とうとう中国国内で「習近平退陣論が噴出」の衝撃
中国人民銀行(中央銀行)が10月上旬、広東省南部の深圳経済特区で5万人を対象に1000万元(約1・5億円)相当のデジタル人民元を配布、実証実験を行うと発表した。
深圳経済特区設立40周年の記念行事の一つだ。
中国は新型コロナウイルスの抑制に成功し、ポストコロナ時代に入ったと自負している。
習近平政権はコロナ禍と米国の中国敵視政策で減った外需に代わって、デジタルインフラ建設による国内需要創出に向けてかじを切った。
その象徴がデジタル人民元の実験だ。
深圳は通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の本社を筆頭にハイテク企業が集まり、次世代通信規格「5G」の技術開発、実証実験のメッカとなっている。
習近平国家主席は10月12日から3日間、広東省内のベンチャー企業や観光産業などを視察。
最終日の14日に深圳の記念行事で深圳をデジタル化国家建設のエンジンとすると演説した。
習主席が2022年の共産党第20回党大会で従来の慣例を破って総書記3選を果たすための実績作りだ。
記念行事には、深圳とともに「大湾区」を構成する香港、マカオの両行政長官も出席した。
習主席が6月、国際的な批判をよそに「香港国家安全維持法」を強引に成立させたのは、40周年記念日までに香港の反中国デモを鎮めたかったからだと言えるだろう。
共産党と国務院が作った「深圳改革テストポイント実施案」には、「大湾区」にデジタル・プラットフォームを建設し、デジタル取引市場を設立するなどの項目が並んでいる。
実施期間は20~25年となっている。
10月下旬開催の第19期中央委員会第5回総会(5中全会)で採択される第14次5カ年計画(21~25年)を先取りした。
習政権は、コロナ禍の影響で外需が急減したうえ米中貿易戦争の解決のめどが立たず、次期5カ年計画の大幅見直しを迫られた。
その結果が7月の「国内循環を主とし、国際循環を組み合わせる」という「双循環」だった。
「国内循環」とは、デジタル決済、無人交通システムなど人工知能(AI)、IoT(モノのインターネット)、再生可能エネルギーといった新技術を活用したスマートシティー建設によって国内の潜在需要を創造し、外需依存の経済体質を改めることだという。
「国際循環」とは、国産化できない半導体などの部品や技術を調達するために国際的な供給網を確保して米国のデカップリング(対中切り離し)政策に対抗することだ。
王副主席の失脚説も
ただ、現実は習主席の構想が簡単に実現する状況ではない。
米国は、中国に対する半導体の供給制限を強め、西欧諸国も香港問題や新疆ウイグル自治区の人権問題への反発から中国との関係を見直す動きが出てきた。
中国国内でも強権的なコロナ対策をきっかけに習主席の独裁政治が長期化することに不満が高まってきた。
5中全会を前に、習主席を支えてきた王岐山国家副主席の腹心たちが突然、厳しい処分を受けたことから王氏の失脚説が流れ、一方では習主席の早期退陣論もくすぶりだした。
また、習主席が深圳の演説中にしばしば咳き込んだことも健康異常説が出るなど波紋を広げた。
(金子秀敏・毎日新聞客員編集委員)
(本誌初出 デジタル化に活路求める習政権 長期独裁でくすぶる「退陣論」=金子秀敏 20201103)