米国初の「働くファーストレディ」ジル・バイデンが米国で絶賛されるワケ
12月14日に行われた選挙代理人による投票で、ついにジョー・バイデン氏が米国の次期大統領に正式に決定した。11月に誕生日を迎えた78歳は、米国史上最高齢の大統領となる。 選挙戦の間、この認知症疑惑を持たれる次期大統領は些細な言い間違えが多かった。それを横から支え、時には訂正し、存在感を示してきたのが今回ファーストレディとなるジル・バイデンさん(69)だ。
今回の選挙では副大統領候補となったカマラ・ハリス氏にスポットライトが当たりがちだったが、ジルさんもある意味で非常に興味深い人物である。
再婚同士のバイデン夫妻
バイデン夫妻は共に再婚同士。ジョー氏の最初の妻は二人の子供と共に事故死、ジルさんは最初の夫と離婚しているが、2人が出会ったのはジルさんがまだ離婚する前で、それからの離婚となったため揉めにもめて裁判所で争うことにもなった。
ちなみに中国やロシア・ビジネス疑惑が持ち上がっているバイデン夫妻の息子、ハンター氏はジョー氏の最初の結婚での子供で、ジルさんはハンター氏を実の息子のように育てた。ジョー氏とジルさんの間には娘が1人生まれている。
子育てしながら通学する美貌のモデル
学生時代にはモデルもしていたジルさんはその美貌でも知られるが、教育学で博士号(Ph.D)を持っている。
子育てしながら大学に通い修士号を取得、その後コミュニティカレッジなどで教鞭を取りながら再び大学院に戻り、55歳でPh.Dを取得した努力家でもある。
副大統領夫人でも教師を続けた「ワーキングウーマンの鑑」
ジルさんがPh.Dを取得したのは2007年、翌年から副大統領夫人、すなわちセカンドレディとなった。
このときジルさんは「教師であり続ける」と宣言し、実際に首都ワシントン地域のコミュニティカレッジに就職を打診、准教授として主に英語を教えることになった。
セカンドレディが外で給与を受ける仕事をする、というのは前代未聞の出来事で、ワーキングウーマンの鑑、と女性団体から絶賛された。
ミシェル・オバマと対照的
これは同じく有能な弁護士であったファーストレディ、ミシェル・オバマさんがキャリアを捨てて専業主婦となり、ホワイトハウスで家庭農園を作って地域の子供の食育を考える活動などに乗り出したのとは対照的だった。
また今回初の「セカンドジェントルマン」となるハリス氏の夫、ダグ・エムホフ氏も弁護士だが、同じく職を辞して妻のサポートに務める、という決意を表明している。
ホワイトハウスから大学に通勤するファーストレディになる
このように徹底して自我を通すジルさん、今回も「ホワイトハウスから北バージニア大学に通勤する」と早くから語っていた。セカンドレディ時代、勤務を続ける、というジルさんに対し周囲は無理だ、と説得したが「私は2つの仕事をこなせる」と押し切った。
もちろんセカンドレディとファーストレディでは警護などの体制も異なるため、勤務を続けるのは以前より困難かもしれない。
しかし米大学の歴史学教授、女性権利団体などは「実現すれば女性もこれだけのことが出来る、21世紀の新しいファーストレディ像を人々に示す存在になる」と期待を寄せている。
ウォール紙は“ガキ”と批判
一方でジルさんを巡る論争も起きている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は保守系作家、ジョゼフ・エプスタイン氏の論説を掲載したが、その中でエプスタイン氏はジルさんに対し「ドクターという呼称を落としてはいかがか」と呼びかけた。これはジルさんが自らの紹介として「ドクター・ジル・バイデン」を名乗っていることを批判したものだ。
「マダム・ファーストレディ、バイデン夫人、ジル--kiddo (ガキ、というような意味合いを持つ)」で始まる論説は、バイデン氏側のスタッフから「女性差別と偏見に満ちている」と反論され、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への謝罪が要求されたが、同紙は現時点でこれに応じていない。
ツイッターで反論
要するにファーストレディという肩書だけでも大層なのにそこにドクターを付ける必要があるのか、一般の人々はドクターと紹介されれば医師を連想する、誤解を招くのでわざわざドクターと名乗る必要はない、というものだが、これが掲載された日ジルさんは「私達の娘達が達成したことがもみ消しにされず祝福される社会を共に築きましょう」とツイートした。
旧態の米国をあぶりだした博士号論争
これをきっかけに「博士号を持っていても女性だとMSあるいはMRSという肩書で紹介されることが多い」「なぜドクターと名乗ることがおかしいのか」という女性やリベラル派の意見が出る一方で、保守的で男尊女卑な空気が米国にはまだまだ残されていることも浮き彫りになっている。
「新しい21世紀の女性像」
こうした背景も踏まえて働くファーストレディへの期待感は一部で非常に高まっている。要職の夫を支えながら自らの姿勢を貫くカッコいい女性として、また副大統領となるカマラ・ハリス氏と合わせて「新しい21世紀の女性像」として、ジルさんへの注目は今後ますます高まりそうだ。
(土方細秩子・ロサンゼルス在住ジャーナリスト)