「日高屋」「大戸屋」がコロナで大苦戦のワケ……飲食業界「勝ち組」「負け組」の差はどこで生まれたのか
外食産業の閉店ラッシュが止まらない。
今年6月、ファミリーレストラン「ジョイフル」は不採算店約200店を7月以降、順次閉鎖する方針を発表した。
洋食店の「キッチンジロー」(東京都港区)は9月末までに、全15店舗のうち2店舗のみを残して閉店した。
外食市場はこのまま、縮小に向かってしまうのか。
図1は、家計の外食支出額を前年同時期と比較したグラフだ。
外食支出が前年と比べ大きく落ち込み始めたのは、新型コロナウイルス禍の緊急事態宣言前の3月下旬である。
3月下旬といえば、タレントの志村けんさんのコロナ感染・死去の報道があった頃だ。
志村さんの感染報道が「飲食店=感染リスク」というイメージを消費者に植え付けることになった。
緊急事態宣言中(4月7日〜5月24日)はまさに“蒸発”という表現がふさわしい落ち込みである。
通常の2倍に増加するはずの大型連休期間中の外食支出額は、ほぼ丸ごと消滅している。
緊急事態宣言が解除された5月25日以降、外食支出は少しずつ回復に向かいつつあるが、それでもいまだ前年の水準には達していない。
平日の外食は激減
理由の一つとして考えられるのは、自宅での食事、すなわち「内食」に奪われている可能性だ。
コロナ禍で増えた時間の筆頭は、「在宅勤務」と「自宅での料理」である。
緊急事態宣言解除後も、自宅で家族と一緒に料理をする機会が増えたとの声を聞く。
多くの給与所得者は、在宅勤務が“新たな日常”と化しつつある。以前は同僚と外でランチをしていた給与所得者も、今は自宅で家族と一緒にお昼を食べている。
そこから浮かび上がるのは、「平日」に需要を奪われている外食産業の姿だ。
家計調査で確認すると、平日の外食支出は緊急事態宣言解除後の6月以降も全く戻る気配がない(図2)。
家計調査の外食には、テークアウトや宅配も含まれるが、それでも平日の外食は内食に負けていることになる。
会社帰りの「ちょい飲み」の需要は、平日の飲食店の切り札の一つだが、在宅勤務が多い中では厳しい。
ところが、平日は内食需要に押されて厳しい外食も、土日祝日になると様相は変わる。
図2の土日祝日の外食支出を見ると、緊急事態宣言解除後の6月と7月は、前年比でプラスに転じているのだ。
つまり、コロナ禍は「外食」を日常から非日常的な空間に変化させたということだろう。
外食が非日常的となったことで、消費者は外食により楽しみや意味を求めるようになっている。
せっかく外食するなら楽しみたいという「ハレの日消費」の側面が強くなっているともいえよう。
平日は内食優位だが、土日祝日はハレの日消費としての外食が再評価されている。
コロナ禍でも、食事に豊かさや楽しさを求める傾向に変化はないようだ。
それでは、こうしたコロナ禍の消費者意識の変化は、外食企業の業績にどのような影響をもたらしているのだろうか。
「すし」にも客足戻る
4月と5月を緊急事態宣言下の「需要蒸発期」、6月と7月を自粛解除後の「戻り期」とする。
外食企業48社を業態別に売上高を比較すると、需要蒸発期はテークアウト需要を取り込んだファストフードを除きほぼ壊滅状態となった。
特に厳しかったのが居酒屋チェーンで、売り上げは前年の約3割に急減、文字通り「需要蒸発」に見舞われた。
自粛解除後の戻り期は、すしチェーンやファミレスに少しずつ客足が戻ってきた様子がうかがえる。
特に、すしチェーンの回復には、目を見張るべきものがある。
この時期は、巣ごもり生活の反動から、久々に家族や友人と外で食事をしようというムードが高まった。土日祝日のハレの日消費にうまくマッチしたのがすしチェーンということかもしれない。
テークアウト需要を取り込んだファストフード店、土日祝日のハレの日消費にマッチしたすしチェーン、ちょい飲み需要急減のあおりを受けた居酒屋チェーン、平日のランチ需要を内食に奪われた中華チェーンなど、コロナ禍の影響は業態によって濃淡がある。
一方で、見過ごしてはならないのは、コロナ禍では業態間だけではなく企業間の濃淡も浮き彫りとなっている点だ。
図3に企業間の売上高の分布を示した。
すしチェーンの戻り期(6〜7月平均)の売上高は、「スシロー」を展開するあきんどスシローが前年同月比97・2%、くら寿司は94・8%、元気寿司が91・7%と、それほど大差はみられない。
