国際・政治日本人の知らないアメリカ

副大統領の歴史から読む「ハリス大統領誕生」の可能性

    カマラ・ハリス米国副大統領(2021年2月4日、ワシントンDCの州務省で講演)bloomberg
    カマラ・ハリス米国副大統領(2021年2月4日、ワシントンDCの州務省で講演)bloomberg

    私たちには理解できない、世界一の超大国アメリカの全貌に迫る「日本人の知らないアメリカ」。2回目は副大統領について説く。

     米国の政治で副大統領の存在感は薄い。

     大統領が党の予備選挙を勝ち抜いて、党公認を獲得するのとは違って、大統領候補が党の全国大会で副大統領を指名するため、その存在は常に大統領の影の存在になる。

     副大統領候補を選ぶ際に考慮されるのは、大統領候補のイデオロギーと選挙地盤である。

     リベラルな大統領候補は中道派や穏健派の人物を副大統領候補に選ぶ。東部に地盤のある大統領候補は、南部に地盤を持つ人物を副大統領候補に選ぶ。

     バイデン候補は選挙運動中、有色人種で女性を副大統領に選ぶと公言していた。

     その結果、副大統領候補に選ばれたのが、カマラ・ハリス上院議員であった。

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    「女性初」は初めてではない

     ただ女性が副大統領候補になったのはハリス副大統領が最初ではない。

     1984年の大統領選挙で民主党のウォールター・モンデール大統領候補によって副大統領候補に指名されたのはジェラルディーン・フェラーロ下院議員である。

     彼女がアメリカ史上最初の副大統領候補である。2人目は、2008年の大統領選挙で共和党のジョン・マケイン候補の副大統領候補になったアラスカ州知事のサラ・ペイリンであった。さらに言えば、女性で最初の大統領候補になったのはヒラリー・クリントン上院議員である。

    最も注目された副大統領の誕生

     おそらく歴代副大統領の中でハリス副大統領は最も注目された副大統領である。

     バイデン大統領の公約通り、ジャマイカ出身の父とインド出身の母を両親に持つ。そして米国で最初の女性副大統領となった。

     そうした話題性に加え、ハリス副大統領は将来の大統領になるのではないかと思われているからだ。

     ひとつは、バイデン大統領が78歳と高齢であり、4年間の執務に耐えられるかどうか不安があるからだ。

     米国憲法の規定(第2章第1条第6項)では、大統領が罷免、死亡、執務不能の状況に陥った場合、副大統領が職務を引き継ぐことになっている。

     あくまで仮の話であるが、バイデン大統領が死亡するか、何らかの理由で辞任した場合、自動的にハリス副大統領が大統領に昇格することになる。

    次期大統領の野心を隠さないハリス氏

     さらに注目される理由は、バイデン大統領は自ら1期限りの大統領であり、自分は次の世代に繋ぐ役割を果たすと語っているからだ。

     その一方で、バイデン大統領の任期が終われば、ハリス副大統領は民主党の大統領予備選挙に出馬するなど、次期大統領に強い野心を抱いている。前回の民主党大統領予備選挙に出馬し、バイデン大統領と座を争っている。

     閣内において、従来の副大統領とは違った役割を果たすのではないかと思われている。

     副大統領が積極的に政策策定に関わることはない。だが、バイデン大統領はハリス副大統領に期待を寄せ、政策に積極的に関与することを求めているようだ。

     バイデン大統領は内閣に「ジェンダー政策会議(Gender Policy Council)」を新規に設置し、ハリス副大統領に統括させる意向を示している。ハリス副大統領も積極的に政策立案に関わり、存在感を強めることで、2024年の大統領選挙を有利に戦えると考えているようだ。

    副大統領の最大の職責は上院議長

     憲法で定める副大統領の最大の職責は、上院の議長を務めることである。

     上院議長は、上院での票決が50対50で割れたとき、最後の1票を投ずる権限を与えられている(これをタイブレーカーという)。タイブレークで副大統領が最後の1票を投じたケースは過去に243回ある。現在の上院の勢力は民主党50議席、共和党50議席であり、ハリス副大統領の果たす役割は極めて大きくなる。

     ただ副大統領の権限は極めて限られていることも事実である。

    影が薄いバイデン新大統領 (Bloomberg)
    影が薄いバイデン新大統領 (Bloomberg)

    大統領との距離は遠い

     長い間、副大統領は上院にあるオフィスに留まることが多く、大統領と直接会う機会は限られていた。

     副大統領がWest Wingと呼ばれるホワイトハウスの西側にある建物に主オフィスを設け、大統領執務室に簡単に訪れることができるようになったのは、カーター政権のモンデール副大統領になってからである。

