トランプもバイデンも反中は「ただのポーズ」? コロナと米中貿易戦争をよそに米中貿易が急回復しているワケ
新型コロナウイルスは欧州を中心に猛威を振るっているが、英仏では感染にスローダウンの端緒がうかがえるようになった。
緊急性の低い患者を入院させないことにより、第1波に比べて病院のベッド数や集中治療室数に余裕のある国が大半であり、その分、致死率も低い。
始まったロックダウン(都市封鎖)もビジネスや生産には極力規制をかけない形で、多くの感染者を出しながらも生産サイクルはこれまで通り増産を志向していくものと考えられる。
かくして今は、欧州経済に関心が向かいがちではあるが、実際の世界経済をけん引しているのは中国、次に米国である。
その様子は日本から各国への輸出統計が視覚的に素早く示してくれる。
図1を見ると、対中輸出は一番に回復したばかりか、史上最高値に迫るところまで増加し、対米輸出は深い谷を刻んだものの、急速に盛り返している。
これら2国に比べると、欧州や東南アジア諸国連合(ASEAN)への輸出は道半ばである。
では、なぜ米中経済が強いのか。
どちらも大国だが、コロナウイルスに関しては対照的な状況にある。
強力なマイクロロックダウン(感染街区ごとの隔離)などによって累積感染者数で日本を下回った中国と、マスクすら政争の具となり大統領まで感染してしまった米国とでは、状況が違いすぎる。
「第1段階合意」契機に
あまり知られていないが、実は昨年末の米中「第1段階合意」によって、米中間の相互貿易が急速に回復したことが大きい(図2)。
貿易戦争はなかったかのような回復ぶりだ。これによって米国の輸出全体も急回復しているのだ。
報道は、トランプ政権の選挙目当ての過激な反中姿勢にあおられて、米中の表向きの対立に目を奪われがちであるが、現実の外交はもっと奥深い。
裏でこっそりと実利が追求されることもあり、それが2大国の経済ダッシュに貢献しているのである。
次期米大統領は執筆時点ではまだ確定していないが、日本では仮にバイデンになっても反中姿勢は続くという言説が主流である。
しかし、バイデン外交チームとして名前の出るトニー・ブリンケン、ミシェル・フロノイ、スーザン・ライス、アブリル・ヘインズなどは、みな対中関係重視だったオバマ政権の元スタッフである。
イラン核合意締結はじめその実績は国家間の合意の追求にあり、是々非々で進む外交チームとなる可能性が高い。
日米豪で組んで対中包囲、というような概念固執型の外交では、有為転変の国際政治において足元をすくわれるのではないかと心配している。
(藻谷俊介、スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役)
(本誌初出 「反中姿勢」の裏で急回復の米中貿易=藻谷俊介 20201124)