世界の巨大ベンチャーマネーも注目!日本のスタートアップで新しい日常を見せる15社
これまでの価値観が通用しなくなった2020年だが、スタートアップ(起業)では勝ち負けが鮮明に出る年となった。領域によって流行り廃りはあるものの、起業そのものに対するノウハウ、資金援助の仕組みも整ってきたことから、21年はスタートアップ全体として、さらなる成長の年になると見る。特に、コロナ禍で「ニューノーマル(新しい日常)」という言葉が注目されるようになった。21年は、このニューノーマルを推進するためのサービスが増えるだろう。
ふるい落とされたAI、D2C
昨年まで上り調子だったインバウンド(訪日客)周辺事業がコロナで苦境にあるほか、RPA(業務自動化)、AI(人工知能)、メーカーが自社で企画・製造した商品を、自社のEC(電子商取引)サイトを用いて直接消費者に販売するD2Cの領域でも淘汰が始まっている。特にAIの領域では、新技術の導入に慎重な日本企業の姿勢とも相まって、技術力がありながら事業としての伸び悩みが露呈、資金繰りに行き詰って事実上の解散となったスタートアップも少なくない。D2Cも参入のしやすさから競争が激化。製造ラインの確保や管理が追いつかず、ファッション系などを中心にふるい落としが始まっている。
人事管理をクラウドで提供する成長企業
一方で、コロナ禍をリモートワークで乗り切った経験から、SaaS(ソフト機能の提供サービス)やECといった事業は全般的に好調だ。必要な機能を必要な分かつ必要な期間だけサービスとしてインターネット越しに利用できるようにしたソフトウェアやその提供形態の総称をSaaSというが、これまでセキュリティー上の理由でSaaS導入が進んでいなかった大企業なども、導入障壁は一気に下がっている。
クラウド型人事・労務管理システムを提供する「SmartHR」を筆頭に、企業の基幹業務を支えるBtoB(企業間取引)のSaaSを提供するスタートアップへの期待が高まっている。
上場するスタートアップも、業務支援ソフトを提供する「rakumo」やウェブサイトにおけるCX(顧客体験)の分析支援サービスを提供する「プレイド」など、特にSaaS系が多い。
微細藻類を食品・医薬・燃料に応用するバイオテック
SaaS以外で今後、盛り上がると思われるのは、バイオテックやロボティクス、量子コンピュータ、サーバー・計算系技術、宇宙領域などの「ディープテック」と呼ばれる分野だ。
バイオテックでは、数千種類の微細藻類の株から特定の機能性を持つ成分を効率的に生産して、食品、医療、燃料などの分野への応用研究を行っている「アルガルバイオ」が注目される。
量子コンピュータ、計算系技術の注目企業
量子コンピュータでは、同技術をビジネス利用するためのソフト開発を行う「エー・スター・クォンタム」、サーバー・計算系技術では、AI学習の演算処理で非中央集権型アーキテクチャ(一つのサーバで中央集権的に処理するのではなく複数のサーバで分散処理する方式)の開発に取り組む「オルツ」や、一時的に高度の計算処理が必要になる際に、外部から処理リソースを提供する「モルゲンロット」、日本発のクラウドスーパーコンピューティングとして高速計算サービスを提供する「エクストリーム-D」などの名前が挙がる。
ファミマが導入する遠隔操作ロボ
ロボティクスではファミリーマートへの導入も予定されている遠隔操作ロボットを開発する「テレイグジスタンス」、宇宙領域では衛星の開発・運用や衛星データ解析を行う「シンスペクティブ」などが注目される。
まだ無名だが「ジーマックスメディアソリューション」もチェックすべきスタートアップだ。主力製品は監視カメラシステムだが、AI(人工知能)や画像処理技術のほか、動画データの圧縮技術やサーバー・ネットワーク技術のレベルが高く、導入先が広がっている。
服薬指導サイト、女性のヘルスケアも注目
オンライン診療や、女性の健康に重点を置くソフトウェアやサービスを提供するフェムテックの領域も注目したい。
遅々として進まなかったオンライン診療の社会実装も、コロナ禍が追い風となり岩盤規制に風穴が開いた。
オンラインによる服薬の指導を展開する「ミナカラ」は今後の成長が期待される。フェムテックについても、「女性の社会進出」がようやく実態をともなってきたことによって、乳がん検査装置を開発する「リリーメドテック」のような、女性のヘルスケア、ライフスタイルをテクノロジーでサポートするスタートアップが伸びている。
2021年9月のデジタル庁(仮称)発足が決まり、行政業務のIT化や行政によるスタートアップ支援の意欲が明確になるなか、行政サービスのDXを手がける「グラファー」など既存のスタートアップが勢いを増すだけでなく、新しいスタートアップの誕生にも期待が高まる。
海外のベンチャー資金も日本に注目
最近は、海外のベンチャーキャピタル(VC)も、日本発のスタートアップに注目しはじめている。
たとえば、世界最大規模のVCであるセコイア・キャピタル(セコイア)が日本での投資を本格化しており、20年10月には建築・建設現場向けの施工管理サービス「アンドパッド」が、セコイアなどを引受先として20億円の資金調達を実施している。
「金あまり」で企業内VCも増加
「金あまり」の状況から投資先を求める企業内VC(CVC)やVCも珍しくない。この数年で企業内VCの数はより増えている。自己資金投資だけでなく、他社からの資金によるファンド設立も増えており、一定量の資金供給が確保されている状況だ。
しばらくは資金調達の観点でもスタートアップの活況は続くだろう。
企業側の目利きが不足
スタートアップはおおむね明るい状況にあるのだが、懸念されるのは「投資する側」の課題だ。
たとえば、増加する企業内VCに対して、スタートアップの将来性を見抜き、実際に投資業務を担うベンチャーキャピタリストの人数が追いついていない問題が浮き彫りになってきた。 腕利きのキャピタリストの不在は、さまざまな連鎖的課題を生む原因にもなってしまう。
将来性の目利きの難しさから、投資枠を埋めることを目的にするあまり、成長株のスタートアップや産業に投資が偏りすぎたり、出資先との短期的なシナジー(相乗効果)を作ることの難しさから、連携の評価視点が甘くなってしまった、などの声も聞かれる。
日本のスタートアップが本当に強くなるには、企業側の努力も欠かせない。各企業でキャピタリストの早期育成に全力を挙げて取り組むことは、もはや必須だろう。
(日比谷尚武・kipples代表、VCアドバイザー)