国際・政治 チャイナウオッチ 中国視窓
アリババに罰金?中国の巨大IT企業規制がイノベーションを阻害するワケ
中国は2020年12月18日、21年の経済政策の基本方針を決める中央経済工作会議で、大手IT企業を念頭に「独占禁止および資本の無秩序な拡張防止の強化」を重点課題の一つに掲げた。
会議後に公表された声明では「国家はプラットフォーム企業のイノベーション発展、国際競争力の強化を支持すると同時に、法に基づく発展を規範化し、デジタル規則を整備する」と強調。
具体的には「企業の独占認定、データの収集・使用・管理、消費者の権益保護などにおける法律を整備する」との方針が示された。
会議後の12月21日、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は、21年に改正を審議する重点法案として独占禁止法を挙げた。
会議前月の11月3日、上海証券取引所が電子商取引(EC)大手アリババ・グループ傘下の金融子会社「アント・グループ」のIPO(株式新規公開)を延期すると予定日2日前に突然発表したことは、市場で影響力を高める大手IT企業への規制を強める布石だった可能性がある。
注目されるのは、国営新華社が12月18日付で配信した記事『なぜ会議で独占禁止強化が提起されたのか』。
中国共産党は有識者へのインタビュー形式で党としてのメッセージを発信するのが常とう手段。
新華社の取材に対し、中泰証券の李迅雷・チーフエコノミストは「インターネットなどの分野で新たな独占が形成され、一般国民や中小企業の利益が損なわれる可能性を政策面で考慮する必要がある」などと警鐘を鳴らした。
中国国際貿易促進委員会研究院の趙萍・副院長も「市場の支配的地位を乱用し、不合理な取引条件を設けて暴利を得た行為は徒花(あだばな)に終わるだろう」と強調。
事実、規制当局は12月30日、不当な価格操作を理由にアリババなど3社に罰金を科すことを決定した。
ただし、こうした政府の動きは中国に限ったことではない。
欧米では「GAFA」(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に代表される巨大IT企業への監視や規制が強まりつつある。
昨秋以降には反トラスト法(独禁法)違反の疑いで、グーグルやフェイスブックが米当局から相次いで提訴されている。
日本でも取引条件開示などの義務を定めた「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が今春にも施行される見通しだ。
技術革新阻む?
こうした背景にあるのが、市場寡占に伴う不公平な競争などの弊害であるが、中国では民間企業に対する規制が強まることで、イノベーション(技術革新)が阻害されるのではないか、といった懸念も出ている。
独禁法の本来の趣旨は、イノベーションの停滞を防ぐために競争的な市場環境を構築することにある。
他方、イノベーションを促進するには、権利者に独占的排他権を付与する知的財産権法も必要不可欠であり、両法は相互補完的関係にある。
中国では21年6月より、侵害行為に対する懲罰を強化した改正専利法(特許法に相当)が施行される予定だ。
その両輪となる独禁法の改正に向けてどのような審議が行われるのか。
中国が発展をけん引する第一の原動力と位置付けるイノベーションの行方を展望する上でも注目される。
(真家陽一・名古屋外国語大学教授)
(本誌初出 大手ITへの規制さらに 独禁法改正は吉と出るか=真家陽一