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経済・企業 バフェットvs商社

インタビュー 垣内威彦 三菱商事社長 デジタルと脱炭素で成長狙う バフェット流と親和性はある

垣内威彦 三菱商事社長
垣内威彦 三菱商事社長

 <5大商社を直撃!>

 初の対日投資を、「米国の対日観の変化」と受け止める。デジタルトランスフォーメーション(DX)や再エネにかじを切った真意を業界盟主に聞いた。(バフェットvs商社)

(聞き手=浜田健太郎/柳沢亮・編集部)

── ウォーレン・バフェット氏率いる米複合企業のバークシャー・ハサウェイが、初の本格的な対日投資として三菱商事を含む5大商社に出資した。第一報を聞いて、どう受け止めたか。

■日本の株式市場があまり活発ではなかったので、一定の金額が信頼できる会社(バークシャー社)から投資してもらったこと素直に良いことだなという印象はあった。ただ、第一印象として「何のためかな」という思いもあった。

── 日本の商社は以前から株価が、評価されていなかった面があった。そこに名うての投資家であるバフェット氏が投資してきた。

■バフェット氏は百戦錬磨のプロだから、バリュー(割安)という認識があったのだと思う。商社といってもすでに数十年も前から各社の特徴は違っていて、当社は独自の考え方で事業領域を区分けしている。バフェット氏が残り4社と(当社との)どういう相関関係を見て投資したのかは分からない。

 当社への投資に関する印象では、純投資だろうと見ている。実態としてバークシャーは全体の資産の約7割は事業投資で運営している。例えば、ユーティリティー(電力)、エネルギー、鉄道、保険、製造、サービス、小売り。特にユーティリティーやエネルギーは当社の主力事業との親和性が高いと判断したのではないか。

米国の対日観に変化

── 三菱商事は日本の産業を熟知している一方で、資源や資源以外の分野における世界中にネットワークを持つことにバフェット氏は着眼したのではないか。

■当社の事業はグローバルに展開しており、その点を評価してもらったのならありがたい話だが、まずは日本に着目したのではないか。(バフェット氏は)何らかのきっかけがあれば、日本における他の企業について議論を持ちたいと思ったのではないかと推察している。(外国人の目には)商社はゲートウエー(入り口)だ。日本のほとんどの産業を事業領域の対象としており、日本の産業にアクセスする上でも、商社への投資が手っ取り早いということではないか。

── 海外からの投資対象としての日本には、高い成長は期待できないと思われているが。

■株式市場において日本が高く評価されてないことは、結果論として事実だ。ただし、米国から見た日本の見え方がひょっとすると少しずつ変わってきているのかもしれない。仮説だが、遠い昔は小さい島国と思われていたのが、(今では)米国から見てアジアでは日本が一番理解しやすい国と感じてもらったのではないだろうか。

── 商社のように事業領域が幅広いと、株価が低くなりがちではないか。

■従来は(商社は)何をやっているか分からないと見られる中で、「コングロマリット・ディスカウント(複合的な事業展開によって個々の事業の価値が下落すること)という表現になっていた。ただ、一つ一つの事業を丁寧に見てもらえば、メリハリをつけてポートフォリオ(事業構成)を作っている。バフェット氏はプロなので、そのあたりは理解しているのではと思う。

DXは収益化に3年

── 総合商社が今後、どうやって稼いでいくのか。三菱商事ではDXを成長戦略に掲げているが、昨今はどの企業もDXを強化すると言っている。

■デジタル化そのものは、コロナ禍でDXが喧伝(けんでん)されるよりずっと以前から推進しようと考えていた。中国がロックダウン(都市封鎖)して、パンデミック(感染症の大流行)な環境から一気に封じ込めていったときに駆使したデジタル技術は凄い。そこは、日本の方が遅れていて、給付金を円滑に配ることができないなどコロナ問題でデジタル化の遅れが顕在化したと考えている。中国では(産業が)大規模化を国家がコントロールしていて、(国内企業の)合併申請もすぐに認可されるが、日本では独占禁止法もあり、(分野によっては)合併は容易ではない。

 したがって、日本においては競争すべき分野と協調すべき分野を分けたほうがよいと常々考えていた。協調すべき分野は例えば物流、倉庫がある。小規模な会社では競争できないし、工場の大型化に併せて(物流企業も)大型化しないと、生産性が上がらない。そのような分野でDXは効果が上がる。消費者のニーズがAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を通じて刻一刻と判明していき、供給網の上流からエンドユーザーまで適時適量にモノが届けられているというのがデジタル化の特徴だ。DXによって社会問題化している食品の廃棄ロス削減に効果を発揮するだろう。こうしたことを、各メーカーや小売りが自社でやっていると規模のメリットが全く取れない。

── そこは商社のオルガナイザー(とりまとめ役)機能が発揮されやすいと。

■ただ、まずは当社の関連会社・子会社の中で徹底的に取り組んでいる段階で、まだ外部企業とはやっていない。子会社のローソンや食品分野で取り組み、今後全産業分野に広げていく。子会社の生産性が上がることによって、収益的にも2~3年で一定の成果が出てくると思う。

再エネ推進を明確化

── 再生可能エネルギーが中核のオランダ企業エネコを中部電力と買収した(三菱商事4000億円、中部電力1000億円の各出資)。三菱商事はLNG(液化天然ガス)を日本で最初に導入したエネルギー分野の主要企業だが、今なぜ再エネなのか。

■脱炭素は、欧州が最先端を走っている。トランプ大統領は別の方針だが、現実問題として米国も石炭から天然ガス、天然ガスから再エネへとシフトしている。30年先の2050年に向かって脱炭素を目指すという(国際社会の)思いも定着した。当社には「三綱領」という企業理念があり、一番に「所期奉公(しょきほうこう)」を挙げている。これは、要するに社会貢献し、公のために働けということだ。非常に長期のスパンで成し遂げるということを明確にしている。短期的に調子が悪いとか、損したからやめてしまえとか、そうした姿勢では取り組んではいない。

── エネコは欧州で電力、ガスの供給で強い顧客基盤があると聞く。

■オランダやベルギーなどで約600万件の契約がある。エネコは、北海で自ら風力発電を行い、それを(陸上に)送電して、水を電気分解して水素に転化して、それを貯蔵して電気の不足時に使おうという入札案件を、英蘭石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルと一緒に落札した。まだ実験過程だが、そうしたレベルの取り組みをすでに始めている。


 ■人物略歴

かきうち・たけひこ

 1979年京都大学経済学部卒、三菱商事入社。2010年執行役員、13年常務執行役員を経て16年4月に現職。兵庫県出身。65歳。

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