経済・企業本当に頼れる信用金庫

コロナ禍の地域支える “最後の砦”の最前線=市川明代

     <本当に頼れる信用金庫>

     新型コロナウイルス禍で疲弊する地域経済。その最後の砦(とりで)として信用金庫が今、各地で奮闘している。現場では何が起きているのか。危機時に求められる金融機関の役割とは何か。最前線の取り組みを取材した。(本当に頼れる 信用金庫)

    飯田(長野) サクランボ農園で休業中の収穫支援

    休業中にサクランボを収穫する長野県阿智村の旅館「石苔亭いしだ」の従業員 飯田信用金庫提供
    休業中にサクランボを収穫する長野県阿智村の旅館「石苔亭いしだ」の従業員 飯田信用金庫提供

    「日本一の星空」で知られる長野県南部・阿智村の昼神温泉郷。ここ数年、星空ナイトツアーへの参加を目的に中国などから団体客が大挙して押し寄せ、多い時で一晩に2000人もの観光客でにぎわっていた。だが約20軒ある旅館は今年2月以降、キャンセルが相次いで苦境に。旅館の多くは雇用調整助成金を利用し、従業員の雇用を守ってきた。

     このエリアを営業区域とするのは、飯田市に本部を置く飯田信金。支店のある営業担当者は、老舗旅館「石苔亭(せきたいてい)いしだ」のおかみから「従業員が休業中、仕事に対する意欲を失ってしまうのでは」と悩みを聞かされた。そこで、担当者らが考え出したのが、地域のサクランボ観光農園の収穫作業と旅館の従業員のマッチングだ。

     実は、この地域にはいくつものサクランボ観光農園があり、春の収穫シーズンに訪れる観光客が激減して地元農家が困っていた。東京などに出荷しようにも、担い手がいない。雇用調整助成金の教育訓練加算で1人1日当たり2400円が支給される制度を利用。旅館側は6月から、従業員を1日25人ずつ交代で20日間、6軒の農家に派遣した。

     飯田信金営業統括部の山崎一成チーフマネジャーは「他県から就職した若い従業員に、地元の観光資源を知ってもらう機会にもなった。互いに交流が深まったことで、今後は相乗効果も期待できる」と言う。冬のリンゴの収穫など、取り組みを継続していくという。

    大分みらい(大分) 職員総出で飲食支援「#エール飯」販売

     国内有数の温泉地として知られる大分県別府市。同市に本部を置く大分みらい信金は、貸出先に新型コロナの影響を大きく受ける飲食・宿泊業が少なくない。飲食業を支援するために今年6月、取り組んだのが、「#みらいエール飯」のプロジェクトだ。取引先の飲食店20店が作った弁当を、大分みらい信金の職員が車で来る買い物客に車のドア越しで手渡すドライブスルー形式で販売した。

     コロナ禍の中、別府市が主導して今年3月、地域の飲食店のテークアウト情報をSNS(交流サイト)で発信するよう市民らに呼び掛ける「#別府エール飯」の運動がスタート。大分みらい信金はさらに一歩踏み込んで、自分たちで取引先が作る弁当を売ることを企画した。郷土料理の鶏肉の天ぷらの入った弁当など、4店分を1セットとして2000円で販売。会場のドライブイン駐車場で、1600セットを見事に売り切った。

     政府の観光刺激策「GoToトラベル」が始まり、街にも少しずつにぎわいが戻り始めた。ただ、宿泊施設では、大勢の宿泊客が集まる食堂での食事を避けるため、客室の一部を食事専用個室に転換するなどの対応を迫られている。大分みらい信金は、こうした宿泊施設の新たなニーズを探り、資金支援や集客に向けたSNSの活用などのサポートに力を入れていく考えだ。

    京都中央(京都) 「ベビーの宿」へ方向転換を後押し

    「赤ちゃん歓迎」の宿に転換した京都市の「京家」
    「赤ちゃん歓迎」の宿に転換した京都市の「京家」

     外国人観光客がぱったりと姿を消した京都市。ホテルの建設ラッシュに加え、ゲストハウスや民泊も急増していただけに、苦戦を強いられている宿泊施設が少なくない。その中で、高い客室稼働率を維持している旅館がある。赤ちゃんや小さな子ども連れの家族向けプランを用意する、JR京都駅近くの「京家」だ。かつては修学旅行客に依存していたが、2013年の大規模修繕を機に「赤ちゃん歓迎」の宿へと大きくかじを切った。方向転換を後押ししたのは京都中央信金だ。

     明治時代から続く京家。4代目の大友篤社長は大規模改装前、インターネットサイトの口コミで高評価を得ることに躍起になっていた。だが、価格競争が激化する中、どれだけ稼働率を上げても経営は楽にならない。ため息をつく大友社長に、京都中央信金の担当者は「京家さんにしかできないことをやりましょう」と促した。

     大友社長は当時、長女が生まれたばかり。しかし、当時の旅館業界では泣き声などから赤ちゃんを敬遠する風潮が強かった。「小さな子ども連れでも気軽に泊まれる旅館にしよう」と思い立ったが、前例はほとんどなく不安も募る。京都中央信金の担当者から「やってみましょう」と背中を押され、こだわりの離乳食やほ乳びんの無料消毒などのサービスを整えた。

