空き家問題が深刻化する日本で「廃虚タワマン」が出現するワケ
空き家問題といえばこれまでは主に「一戸建て」に焦点が当たってきたが、やがて「マンションの空き家問題」が顕在化するだろう。
共同住宅であるがゆえ個人の意思で修繕したり解体したりすることができず、加えて住民の高齢化や賃貸化も進むことで必要な修繕費用も捻出しにくくなるため、ただ朽ち果てていくだけの「廃虚マンション」の出現が社会問題として浮かび上がりそうだ。
国土交通省の「マンションの再生手法及び合意形成に係る調査」によると、築年数が長いマンションほど管理組合の総会決議の投票率が低下し、所有者不明の部屋が発生する割合が高くなる。
住民の高齢化が進めば、大規模修繕のための積立金の値上げや一時金の徴収が困難になる。
多くが定期収入のない年金生活者であることや、高齢で長い将来を見通せなくなっているからだ。
都市計画や不動産が専門の横浜市立大学の斉藤広子教授は「マンションの空き家率が10%未満なら管理組合の対応で何とか問題を表面化しないで進められるが、10%を超えると日常的に管理組合運営が困難となり、20%を超えると長期的な展望も、それに向けた取り組みも難しくなり、負のスパイラルに陥りやすくなる。さらに空き家化が大幅に進むとエレベーターが止まり、ガス・電気・水道も止まり、居住が困難となり、自力での再生は難しくなる」と警鐘を鳴らしている。
より危うい「タワー」
国交省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」によれば、毎月の修繕積立金は、15階建て未満で延べ床面積5000平方メートル以上~1万平方メートル未満の場合、専有面積1平方メートル当たり202円程度を目安としている。
1平方メートル当たり200円なら、70平方メートルのマンションの場合、適正な修繕積立金額は毎月1万4000円。
この水準の積立金を入居直後から払い続けていればおおむね問題ないだろう、というわけだが、大半のマンションはこうした水準に届いておらず、それらは廃虚予備軍といっていいだろう。
ましてタワーマンションは、エレベーターや階段などの共用部分の面積比が大きく、コンシェルジュサービスやラウンジ、スポーツジムなどを併設している場合もあって管理費がただでさえ高めになる。
加えてタワーマンションは、足場を組んでの外壁の修繕が難しいため、ゴンドラなどによる高所作業となり、一般的なマンションに比べ作業効率は悪い。
だいたい風速10メートルを超えると作業は中止となり、工期は長めでコスト高になる。
また、設置されている高速エレベーターなどの設備は、世界に一つしかない特注品で非常に高額であることが多く、修繕や交換には相見積もりが取れず莫大(ばくだい)なコストがかかる。
東京都中央区のあるタワーマンション(築13年)では、大規模修繕に2年10カ月かかり、総額は6億円以上だった。
建物がどんどん劣化していくのに必要な修繕もままならないと、「タワーマンションの廃虚化」が進むだろう。
東京の湾岸地区や、近年開発が著しい川崎市の武蔵小杉に林立するタワーマンション群でも、持続可能なマンションと、そうでないマンションの二極化が始まるだろう。
(本誌初出 マンションの空き家問題が目前に/78 20210119)
■人物略歴
長嶋修(ながしま・おさむ)
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立