     米国の映画やテレビドラマで描かれる副大統領は直接大統領に会うことができず、会う場合も事前にアポを取る必要があった。ホワイトハウス内の権力構図は、大統領との距離間で図られる。

     首席補佐官などは自由に大統領執務室に入ることができるが、長い間、副大統領は簡単には大統領に会えなかった。

    原爆計画を知らなかった副大統領

     フランクリン・ルーズベルト政権のトルーマン副大統領(1945年4月12日のフランクリン・ルーズベルトの死去を受けて副大統領から大統領に昇格)は常に蚊帳の外に置かれ、政策策定に関わることはなかった。原爆開発計画(マンハッタン計画)さえ、その事実を知らされてなかった。

     過去最強の副大統領はブッシュ政権(息子)の時のチェイニー副大統領だと言われている。ネオコンを代表する政治家で知られるが、イラク戦争などで政権をリードする役割を果たしてきた。軍事サービス企業ハリバートンのCEOを務めるなど、産業界にも密接な関係を持つ人物であった。

    ロックフェラーが断った副大統領

     副大統領の最大の職務は、大統領継承順位が1位であることだ。フォード大統領に副大統領就任を打診されたとき、ネルソン・ロックフェラー氏は「自分はただ待機しているような職務には向いていない」と最初は断った。

     野心的な政治家にとって副大統領職はそれほど魅力的なものではない。上院議長の職責以外では、大統領に代わって要人の葬儀や様々なイベントに参加したり、海外の要人と面談したり、海外を友好訪問したりするのが主な仕事である。

    無能な副大統領を描いた映画『デーブ』

     映画『デーヴ』(1993年製作)は、病気で倒れた大統領の影武者が大統領に代わって大活躍する内容だが、その中で描かれている副大統領は好人物だが、“無能”である。

     最終的に大統領は死亡し、主人公の影武者はホワイトハウスを去る。その時、副大統領に向かって「あなたは本当は優秀な人物だ。新大統領として頑張ってほしい」といった趣旨の発言をする場面がある。

     ただ最近では、クリントン政権のゴア副大統領、ブッシュ政権のチェイニー副大統領など政権の中枢で活躍した副大統領も出ている。

     ただ、バイデン副大統領が好人物だが、目立った実績を上げてはいない。

    任期途中で大統領になった9人の副大統領

     ハリス副大統領が大統領に就任する可能性があるかどうか、過去の例を見てみる。

     任期の途中で大統領に就任した副大統領は9人いる。前任者が暗殺されて大統領に就任した副大統領は4人いる。

     暗殺された大統領は、リンカーン大統領、ガーフィールド大統領、マッキンリー大統領、ケネディ大統領である。

     病死した大統領はフランクリン・ルーズベルト大統領など4人。

     辞任はウォーターゲート事件で辞任したニクソン大統領1人である。

     仮にバイデン大統領が執務執行不能な状況になれば、ハリス副大統領が、このリストに加わることになる。

    副大統領が次の大統領選に勝つケースは稀

     バイデン大統領が任期を全うし、次回の大統領選挙でハリス副大統領が出馬するとなったら、大統領になる可能性はあるのだろうか。

     これも過去の例を見てみよう。過去に副大統領経験者で大統領に就任した人物は15人いる。その内、上で指摘した任期途中での就任した9人を除くと、6人が大統領選挙を勝ち抜いて大統領に就任したことになる。

     バイデン大統領は46代目の大統領である。確率的にいえば、副大統領を経験して、選挙に勝って、大統領に就任したケースは極めて少ない。

    20世紀でもわずか2人

     さらに絞り込んで、副大統領を経て直接大統領に就任した人物は何人いるのだろうか。

     ワシントン政権のもとで初代副大統領を務めたジョン・アダムス、ジョン・アダムス政権で副大統領を務めたトーマス・ジェファーソン、アンドリュー・ジャクソン政権で副大統領を務めたマーチン・ヴァン・ビューレンの3人である。

     20世紀以降で見れば、ハーディング政権の副大統領であったクーリッジ、レーガン政権で副大統領を務めたブッシュ(父)の2人に過ぎない。 ニクソン大統領も元副大統領であったが、最初の大統領選挙ではケネディ候補に敗れているので、副大統領からすぐに大統領になったわけではない。

     こうした歴史を見ると、副大統領を務めたことは、大統領選挙では必ずしも有利に働くわけではないようだ。

     ハリス副大統領は次期の大統領選挙の目玉であることは間違いないが大統領に当選する確率は必ずしも高くなないようだ。ただ、まだ任期は始まったばかりだ。大きな成果をあげれば、大統領になる可能性も出てこよう。

    (中岡望・ジャーナリスト)

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