住宅市場にバブルをもたらす「残価設定ローン」とは何か
不動産市場の中でも住宅市場にバブルを引き起こしかねない動きが、「残価設定ローン」の開発である。
このローンは、借入額と将来の住宅の資産価値の差額分だけを返済する仕組みだ。
例えば、3000万円の新築住宅の将来価値が1000万円と設定されれば、差額の2000万円のみローンとして返済すればよい。
支払いが終了した後は、住宅を手放せばローンは残らない。
このほか、残額で再度ローンを組む、現金で買い取るなどの選択肢もある。
現在はほぼ普及していないこの仕組みについて、国土交通省は2021年度にも民間の金融機関でモデル事業をスタートさせる予定だ。
この残価設定ローンが具体的にスタートした場合、住宅販売がさらに活発化する可能性がある。
東京都区部の新築マンション価格は現在、7000万円前後と一般的なサラリーマンには手の届かない水準まで上昇している。
頭金1000万円を捻出し、残りの6000万円について金利1%で35年ローンを組んだ場合、毎月17万円弱の支払いとなる。
年間およそ200万円となり、年収1000万円でも返済比率(年収に占めるローン返済額の割合)は20%、600万円で33%だ。
仮に7000万円の半額の3500万円の残価が設定されれば、ローンは2500万円(頭金1000万円計上)でよく、毎月の支払いはたったの7万円強。
これなら多くの家計が支払い可能だろう。
一方、郊外や地方の新築一戸建て(4LDK)の販売価格は2000万~3000万円程度のものが多い。
頭金なしで3000万円のローンを組むと毎月約8万5000円と家賃並み。
これだけでも売れ行きは好調だが、仮に1000万円の残価が設定されれば毎月約5万6000円でよく、多くのケースで家賃よりも低くなる。
さらに、借入残高の1%分の税金が戻る「住宅ローン控除」が使えればなおさらだ。
この条件であえて賃貸を選択する人がいるだろうか。
残価設定ローンは支払いが終わった後に住宅を手放すのが前提だが、そもそも賃貸は家賃を支払い続けているだけ。
所有物が残らないのは同じだ。
だとしたら、2DKや3DKで作りも相対的に劣る賃貸より、品質のよい4LDKの新築一戸建てに住むことを選択するだろう。
バブル後に残る空き家
新型コロナウイルスで一時ストップしていた販売現場はすっかり息を吹き返した。
むしろ低金利の恩恵を受けて絶好調と言っていい。
来年度以降、残価設定ローンが普及すれば住宅市場にバブル的な状況が訪れる可能性があるが、価格上昇の可能性を秘めるのは、都心部や都市部の利便性の高いマンションに限られるだろう。
郊外や地方では今後、加速度的に空き家が増加することが見込まれており、その価格下落圧力が大きいためだ。
無駄な公共工事を行うように、価値を維持できない新築住宅が量産される結果となり、うたげの後はより一層の空き家が残る結末になりそうだ。
残価設定ローンの全ては「残価をいくらにするか」にかかっている。
現在、金融機関が住宅ローンの査定をする際、年収や勤務先、勤続年数など主に購入者(借入者)の属性を重視する。
数十年後の住宅価格など念頭にない。
よって、担保評価の能力もない。この課題をどうするかが肝となる。
(本誌初出 残価設定ローンで住宅バブル到来か/68 20201103)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立