり、窓側に座っている人の多くがスマートフォンを取り出し、空から見た東京の姿を撮影している光景が多く見られるようになった。

    特に左側に座っていると、東京スカイツリーや東京タワーなども一望でき、観光客だけではなく、東京に住んでいる人でも見入ってしまうくらい素敵な景色だ。

    新型コロナウイルス感染症の影響による入国制限によって訪日客(インバウンド)が日本に来られない状況だが、新ルートで到着する直前の都心の景色は、間違いなく外国人に魅力的な東京の姿を感じてもらえるだろう。

    ただし、沖縄・九州・四国・大阪などの南方面からの便においては、従来であれば房総半島から真っすぐに東京湾上空からの着陸だったが、新ルートでは房総半島から埼玉県川口市方面へ飛び、右側の窓からはさいたま市にある「埼玉スタジアム2002」を眺めながら左に旋回し、池袋方面から都心上空を飛行し羽田空港に着陸することになるため、少なくても10分以上は飛行時間が長くなっている。

    北海道など北方面からの便については新ルートでも飛行時間は大きく変わっていない。

    50便を増便

    今回、都心上空を飛行する新ルートを導入することになった背景としては、増加する訪日客への対応がある。

    従来の状況では羽田空港の日中時間帯における発着枠が満杯であるため、新たな滑走路を作らなくても発着回数を増やすことができる数少ない方法が新ルート導入だった。

    さらに成田空港や羽田空港で入国せずに乗り継ぎだけする(主にアジア路線と北米路線の乗り継ぎ)外国人も増加しており、首都圏空港の発着枠拡大は急務だった。

    車で30分以内に都心部へ移動できる羽田空港の国際線発着枠が増えることで、グローバル企業のビジネス需要における利便性も向上する。

    今年3月までは日中時間帯における羽田空港発着の国際線は1日最大80便となっていたが、新ルートを採用することにより新たに50便の増便(日中時間帯)が可能となった。

    本来であれば3月29日から米国の24枠(往復)を筆頭に、中国、ロシア、オーストラリア、インド、イタリア、トルコ、フィンランド、スウェーデン、デンマークなどへ新規就航もしくは増便する計画で、今年7月の東京オリンピック・パラリンピックへの受け入れ対応を羽田空港・成田空港の2空港で行う予定だった。

    特に米国路線の多くが羽田発着になることで、日米のビジネス往来がより活発になり、中国との関係で香港に拠点を置くグローバル企業のアジア拠点を東京に移す可能性も十分に考えられる。

    今回の都心上空を飛行するのは、南風の運用時に限定され、15時~19時のうち約3時間程度に限っている。

    しかし国際線では2月から、国内線でも3月中旬ごろから新型コロナウイルス感染症による利用者の減少から運休便が増えたことで、3月29日の段階では羽田空港を発着する便の多くが欠航となり、4月は国内線で約半分の便、国際線では9割以上の便が運航されなかったが、都心上空ルートの運用は予定通りに始まった。

    国土交通省発表の資料によると、1時間当たり最大44回(西側のA滑走路に14回、東側のC滑走路に30回)となっている。

    新宿、表参道や広尾、白金、品川付近の上空を飛行するC滑走路に着陸するルートでは、最大2分に1回のペースで飛行する可能性があることになる。

    現在でも国内線で約4割、国際線は引き続き9割近い便が運休していることもあり、当初計画に比べると着陸する便数は非常に少ない。

     直近の数字では6月の運用実績が発表されているが、6月1~30日までの30日間のうち21日間が南風運用となっており、南風運用で都心上空を飛行したのは6月の1カ月間では981便で、1日平均約47便となっている。

    ほとんどの日で約3時間の運用となっており1時間当たり15便程度にとどまっている。

    最大44便が可能であることから約3分の1の運用にとどまっている(表1)。

    それでも新ルートに近い場所で生活をしている人からは「飛行機の騒音を感じる」という声が出ているのも事実だ。

    騒音についてのデータも国交省から開示されている。5月1日~6月30日までの期間における測定結果において、事前の住民説明会で示した想定の騒音と比較すると、5月は約57%が推定平均値と同等、約16%が推定を上回り、約27%が推定以下。

    6月は約65%が推定平均値と同等、約8%が推定を上回り、約27%が推定以下となった。

    推定平均値を上回ったのは主に豊島区、中野区、新宿区、目黒区、品川区などとなっているが、僅かに上回っている程度だ(表2)。

    都心の新ルート付近で生活している人に話を聞くと、数値以上に今まで飛行機が全く飛行していなかった場所にいきなり飛行機が大きな音と共に飛んできたという声が多く、これまでの日常になかった音が響いているという声が聞かれた。

    目黒駅の近くに住む40代女性は「テレワークになって自宅で仕事をする時間も増えたこともあり、午後の時間に飛行機が飛んでくると騒々しいと感じるようになった」と話す一方、睡眠時間に飛ぶことはないので「数時間であれば我慢できないことはない」とも話す。

    また新宿区に住む70代男性も「散歩していていきなり飛行機が真上に飛んできて驚いた」と話すなど、まだ飛行機に慣れていないが、今までの生活音ではない音が響くようになったのは事実だ。

    類をみない対策

    都心上空ルートの実施にあたり、騒音を減らすため、直前で南風好天時における降下の角度を当初の3度から3・5度に引き上げた。

    これにより、高度が新宿駅付近で約900メートルから約1020メートル、恵比寿駅付近で約600メートルから約690メートルに引き上げられた。

    ただ日本国内では伊丹空港や福岡空港、海外でもニューヨーク、ロンドンをはじめとした多くの主要都市では都心上空を飛行するのは決して珍しくないなかで、東京の都心上空では最大限住民に配慮した形で運用時間を1日最大3時間に限定したり、各航空会社に落下物対策を強く求めたりするなど世界ではあまり類をみない対策を国は行っている。

    しかしながら現状、便数が大幅に減っていることに加えて、全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)などでは機体を小型化しているほか、長距離路線で多く投入されている大型機(ボーイング777型機など)が限定的で、現時点では騒音における判断ができるだけの便数が飛んでおらず、騒音問題や落下物対策の効果を検証するのは時期尚早という声が多い。

    騒音の分散化を目的とした固定化回避の検討も開始されることが明らかになっているが、来年以降、当初計画の8割くらいまでの便数が回復した段階での騒音を踏まえて議論すべきだろう。

    (鳥海高太朗 航空・旅行アナリスト、帝京大学非常勤講師)

    (本誌初出 航空機 羽田新ルート運用半年 新宿や渋谷の上空を通過 騒音などの検証は時期尚早=鳥海高太朗 20201027)

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