週刊エコノミスト Online 根拠なき株高の裏側
29年ぶり株高の裏で暴落にかけたETF「ダブルインバース」が果たした“いびつな役割”
世界的に株価が上昇している。米大統領選でバイデン氏が事実上の勝利となり、早期に追加の経済対策が期待できそうなことや、新型コロナ感染症のワクチン開発成功の報道、世界的な金融緩和もある、なかでも上昇力が強いのが日本株。しかし、ここにいびつな価格形成が起きている。
29年ぶりでもTOPIXが上がらない怪
日経平均株価は11月に入って3000円を超える上昇となり、29年ぶりに2万6000円を更新した。しかし、全銘柄の値動きを示すTOPIX(東証株価指数)はようやく2020年初の高値を抜けたところに過ぎない。つまり225銘柄で構成される日経平均だけが上昇するという“いびつ”な価格形成が起きているのだ。これはなぜか。
下落率の2倍もうかる投信
実は今回、日経平均を上昇させた主体がある。それは、先行き弱気とみた投資家の“買い”だ。株価の急落を予想している投資家たちで、彼らの投資先の代表例がNF日経ダブルインバースというETF(上場投資信託)だ。
この商品は日経平均が下がれば、その下落率の2倍もうかるように設計された商品だ。
5億口を突破
一般の企業の株式と違い、大口投資家の買いに合わせて口数を増やすことができ、直近で5億口を突破している。市場関係者によれば10月末には4億口強だったとされ、1カ月で1億口が増えた計算だ。
これは日経平均の突然の急上昇を一時的とみて買いを入れた投資家が多いということを意味している。
同様のETFはNFダブルインバースを含めて4種類存在する。関係者によればこの4種合計の先物の売り(日経平均の下落にかけた売り)は3万枚に達しているとみられる。(1枚は日経平均先物の最低取引単位で、日経平均株価の1000倍)
ダブルインバースの売りが相場の上げを加速
しかし、思惑とは逆に日経平均が急上昇したために、損失覚悟の売りを出せば、日経平均先物に買い戻しが入るという皮肉な現象が起きる。つまりダブルインバースの投資家の売りが「日経平均の相場の上げを加速」したわけだ。
買い余力でさらに上値を追う展開も
NF日経ダブルインバースの最高値は2014年10月の5700円。これが今年12月1日には521円という上場来安値を付けた。日経平均が上昇したから機械的にダブルインバースの売りが加速したともいえる。
実は日経平均の信用買い残高(まだ決済されずに残っている株数)はピークからは減少したものの、依然1億1119万口が残っている(11月25日現在)。
いまなお、先物の買い戻し余力があるとみられるのだ。つまり、さらに日経平均が上値を追う原因をつくる可能性もあるということだ。
日経平均だけ上昇している相場
前述したとおりで東証の全銘柄の値動きを示すTOPIXの11月20日の終値は1786ポイントと、2018年1月の高値1911ポイントにすら届いていない。日経平均だけが上昇している展開である。
本来、日経平均という指標が急騰すれば、相場には過熱感が出てくる。しかし、相場全体にその過熱感はない。
過熱感を示すテクニカル指標に騰落レシオがある。これは25日間の各日の値上がり銘柄数の合計を、値下がり銘柄数の合計で計算するものだ。120%、130%を超えると過熱を示し、70~80%で売られ過ぎを示す。
しかし、日経平均が2万6000円に乗せた11月17日の騰落レシオは94.6%である。
過熱感がないばかりか、値下がり銘柄の方が多いことを示す100未満にとどまっている。
誰が株高の恩恵に浴したのか?
このいびつな株価形成は、TOPIXが日経平均を追随して相場全体が上昇することで解消されるのか。あるいは日経平均の急落という形で修正されるのか。それは誰にもわからない。
確実にいえるのは、日経平均株価の上昇ほど、投資家は株高の恩恵に浴してはいないということだ。
(和島英樹・ジャーナリスト)