高野雅彰 DG TAKANO代表取締役 蛇口に付ければ9割節水
蛇口から出てくる水を玉状にして、マシンガンのように汚れに打ち付けて洗い落とす。節水ノズル「Bubble(バブル)90」を世界に売り込む。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)
水道の蛇口に取り付けるだけで、従来の10分の1の水量でより高い洗浄力を得られる節水ノズル「バブル90」を開発・販売しています。
蛇口をひねると、水は柱状になって出てきます。最初の水は汚れに直撃して洗い落としますが、すぐに表面に水膜ができるので、後から出てくる水は汚れに当たらず、膜の上を滑り落ちていきます。バブル90は水を空気を含んだ玉状にして、マシンガンのように途切れなく飛ばすので、全て汚れに直撃します。
これは「脈動流」といい、半導体の洗浄などに使われています。ノズルの構造だけで脈動流を作り出せる点が評価され、2009年の「“超”モノづくり部品大賞」(モノづくり日本会議など主催)で最優秀を獲得しました。
一人一人の夢をかなえる
飲食店のオーナーは、「使い始めて、水道代が安くなった」と喜んでくれます。1カ月に5000個ほど売り上げてきました。新型コロナウイルスで飲食店が営業を自粛し、売り上げも一時ストップしましたが、代わりにスーパーなどでニーズが高まっています。
実家は東大阪の町工場です。父はガスコックを作る切削加工の職人で、高い技術力を持っていますが、もうからないのが下請けの宿命で、生活は徐々に苦しくなりました。自分の人生は自分でコントロールしたい。そう考え、最初から3年で辞めて独立する前提でIT業界に就職し、営業経験を積みました。
私にとって「会社」とは、「自分一人の努力ではかなえられない夢を、かなえたい人たちが協力し合ってかなえる場」です。でも多くの会社は、そうはなっていない。ならば、自分で作ってやろうと思いました。どうせやるなら、世界で売れる商品を作りたい。下町の町工場のような下請けではなく、自社工場で最終製品を作りたい。そこで着目したのが、節水商品でした。世界中で、水不足が深刻化しています。日本のものづくりの会社が本気で作れば必ず売れると思いました。
水と空気の境界面を連続して汚れに当てることができれば、洗浄力が高まるはず。あとは、水と空気を混ぜ合わせて、いかに効率よく水の玉を作り出すか。設計図を描いて、実家にあった工作機械を使って、父の手も借りながら何千回と試行錯誤を繰り返しました。
最初に持ち込んだのは、09年3月にドイツ・ベルリンで開催された水ビジネスの展示会です。世界各国から反響がありました。帰国後、日本で部品大賞をもらって自信を深めました。ところが最初は全く売れませんでした。日本は水に恵まれていることもあって、節水に関する意識が低いと気付かされました。
営業チームを作って飲食店を回り、飛び込みで「2カ月試してください」と頭を下げて回り、ようやく注文が入るようになったのです。
目標は、あくまでも「一人一人の夢をかなえる会社」です。バブル90はその一つに過ぎません。日本で起業するには、経営を学んで、人を採用して、組織作りをして……と、全てゼロからやらなきゃならない。私も苦労しました。なので、全く新しい事業を始めたい人にも、ぜひ当社に入ってきてほしい。うまくいったら、独立してもらって構わないのです。(挑戦者2020)
企業概要
事業内容:節水システムの開発・製造・販売、ビジネスデザイン
本社所在地:東京都台東区
設立:2010年9月
資本金:1000万円
従業員数:20人
■人物略歴
たかの・まさあき
1978年大阪府生まれ。神戸大学経済学部卒業。シンガポール国立大学(NUS)リー・クアンユー公共政策大学院Exclusive Business Programme 卒業。2010年ベンチャー型事業承継モデルでDG TAKANO設立。14年に節水システム販売のDG SALES設立。42歳。