国際・政治

受験生の感染状況をモニタリング、感染者は病院で受験……日本とは似て非なる韓国の大学入試とコロナ対策

校舎の入り口で、体温のチェックを受ける生徒=韓国・ソウルの徳寿高校で2020年5月20日、渋江千春撮影
校舎の入り口で、体温のチェックを受ける生徒=韓国・ソウルの徳寿高校で2020年5月20日、渋江千春撮影

コロナ感染拡大の第3波がいよいよ笑えなくなってきた。

政府はGoToキャンペーンの一部制限を決定したが、「もっと抜本的な対策をとらなければ近いうちに医療崩壊する」という懸念の声も医療現場からあがっている。

そんな中、大学入試の実施方法とコロナ対策が議論になっている。

日本では今年度から従来のセンター入試にかわり「共通テスト」が導入されるが、無症状感染者は別室で受験するなどの対策がすでに決定されている。

一方、日本以上の学歴社会と言われる韓国ではまた違ったコロナ対策が取られているという。

反日韓国という幻想』などの著書でも知られる、毎日新聞論説委員の澤田克己氏のリポートをお届けする。

「修能」はもはや韓国の国民的な行事

韓国でも新型コロナウイルスの感染者が急増し、本格的な「第3波」を迎えようとしている。

11月半ばまで1日に100人台だった感染者数が200人台、300人台と増えていき、各地での数十人規模のクラスター発生が重なった26日には583人に達した。

そんな中で国民的な関心を集めているのが、12月3日に迫った大学入試の統一試験「修能(大学修学能力試験)」だ。

奇しくも感染者数が跳ね上がった26日は修能の1週間前で、この日に記者会見した兪銀惠(ユ・ウネ)教育相は「私たち全員が受験生の親になった気持ちで、今日から1週間は(会食などの)親睦活動を控えて」と国民に訴えた。

「タマネギ男」曺国(チョ・グク)前法相の事件が影響?

韓国は教育熱心で、学閥が大きくものを言う社会だけに大学受験は国民的な関心事だ。

試験会場に向かう受験生の邪魔にならないよう企業や官公庁が始業時間を1時間遅らせたり、英語のヒアリング試験中は航空機の離着陸を制限したりという光景が毎年の定番となっている。

韓国では国公立だけでなく、私立大学の受験も全面的に修能を使う。

基本的に二次試験はないので、修能の成績はきわめて重要だ。

最近はAO入試の増加によって修能の重要度は低下傾向にあったのだが、日本でも昨年大きく報道された曺国(チョ・グク)前法相の娘の推薦入試不正疑惑を受けて事態は一変。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領の鶴の一声もあって、今年の入試では各大学が一斉に修能重視に回帰した。

曺国元法相(共同)
曺国元法相(共同)

今年の受験生は突然の変更に翻弄された揚げ句、コロナにも振り回されたことになる。

この辺は、センター試験から新しい試験に切り替わり、英語の民間試験や記述式の導入が直前になって見送りとされた日本の受験生と同じだろう。

大学入試でも徹底した感染対策をとる韓国

国民的な関心事だけに、韓国政府の対策は徹底している。

感染する受験生がいることは織り込み済みで、入院先の病院や軽症者用施設で受験できるようにする。

学校を視察した文在寅大統領(共同通信)
学校を視察した文在寅大統領(共同通信)

濃厚接触などで自宅待機が求められている受験生は、別室で受験させる。

自宅から試験会場まではマイカーで来てもらうことにしているが、家に車がない受験生には救急車を手配するという。

試験直前に発症したり、濃厚接触者となったりするケースも想定。

修能前日には保健所でのPCR検査を受験生最優先とし、保健所の業務時間も延長する。

とにかく試験が始まるまでに感染しているか確定させ、適切な場所で受験させようというのだ。

韓国政府はそのため、数週間前から受験生の感染状況をモニタリングしている。

兪教育相によると26日現在、受験生49万人のうち感染者21人、自宅待機144人が確認されている。

感染者が受験するための病床は172人分、自宅待機者の受験用には784会場で計3800人まで対応できるよう準備しているそうだ。

韓国政府はさらに、すべての高校を1週間前から完全リモート授業に転換させた。

学校を閉じても塾に行ったら意味がないので、塾にも同じ期間は完全リモート授業にするよう要請。法的に強制する権限はないものの、感染者を出したら塾の名前を公表すると協力を迫った。

国際社会に向けて韓国がアピールする「K防疫」

韓国は春先の第一波をうまく抑え込んだことで、自国の感染対策を「K防疫」と名付けて国際社会にアピールしている。

それだけに試験会場でのクラスター発生も、あってはならないことだ。

そのため試験会場に使われる教室は、「密」を避けるため昨年より50%多い3万1459部屋を使用。さらに受験生が使う机にはアクリル板の遮へい版を設置するという。

準備のため、会場に使われる学校は試験1週間前から全面リモート授業になった。

もちろん受験生は入室前に検温が義務づけられる。

ソウルなど多くの地域が既に氷点下の最低気温という冷え込みに見舞われているが、休み時間には必ず換気。

昼食は持参の弁当を各自の席で静かに食べることとされ、昼食の時以外はマスクを着用しなければならないという。

日本の感染者数は、韓国の数倍で推移している。

受験生の中での感染者や自宅待機対象者も同じ割合で出るとすれば、かなりの人数になるだろう。

コロナ「第3波」の中での韓国の統一試験は、来年1月に大学入学共通テスト(旧センター試験)を実施する日本の参考になりそうだ。

最後のセンター試験で開始時間を待つ受験生ら=東京都文京区の東京大学で2020年1月18日
最後のセンター試験で開始時間を待つ受験生ら=東京都文京区の東京大学で2020年1月18日

澤田克己(さわだ・かつみ)

毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数

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