「コロナ倒産」から日本の中小企業を救う救世主は「信金・信組」という驚きの理由
東京商工リサーチによると、今年1~8月に全国で休廃業・解散した企業は前年同期比24%増の約3万6000件(速報)と、通年で過去最多に迫るペースだ。
もともと廃業を考えていた経営者が、新型コロナウイルス禍で継続を断念するケースが多いとみられ、同社は「今後は事業承継やM&A(合併・買収)の支援が信金の最も重要な仕事になる」と指摘する。
4年ほど前からM&A支援に力を入れてきたのは、大阪市と神戸市の間に93店舗を持つ兵庫県の尼崎信金だ。
17年度に5件、18年度に2件、19年度は8件の成立実績がある。
象徴的なのが、17年にM&Aが成立した運送会社。
長年黒字を続けながら後継者難から廃業を考えていた社長は、「面倒なことはしたくない」と、M&Aに全く関心を示していなかったという。
「こういう企業ほど、『他人に迷惑をかけないうちに』とあっさりやめてしまう」と尼崎信金の担当職員。
ただ、この運送会社は地域の信用ばかりでなく12人の雇用も抱えている。
担当職員が何度も足を運んで事業継続の意義を訴え、タイミングを見計らって譲渡価格の試算だけでも、と促した。
予想を上回る評価の高さに驚いた社長は、ようやく重い腰を上げたという。
M&Aでは一般的に、「買いたい企業」は積極的だが「売りたい企業」は情報を出したがらず、日ごろから経営者と膝をつき合わせている信金の役割は大きい。
尼崎信金は「買い」「売り」の対象企業をデータベース化し、成立の可能性のありそうな案件をプロの仲介会社に引き継いでいるが、「仲介会社に丸投げせず、最後まで気持ちに寄り添う姿勢が重要だ」という。
信金中央金庫と子会社の信金キャピタルは今年4月から、インターネット上でM&Aの相手先を紹介するトランビと連携し、全国の信金の取引先の中から売買の相手探しをする仕組みを開始した。
今後、地域の枠を超えた取り組みが進んでいきそうだ。
柏崎は「経営ゲーム」
事業承継を成功させるうえで重要なのは、経営者の立場になって考えることだ。
新潟県の柏崎信金の山田秀貴・地域支援室室長は、職員が経営者の気持ちに寄り添い、より実効性の高い提案ができるようにと、経営を疑似体験する「経営シミュレーションゲーム」を開発した。
紙のシートとサイコロを使った簡単なゲームだが、仕様は本格的だ。
職員が1~5人で1チームを組み、5工程からなる工場を20日間運営。
サイコロを振って出た目を受注量とし、在庫調整や従業員の雇用をしながら生産目標の達成、売り上げアップ、増益を目指す。
「判断を誤ると、会社は簡単に傾いてしまうと分かる。ゲームを繰り返すことで、経営者の視点に立って物事を考えられるようになる」と山田室長。
支店同士の交流にもつながり、マッチング事業なども生まれ始めているという。
(編集部)
(本誌初出 廃業を防げ! 尼崎信金がM&A積極支援 対象企業をデータベース化=編集部 20201117)