     今夏以降、京家には府内や近隣県から子連れ客が再び訪れるようになり、あえて受け入れ客数を減らしてはいるものの、稼働率は8~9割を維持。「あの時、思い切って決断してよかった」と大友社長は振り返る。京家を担当する京都中央信金駅前支店の志賀紀之支店長は「お客さんに寄り添って、支えるのが私たちの役割だ」と強調する。

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     新型コロナの感染拡大で人の移動や会食の自粛が広がり、最も直接的な影響を受けているのが飲食・宿泊業だ。中小零細の事業者も多く、信金の取引先は少なくない。編集部は20年3月期の各信金のディスクロージャー誌を基に、貸出金業種別内訳で貸出先数を開示している全国211信金を対象として、各信金の貸出先のうち飲食・宿泊業の貸出先数がどの程度の割合を占めているのかを調べた(表)。

     個人や地方公共団体を除く事業性の貸出先数のうち、飲食・宿泊業の貸出先の割合が最も高いのは、営業エリアに温泉地を多く抱える利根郡(群馬)の16・9%だった。4位の高山(岐阜)など飲食・宿泊業の割合が高い信金は地方の観光地に目立ち、観光産業が傾けば地域経済に大きな打撃となる。信金には資金の融通だけでなく、次の成長に向けた幅広い取引先の支援が必要となる。

    北見(北海道) 木材、ホタテ……地元産品に付加価値

     北海道の3分の1の面積を営業エリアとする北見市の北見信金。林業の盛んな津別町、ホタテ養殖で有名な常呂町(ところちょう)など、地域によって主要産業は異なるが、ここにもコロナ禍の影響が現れている。津別町では海外輸出用の梱包材の需要がなくなり、木材の在庫が積み上がる。生産量の7割を欧州や中国に輸出してきたホタテ貝も、輸出の停滞で出荷が落ち込んでいる。

     津別町の木材製品メーカー、加賀谷木材は、緊急事態宣言による休校で夏休みが短くなったことで、子ども用工作キットの注文が半減。崎陽軒(横浜市)の「シウマイ弁当」などの駅弁容器、すし折の包み紙に使われる経木(きょうぎ)(スライス状の木片)も、需要が完全には戻っていない。北見信金の営業担当者は、大人用の工作キットや経木を使ったランプシェードなど新商品の開発支援に力を入れる。

     水産加工会社では、殻むきの担い手である中国からの外国人技能実習生が途絶えて人手不足も深刻だ。北見信金では、ハローワークの求人票の書き方や勤務条件の調整といった支援に加え、国内向けの新たな販路開拓も検討。岡村勝英・地域金融支援部長は「北海道が得意とする産業は、景気変動の影響をもろに受ける。安定した利益を得られるような新商品の開拓や高付加価値化の手伝いをしていきたい」と話す。

    観音寺(香川) 恩返しの花火700発 特産「ご当地鍋」も考案

    香川県観音寺市の夜空に打ち上げられたシークレット花火 観音寺信用金庫提供
    香川県観音寺市の夜空に打ち上げられたシークレット花火 観音寺信用金庫提供

     香川県観音寺市内を流れる財田川の上空に8月15日、700発の花火が打ち上がった。このエリアを地盤とする観音寺信金が、コロナ禍で元気を失っている地元の人々を励まそうと企画したシークレット花火。夏祭りなどの中止によって浮いた協賛金を利用し、当日は多くの信金職員が現場で交通整理も担った。須田雅夫理事長は「地元があっての観音寺信金。恩返しの思いを込めた」という。

     観音寺信金はユニークな地元産品のPRでも注目を集める。カタクチイワシを使ったいりこだし、地元のみそ蔵「イヅツみそ」の甘口の白みそをベースに、シャキシャキとした歯ごたえが人気のロメインレタスやかまぼこなど、特産品を煮込んだ鍋を昨年考案し、「天空の七宝鍋」と命名。地元の居酒屋など飲食店10店舗以上がメニューに取り入れ、観音寺の「ご当地鍋」として定着しつつある。

    「天空」は、標高404メートルの穂積山の頂上に本宮がある高屋神社の「天空の鳥居」から取った。「七宝」は、弘法大師が「七つの宝」を埋めたとされる地元の「七宝山」にあやかった。観音寺信金は地元の食品企業を集めた「おいしいかんおんじ物産展」も昨年から開催。「一体、何が本業なのか分からなくなってきた」と担当職員は笑う。

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     新型コロナ対策として政府が実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を始めたこともあり、資金繰りに悩む事業者から金融機関へ融資の申し込みが殺到している。信金中央金庫地域・中小企業研究所によると、貸出金は今年4月以降、急速に伸び、信金の貸出金残高の伸び率は8月、前年同月比7・2%増と銀行(6・9%増)を上回った。給付金などでしのいでいた中小・零細事業者の資金繰りが厳しさを増しているとみられる。

     地域金融に詳しい江戸川大学の杉山敏啓教授は「コロナ禍で『信金は地元にとってなくてはならない存在』という認識が広がった」と指摘。収益環境が一層の厳しさを増す中、取引先の選別を進めていく地銀と、非営利の協同組織金融機関として地域を支える信金の役割分担が今後、さらに明確になっていく可能性があるという。いかにして地域を支えるか、今こそ信金の真価が問われている。

    (市川明代・編集部)

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