経済・企業バフェットvs商社

インタビュー 岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO バフェット氏の投資は刺激 縦割りでは生き残れない

    岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO
    岡藤正広 伊藤忠商事会長CEO

     <5大商社を直撃!>

     時価総額や2020年度純利益予想で首位を走るが、総合力を発揮しきれていない。どう打破するか。(バフェットvs商社)

    (聞き手=浜田健太郎/柳沢亮・編集部)

    ── ウォーレン・バフェット氏率いる米複合企業のバークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事を含む5大商社に出資して、岡藤会長は歓迎するコメントを出した。

    ■企業としては株価を上げないといけないし、投資家に対して、自社の良い点をアピールして株を買ってもらおうとしている。ただ、アクティビスト(物言う株主)は、株主の代表のようにさまざまな要求をして、利益を上げて逃げていく。それとは違い、世界的な尊敬される投資家が商社株を買ったことは前向きに受け止められる。

     商社という業態は日本にしかないので、世界から隔絶する「ガラパゴス化」する恐れもある。そこにバフェット氏がまとまった株を買ってくれたことは、我々も刺激を受けて、正しい方向へ改善することができると捉えている。

    資本市場の目線に自信

    ── なぜバフェット氏が商社株に投資した思うか。

    ■正直に言うと、わからないというのが本音。でも商社が取り組んでいる事業や将来性、安定性、社会への影響力など本来の企業価値に比べて、時価総額は低いと思う。バフェット氏なら、割安さに目を付けたというのはあるかもしれない。配当も安定しているし。商社は市況性の高い事業も手掛けていて、一般株主からは警戒されているのかもしれないが、バフェット氏からみると、長期的に「買い」だとなったのではないか。

    ── バークシャーは商社株を現在の5%超から9・9%まで買い増す可能性に言及している。株を買い増しされる会社と売られる会社に差が出てくる可能性もある。

    ■それはバフェット氏だけではなく、一般株主の目を我々は非常に意識しているわけで、その点には特に緊張はない。

    ── バフェット氏は投資先の経営能力、特に株主としての視線を重視すると言われている。

    ■バフェット氏は、重要なポイントを三つ挙げている。一つは取締役の持ち株数で、多い方がいいと言う。当社では、社内にはなるが取締役1人当たりの持ち株数の平均は11万5000株で、5大商社で最も多い。次に、業績連動報酬制度を取り入れているかどうか。これは商社の中で一番早く導入した(11年)。三つ目は、学生の就職人気企業各種のランキングで、全業種の中でもトップかトップクラスで、5大商社では1番だ。当社は、三つの点で合致している。

    ── バフェット氏が特に重視するのがROE(株主資本利益率)。伊藤忠は約17%(19年度)で日本企業では低い水準ではないが、バークシャーの投資銘柄にはアップルの約60%は別格としても20%超も少なくない。

    ■アップルの場合は、資本というよりは頭脳で勝負しているので、必然的にROEは高くなるだろう。(投融資などで資本を使う)商社はそうではない。バークシャーとしては、地域ポートフォリオという考慮があったのだろう。国の格付け、信頼度から考えて日本は安定していて、その中でも独特の事業構造を持つ商社への投資ということになったのではないか。

    データが価値を持つ時代

    ── 岡藤会長は、商社に地殻変動が起きるとコメントしている。

    ■菅義偉新首相は省庁縦割りの弊害にメスを入れないといけないと強調している。新型コロナウイルスの感染拡大でも縦割りの弊害が表面化した。この点は商社も同様。食料や鉄鉱石など商品分野ごとの縦割り組織になっている。

     昔はいい商品を安くすれば、売れるという発想だった。作り手の理論や計画を優先する「プロダクトアウト」の思想だ。今は、顧客の視点を重視して商品の企画・開発を行い提供する「マーケットイン」に思想を切り替えていかないとダメ。例えば子会社ファミリーマートの売り場は、従来は商品ごとに棚や陳列を構成して、(商社は)それを前提に商品を売りにいった。それが消費者のデータによって変わってくるし、売り場の構成や商品が変化する。今の商社では対応できない。縦割り組織の中で、社員は自分が扱う商品しか頭にない。総合商社は横の連携の弱さを変える必要があるが、大変なことだ。ただ、これをやらないと商社は遅かれ早かれなくなってしまうと危機感を持っている。

    ── 総合商社だけど、実態は「集合商社」だと以前から言われていたが、問題が続いているのか。

    ■新しい可能性を挙げるとすれば、高級車輸入販売のヤナセ(17年に子会社化)だ。顧客の多くは富裕層だ。ベンツを買うだけでなく、ほかの店で高級な服もたくさん買っているだろう。当社は繊維が強く、こうしたニーズを取り込んでいかないといけない。マーケットが変化して、今はデータ、情報がものすごい価値を持つようになってきた。それをいかにビジネスに結びつけるのか、今までと違う方法を考えないとダメだ。

    ── 縦割りの弊害を打破するための方法は。

    ■昨年7月に「第8カンパニー」という組織を立ち上げた。七つある既存のカンパニーと協業して、マーケットインの発想で新しいビジネスを開拓することが目的だ。(従来の仕組みを)一気に変えるのは大変。資源や食料など既存の部門も一緒に変えて(混乱に陥って)訳の分からない組織になってしまったら取り返しがつかない。だから(別動隊を設けて)動きながら変えていくしかない。

    創業者の墓参の御利益

    ── 21年3月期は純利益が総合商社トップに立つ見通し。時価総額も今年、三菱商事を抜いて業界首位になった。

    ■6月1日に上場以来、初めて時価総額で総合商社トップになったが、5月末に三菱商事が約1億株を消却していたことも影響した。当社の株主総会が6月19日にあって、翌日所用で京都に行って、1人で清水寺の下にある創業者の伊藤忠兵衛の墓前で、そのことを報告した。ただ、株価で(三菱商事を)抜くのは難しいと思っていたら、週明け22日月曜日に当社が株価で初めて抜き(伊藤忠が2331円、三菱商事が2317・50円)、ずっとリードしている。あの時は、創業者も応援してくれているのかと感じた。


     ■人物略歴

    おかふじ・まさひろ

     1949年生まれ。東京大学経済学部卒業。74年伊藤忠商事入社、2002年執行役員、常務、専務、副社長を経て10年4月社長。18年4月から現職。大阪府出身。70歳。

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