ハンバーガーチェーンの戻り期の売上高をみても、「ケンタッキーフライドチキン」の日本KFCホールディングス(HD)が113・1%、「モスバーガー」のモスフードサービスが106・4%、日本マクドナルドHDが98・9%と、「勝ち組」「負け組」の構図にはなっていない。
まずまずの「餃子の王将」
これに対し、中華洋食チェーンや居酒屋チェーンでは、企業間の差が目立つ。
「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの戻り期の売上高が93・7%であるのに対し、「日高屋」のハイデイ日高は69・8%で、大きく水をあけられている。
王将も日高屋もテークアウトサービスを導入・強化したが、王将は功を奏し、日高屋は十分な売り上げを確保できなかった。
9月8日にコロワイド社によるTOB(株式公開買い付け)が成立した和食チェーンの大戸屋HDは、自粛解除後も売り上げが低迷したままだ。
コロナ禍はマクロ(経済全体)のショックであり、どの企業にも等しく影響が及ぶ。
にもかかわらず企業間でこれだけ差が出るのは、コロナ以前からの企業の構造問題がコロナによってあぶりだされたということにほかならない。
経済ショックに直面した際の企業の危機対応のプロセスは、「止血」→「治療」→「改革」となる。
健全な企業であれば、止血して傷んだ部分を治療して元の状態に戻す「復旧」がゴールとなる。コロナが収束するまでの間、テークアウトサービスや宅配サービスなどのコロナ対策で止血・治療を行うという流れだ。
一方、ハイデイ日高や大戸屋のように、コロナ禍以前から構造的な問題を抱えていた企業は、元の状態に戻すだけでは不十分であり、三つ目の「改革」にまで踏み込む必要がある。
ここで見落としてはいけない大きな問題がある。時間がもたらす消費者意識と消費行動の変化だ。
多くの消費者はいまだ外食を控える「カゴの中の鳥」状態にある。この状態が長期化するかどうかで、外食企業に与える影響の大きさはまったく異なってくる。
感染拡大が半年から1年程度で収束するなら、それほど問題はないだろう。
「のど元過ぎれば熱さを忘れる」というように、人はつらいことをいつまでも覚えていられない。
2001年の米同時多発テロ、11年の東日本大震災のような危機に直面しても、多くの人々は元の生活に戻っていった。危機の前後で消費者の意識や行動様式に大きな変化はないため、健全な企業は復旧を、問題企業は必要な改革を目指す流れになる。
音楽消費「変化」の教訓
問題は、カゴの中の鳥状態が長期に及ぶケースだ。
人は望んでいない環境でも、時間がたてば順応していく生き物である。
カゴの中の生活が半ば習慣化・因習化して「飛ぶことを忘れる」状態になれば、そこに待ち構えているのは思考停止である。
音楽消費について考えてみよう。
デジタルショックの波によって、レコードからCD、さらにはデータ配信へと、人はより便利な方に流れ、順応した。
そして、レコードを1枚1枚選ぶ楽しさや、アナログならではの「音」を聴く楽しさは、忘れられていった。
同様に、カゴの中の生活が習慣化した消費者は「外で楽しく食事がしたい」とは思わなくなり、食事は内食がメインで時々テークアウトや宅配サービスを利用するスタイルで不満を抱かなくなる。
この長期化シナリオが現実になれば、外食ビジネスの根底が揺らぐことになり、健全な企業であっても、「いずれ元に戻る」などと悠長なことは言っていられなくなる。
外食企業は、今何をすべきか。それは、消費者が、外で食事をする楽しさを忘れないよう、コロナ収束後をイメージしながら懸命にアピールし続けることだ。
多くの飲食店は止血に必死であり、取り組みの多くはテークアウトサービスなどカゴの中のサービスである。
今はそれしかやりようがないというのも理解できるが、その状態が長引くと消費者はカゴの中から出てこなくなるかもしれない。
SNSなどで感染拡大防止について説明し、使用する食材や料理に対する考え方を語る飲食店も多い。これをしておけば、今度は店舗空間でその料理を味わってみたいという気持ちにつながる。
幸い今は、土日祝日のハレの日需要が戻りつつある。
消費者の多くはまだ、外に出て楽しく食事をしたいと考えているということだ。
こうした消費者の期待に応えられるよう、飲食店側はテークアウトサービスやデリバリーだけでなく、リアル店舗でなければ体感できない楽しさを必死にアピールすべきである。
(藤原裕之・センスクリエイト総合研究所代表)
(本誌初出 飲食業界 コロナ禍で外食に明暗 KFC、マックは堅調でも日高屋、大戸屋が苦戦のワケ=藤原裕之 20201020)